星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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斎木季乃の想い

 

 古都こととYU☆KI★NOのライブバトル。結果は改めて見るまでもなかった。道中の観客の反応、パフォーマンスが私との格差を明確に示していた。

 

 YU☆KI★NO WIN!

 

 ステージ上に映り込むその文字に納得はできた。私には足りなかった。想いという曖昧なものではなく、アイドルとして大切な気持ちが足りていなかった。それを今回のステージで明確に理解させられた。

 

「……」

 

 結果発表を行なったステージから降り、舞台袖でYUKINOの勝利インタビューをじっと見つめる。彼女たちはいつも通り、自然体で受け答えを行っていた。

 

 ……私には資格がなかったのだろうか。有希との約束を果たすには私では役不足だったのだろうか。それともこの考え自体がすでに誤っているのだろうか。

 

 ステージ上から覗いた景色はあんなにも綺麗だった。なのに、私自身は輝いていなかったのだろうか。

 

「私はアイドルに向いていないのでしょうか……」

 

「そんなことないよ!」

 

 つい呟いた声にすぐに言葉が返ってくる。気が付くと芽衣が隣に立っていた。彼女は心配げに目を揺らし私を見つめていた。

 

「鏡花ちゃんは皆を自分のライブで喜ばせたいんでしょ?その気持ちは十分に伝わっているよ。芽衣にもわかるもん」

 

「ですが……」

 

「確かにYUKINOと比べると鏡花ちゃんはまだまだだよ。でもね、ライブってね。そういうものじゃないよ」

 

「そういうものじゃない?」

 

「うん、えっとね。えっと、ライブは私たちがやるものであって、お客さんもそのために居てくれているから。ライブバトルでもそれは一緒だよ」

 

「……?」

 

「うまく言えなくてごめんね!つまり、えっと」

 

 芽衣は一生懸命言葉を探るように頭を揺らし、やがてその言葉が見つかったのかピンッと跳び上がった。

 

「誰かと比べる必要はない、ってこと!鏡花ちゃんは鏡花ちゃんのライブのやり方があって、YUKINOにはYUKINOのやり方がある。比べる必要なんてないんだよ!」

 

 誰かと比べる必要がない。……確かに、ライブバトルとはいえこれは個人技だ。スコアが存在し、勝ち負けが発生している以上、そこに比較が発生するかもしれないが、ライブの本質はそこではない。

 

 何に感動し喜びを得るかは、その人次第だ。そこにスコアも、勝敗も関係ない。

 

 素直に感心した。その言葉ならば私も納得ができる。

 

 自分の言葉にうんうんと一人頷いている芽衣に向かって頭を下げた。大事なことを教えてもらったと思ったから。

 

「芽衣、ありがとう」

 

「えへへ、どういたしまして!」

 

 私より年下だが、頼りになる先輩だ。彼女がいてくれてよかった。

 

 そうこうしていると、ステージ上での勝利者インタビューが終わったらしい。YUKINOの二人もステージを降り、舞台裏にやってくる。

 

 黒い髪を揺らした有希と目が合った。

 

「きょ……あー、こと。まだデビューしたばかりなのに大したライブだったよ」

 

「ありがとうございます。ですが、私自身まだ至らぬと実感させられました」

 

「ことらしいね。でもね、一つだけ言いたかったかな」

 

 彼女はその表情を歪ませ、不気味な狂気じみた笑みを浮かべると、私に向かって言葉を続ける。

 

 

「その程度なんだ?」

 

 

「……」

 

「あぁ不快に思ったならごめんね?私を止めるって言ってたしさ、ことが強い事は知っていたから、もっとやるんじゃないかなぁって思ってたんだ」

 

 有希は変わらない。どこまでも歓喜の笑みを浮かべ続ける。

 

「ま、ライブバトルはいくらでも受けるからさ。挑みたいならまた挑んできないよ。挑む覚悟があるならね」

 

 歪んだ瞳で私を見下ろした後、有希は踵を返し、去っていく。……こういったところの有希はやっぱり変わらない。

 

「むー!ことことちゃん、言い返してよかったのに!」

 

「大丈夫ですよ。芽衣。あれは有希なりの優しさです」

 

「今のが?」

 

「はい」

 

 自分に負けた私に向かって慰めるのではなく、あえて挑発まがいの言動をする。自分自身にヘイトを向けさせることで、心の持ちようを正しくさせる。有希らしい、優しい言動だ。

 

 芽衣はうーんとうなっていたけども、わからなくても問題はない。それが彼女のやり方なのだから。

 

「どもども!さっきぶりですね!」

 

「季乃さん」

 

