私にとってステージに立つことは慣れ親しんだものだ。人前に立つことなど風見家で何度も行い、その立ち振る舞い、心得まですでに熟練しているからだ。
ただステージ上で見える景色だけは、いつ見ても慣れるものではない。
私を照らし出すステージライト、お客さんが掲げるペンライト、視界上に映り込む様々な光が一つの情景を生み出す。これがなんと美しいか。
これがアイドルの特権なのだろう。ここまで歩んでこれたアイドルのみが見ることができる最上の景色。だけど。
私は胸に手を置き、自らの想いを確かめる。
今日の私はこの景色を見るために来たわけではない。
「皆様、ただいま戻りました。……お待ちしていただけましたでしょうか?」
私の言葉に、お客さんが湧く。それに笑みを浮かべると、言葉を続ける。
「本日、この場に来て下さった皆様に最大限の感謝を。そして、そのお礼として私のできる最上のステージをお見せいたします」
立ち位置を整えると、胸を張り手を伸ばす。
「だから見ていてください。私のこの想いを――落涙の夢」
始まったのは疾走感のあるベースと、繊細なピアノの旋律が混ざり合ったJ-POP。ギターが高まるにつれて、会場の空気も高まっていく。
私はマイクを強く握り、歌を奏でる。
『風は止み 運命は通り過ぎた
そのことに気が付くことなく
私の夢は まだ見つからないけど
君が囚われていることは わかっている』
リズムに合わせてペンライトが上下する。まるで一つの生き物となったようなその光景に思わず笑みを浮かびあがる。同時に、彼女も笑顔になってほしいとそう思えた。
いえ、違いますね。だからこそ、私はこの歌に想いを乗せる。
『あのとき君と描いた 未来予想図
覚えていますか
あの約束も』
幼き頃、私と有希が出会ったあの日。なんとなく波長が合った私たちは、皆から隠れるようにそこで遊び、お互いに家族の話だったり、未来の話だったり、取り留めのない事を話していた。この約束もその時に有希と話したことの一つ。
「私はさ、何かに縛られることが大嫌いなんだよね。自由に、私が喜ぶままに生きていたい。だから、もし私が何かに囚われていたら、鏡花が私を救ってよ」
有希はもう覚えていない言葉かもしれない。今の有希からすれば余計な迷惑かもしれない。でも、私に出来た最初のたった一人の友のため、私は私にできることがしたい。エゴイストだと言われようと、それは貫き通して見せる。
『二人の未来に 幸よあれ
世界を照らす 星のように
もし曇り空が君を隠すなら
私が照らし出して見せよう』
曲がエピローグに入る。ここからは歌もダンスも更に難易度が高くなる。だけど、私の中に不安に思う感情は一切なかった。
だってこれは歌ではない。ダンスでもない。ただ偏にあなたに贈るための想いなのだから。
『花はまだ芽吹いたばかり
星には届かないかもしれない
それでも この想いだけは本物だから
風花雪月を越えて 大切な君へ
言葉を届けよう』
曲が一度沈む。だけど、まだ、まだ終わらない。枯れた大地にも草木が芽吹くように、幾度となく踏まれた花でも芽吹く機会があるように、私は古都ことという花を咲かす。
『落涙の夢に 花を乗せ
流る君に 未来を
大丈夫 なんて言葉は言えないけれど』
そして、あなたへ言葉を。約束を守るため、有希に届けたかったこの言葉を届ける。
『あなたの望む未来を見て』
落涙の夢
イメージ 藍二乗