星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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雲の上のあなたが見せてくれた大切なもの

 

「すず、お話があります」

 

「きょ、鏡花!?な、なんですの!?わ、悪いことは何もしていませんわ!」

 

 交流会が終わって寮に帰った後、リビングでくつろいでいたすずに声を掛けるとそんな反応を返された。何かを咎めようと思い声を掛けたわけではないが、そういった反応をされると揶揄いたくなるのも性だ。

 

「何かやったのですか?」

 

「何もしてないですわよ!」

 

「本当に?」

 

「本当にですわ!」

 

「雲の上に誓って?」

 

「何ですのその表現。本当ですわよ」

 

「そうですか。反省の余地なしということで沙季にお伝えしておきます」

 

「待ってくださいまし!私は何をしたのですの!?」

 

「冗談です」

 

「うーーーー!!!!」

 

 すずは感情の行き場を探してじたばたした後、私に向かってジト目を向ける。怒らせてしまったみたいだ。

 

「意地悪ですわ」

 

「申し訳ございません。つい可愛らしくて」

 

「……褒めても無駄ですわよ」

 

 ついつい揶揄ってしまったがすずに話があるのは事実だ。ここでへそを曲げてもらっても困る。

 

「すず、きんとんは好きですか?」

 

「好きですけど、突然どうしましたの?」

 

「今から作ろうかと思いまして。すずも食べますか?」

 

「……仕方ないですわね。私もいただきます」

 

 興味ない風に素っ気なく言ったすずの様子に笑みを零しつつ、私はリビングへと向かう。

 

 さつまいもを取り出し2cm大に切ると、皮をむき、水でさらす。さらしたものを取り出し、鍋でさつまいもを十分ゆでた後、すりこぎで軽く潰し、砂糖や豆乳を加える。その後弱火でさつまいもを潰しながら軽く混ぜ形を整えると完成だ。

 

「どうぞ」

 

「感謝ですわ!わっ、おいしい!なんだかちょっと滑らかですわね」

 

「愛情が入っていますので」

 

「愛情で滑らかになるものですの……?」

 

「もちろんです」

 

 納得いってなさげだったが、美味しいという言葉は事実だったようですずはパクパクと食べ進めていく。これだけ満足気に食べてくれると作り甲斐がある。

 

 ある程度、食べ進めたところで、私も本題を出すことにした。

 

「すず、ちょっとだけお話があります」

 

「なんですの?」

 

「長瀬麻奈のライブ映像、見せていただくことは可能でしょうか?」

 

 その言葉と同時、すずはがばっと身を乗り出して私に顔を近づけた。

 

「ついに鏡花も麻奈様の魅力に気づいたのですのね!すぐに!持ってきますわ!」

 

 どたばたと音を立ててすぐさま階段を上っていく。かと思えば、すぐにいくつかのパッケージを持って降りてきた。

 

「どれから見ましょうか。初めてならこれで、いいえ、やっぱりデビューから順番に見たほうが……」

 

 すずはパッケージを取っ替え引っ替えして見つめた後、考えがまとまったようで、全部のパッケージを持ち上げた。

 

「鏡花。今日は付き合っていただきますわよ」

 

 明日も仕事の予定はあるが、幸いにも午前中までだ。多少の無理は利くだろう。軽視するわけではないが、それよりも今は知るべきことがある。

 

「わかりました」

 

 私の返事の後、すずは二階へ駆け上がると自らの部屋に案内する。たくさんのアイドルグッズから甲冑まで様々物が散乱している部屋だ。

 

 Blu-rayを操作し、ディスクの一つを入れると大きなテレビジョンにぱっと明かりが灯る。そこに映っていたのは、黒髪で左側だけ小さく結んだ少女。長瀬麻奈だった。

 

『こんにちは!長瀬麻奈です!』

 

 ライブステージ上で、そんな朗らかな挨拶から始めた彼女はそこからMCを続けていく。気負いや緊張の色は一切見えず、時に笑顔で、時に驚いた顔で、時にむくれた顔を見せる。ころころ表情が変わるさまは見ているだけでも微笑ましい。

 

 そんなMCの時間も過ぎていき、いよいよライブの時間が来る。隣を向けば、すずも今か今かと目を輝かせながらペンライトを常備していた。

 

『First Step』

 

「……!」

 

 イントロが鳴り響き、長瀬麻奈の表情が変わった。これまでの温かさを感じる表情から、アイドルとしての覚悟が籠もった真剣な表情へ。

 

 それでも笑顔は崩さず、彼女は歌う。

 

『心から好き、と思えるものに

 巡り合えたって 初めて思えたよ』

 

 彼女のライブは映像で見たことはあった。でも、私自身が何度もライブを通してから改めて見るとその技術の高さに驚く。歌もステップも表情も全てレベルが高い。そして何より。

 

『いま始まるStory

 花びら舞うように』

 

 言葉に出来ない圧倒的な輝きがそこにあった。目を取られると二度と離せなくなるような、そんな輝きだ。

 

 歌が、踊りが、そんな輝きを更に倍増させていく。あまりの眩しさに思考がショートしていく。

 

「……なるほど」

 

 私はそれを自らの存在を強く保つことで正気を保った。飲み込まれないように冷静な思考でもう一度彼女のライブを見つめる。

 

 見る者を虜にする圧倒的な輝き、これは誰かが真似できるものじゃない。長瀬麻奈という少女が持つ、天性の才だ。そしてきっと、これこそが私が今足りていないもの。

 

『ほら軽やかな 足取りで

 未来へ 急ごう 駆けていこう』

 

「……」

 

 真似をしようとは思わない。でも、すずと芽衣が私のステージが長瀬麻奈のステージと似ていると言ったのはきっと理由がある。ならばそこにこそ私の目指すべきものがあると思ったから、私は彼女のライブが気になった。

 

『描いていたGlory

 辿り着けるように』

 

 その理由はパフォーマンスじゃない。彼女の想いの向け方だ。そこに何か見えるものがあるはずだ。

 

『顔をあげて 前を向いて Ready

 この歌に願い込め踏み出すよ

 

 First Step』

 

「すず、戻してください。今のシーン」

 

「え?あ、はいですわ」

 

 映像が巻き戻り、サビのラストをもう一度歌い始める。その直前に何かが見えた。

 

「ファースト、ステップ」

 

 

 

 それからずっと、長瀬麻奈のライブ映像を見続けた。最新のライブになるたびに彼女のパフォーマンスもその想いも強くなっていた。それと同時に私が見えるものも増えていった。

 

 それは煌めきだ。アイドルの想いが形となったものと表してもいいかもしれない。きっとこのビジョンが鮮明に見えるからこそ長瀬麻奈は強く、素晴らしいアイドルだった。ライブバトルで負けなかったのもこれがあったからこそだ。それがわかれば、私はどうすればいいかはもう判断が付く。

 

 途中で眠り込んでしまったすずをベッドに運び、私はそっと彼女の部屋を後にする。

 

 前回のライブで足りなかったもの、トリエルとの合同レッスンで掴んだもの、ファンが私に見てくれている景色、そして長瀬麻奈が私に見せてくれたこの煌めき。ライブをする上での必要な要素は全て見つかった。あとは手にあるものを全て形にして、再度YU☆KI★NOに挑むだけだ。

 

 そして。

 

「そして……」

 

 言葉に引っかかり、自分の中から適切なワードを探し出す。その言葉は私の傍にあって、すぐに手に取れた。

 

「夢となります」

 

 新たな覚悟を胸に私は歩み始めた。

 

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