「はい!最強最可愛の斎木季乃です★」

 

 芽衣と話していると、視界にベージュ髪の少女が映り込む。ピースサインに親指を立てウィンク、腰はくねらせ可愛らしくポージング。何度見ても季乃さんは有希とは大違いだ。二人がなぜグループを組んでいるのか時々不思議に思うことがある。

 

「季乃さんはどうしてこちらに?有希なら先ほど出ていかれましたよ」

 

「……実はですね。有希ちゃんにはさっき叱られたばかりなんですよねぇ。ライブ真面目にやれーって。私も本気のつもりではあるんですけどね。いまいち調子が乗らなかったみたいです」

 

「なるほど、だから会いづらいと」

 

「ですです。まぁこっちの問題なのでどうにかしますよ!私は有希ちゃん大好きなので!ってそれはともかくですよ。私はあなたに聞きたいことがありました」

 

「なんでしょうか?」

 

「あなたは有希ちゃんの友達、なんですか?」

 

 そういえばライブ前のMCでそういった会話をした記憶がある。有希は季乃さんには知らせていなかったのだろう。

 

「はい、そうです。幼少期のころより有希とは友達です」

 

「そうなんですね。……えっと、あの」

 

 季乃さんは言葉に悩むように、もじもじし始め、やがて覚悟を決めたように真っすぐ問いかけてきた。

 

「有希ちゃんの事、どれくらい知っています?」

 

「……有希の兄が亡くなったことは知りえています」

 

「あ、やっぱり。あのライブを見てそうだと思いました」

 

 ……私のライブが届いていた。その事実は嬉しいが、今は喜んでいる場合ではない。

 

「その様子だと季乃さんも気が付いているのでしょう?有希の様子が変なことに」

 

「はい。有希ちゃんはライブでもダウナーな様子で、あんなにはっきり感情を出す事はなかったですから。慎二さんが亡くなってから、有希ちゃんは変わりました」

 

 有希が出ていった扉を見つめる季乃さんの表情はとても浮かない表情だった。彼女も心配なのだろう。

 

「……私はどうすればいいのかわかりません。このままライブを繰り返していいものか、私が無理やりにでも有希ちゃんを止めるべきなのかわかりません。でも、このままじゃ有希ちゃんはいつか壊れてしまいそうで怖いんです」

 

 一番隣で見てきた季乃さんだからこそ、見えるものがある。彼女にそこまで言わせるのなら、やはり今の有希はそれほど不安定なのだろう。

 

「だからお願いです。本当に有希ちゃんの友達なら、それほど有希ちゃんを守りたいと思っているのなら、古都こと、あなたが私たちを止めてください」

 

「……私が?」

 

「はい。有希ちゃんの事を小さい頃から知っているあなただからこそ、できることです」

 

 小さいころから知っている……。私に約束以外でできることがあっただろうか。

 

「私は協力できません。手を抜いたら私は有希ちゃんと一緒に居られなくなるので。だから、次戦う時は私も本気で挑むと思います。二人が揃ったYUKINOは世界最強です。誰にも勝てません」

 

「……」

 

「だから勝てなくていいです。でも、有希ちゃんは止めてください」

 

 ……なんとも、まぁ、身勝手な発言だ。でも、それほどに自分たちの実力に自信があるのだろう。

 

 でもそれでこそ、アイドルだ。

 

「お任せください。ですが、私も本気です。YUKINO程度、倒して見せますよ」

 

「ふふ、いいですね!古都こと、いえ、ことことちゃん!先輩として受けて立ちますよ!ぶっ潰します!」

 

 止めてほしいと言ったり、ぶっ潰すと言ったり、愉快な人だ。この身勝手さが、有希と相性が良いのかもしれない。

 

「では私もこれで!ことことちゃん後は頼みましたよ!」

 

「えぇ、お任せください」

 

「あ!季乃ちゃん、ちょっと待って!」

 

「うん?あれ、芽衣ちゃん?なんでここに……ってそういえば、ことことちゃん星見プロでしたね。なんですか?」

 

「えっと、ちょっとあっちで話そう?」

 

「物陰で、ですね!いいですよ!芽衣ちゃんは可愛いなぁ、ぐへへへ」

 

 奇妙な笑みを浮かべつつ季乃さんは、芽衣に連れられ、遠くの物陰に姿を隠す。二人っきりで話したいことがあるのだろう。

 

 内容は気になるが、それよりも私にはやるべきことができた。

 

 今日の負けの理由を分析し、次へとつなげる。季乃さんのためにも、迷う暇なんてない。

 

 今度こそ負けられないから。

 

 

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