YU☆KI★NOとの再戦の日程はすぐに決まった。今からちょうど二週間後。世間ではVenusグランプリの時期に、私たちは戦うことになった。
YU☆KI★NOはVenusグランプリに参戦している。ライブバトルの日程はその初戦前だが、ぎりぎりまで日程を詰めてもらったことに間違いはない。そのことには感謝している。ただ。
「このままぐだぐだとバトルしてもつまらない。せっかくだし、このバトルで負けた方がアイドル引退するって条件でどう?……ですか」
「……鏡花さん、俺はこのライブバトル、無理して受ける必要はないと思っています」
ライブバトルを承認する要求として、そんな条件を出して来た。私としてもここまでやってきたアイドルを引退はしたくはない。同時に、YUKINOを引退させたくはない。
所詮は口約束だ。反故にすることはできるだろうが、それをするともう二度とお互いに関われなくなることは目に見えている。でも。
「受けましょう」
「理由を聞かせてください」
「きっとこれがYUKINOの覚悟です。止まることができない彼女たちにとっては、負けることが全て失うことになると考えているのでしょう。だからこそ、Venusグランプリというトップを決める祭典の前にその覚悟を見せたい。そういうことではないでしょうか」
「覚悟を示す、ですか」
「はい。そして私は彼女たちを止めるためにアイドルを始めました。私自身もこの目的を長引かせるつもりはありません。お互いの理念が一致している。受けない理由がないかと思われますが」
「……」
マネージャーは納得できないようで、眉間にしわを寄せながら私を見つめる。理屈っぽい言い方がよくなかったのだろう。でも、私にはこのやり方が好ましいから。
「私も短いながらアイドル活動を続けてきて学んだことがあります。アイドルとは自分のやりたいことをやる生き物です。アイドルのやりたいという意思をあなたは阻害するのですか?」
「……そういうわけではありませんが」
「それに、いいではありませんか」
「いいとは?」
「アイドルが想いも人生もプライドも全てを掛けて挑む。その生きざまはとても美しい。YUKINOがその道を選ぶのならば、私もつき合いましょう。運命共同体というやつです」
「鏡花さんは、もし自分が負けてアイドルを辞めることになっても構わないって言うつもりですか」
「いいえ、そうは思いません。私にも私を応援してくれて、夢見てくれるファンの方々がいます。彼らの想いに応えたい」
「ならばなぜ……」
「私自身もこのルールは馬鹿らしいと思います。ですが、それが彼女らの本気なのです。ならば私も本気の覚悟を見せるまで。私の皆に夢を見せるという覚悟をここに示す。ただ、それだけの話です」
「……」
押し黙ってしまったマネージャーの目を見て私は言葉を続ける。
「長瀬麻奈だって、そうだったのではありませんか。例え何があろうとステージに立ち続けた。彼女の背を追うつもりはありませんが、アイドルとしての在り方は私も同じでいたい。望まれるなら、ステージに立ち続けたい」
「麻奈……そうだったな」
その言葉で彼も覚悟が決まったようで、力強い瞳で私を見据えた。
「わかりました。ですが約束してください」
「はい」
「何があろうと帰ってくること。自分の想いを忘れないこと。いいですね?」
その言葉に私は思わず笑みが浮かび上がる。返事は一つだ。
「もちろんです。私は夢ですから」
「鏡花ちゃん、今の話本当?」
マネージャーと話を付けた後、レッスン室に向かおうとしていると事務所のドアの先に居た芽衣が声を掛けてきた。彼女は不安そうに揺れた瞳で、私を見つめていた。
「聞いていましたか?」
「ごめん……盗み聞きするつもりはなかったんだけど……」
聞かれてどうかなるとは思わないが、これで皆に気を使われるのも避けたい。
「他言無用にお願いします」
「もちろんだよ!でも、鏡花ちゃん負けたらアイドル辞めちゃうって……」
「本気です。ですが、負ける気なんて更々ないのでご安心を」
「うん……」
言葉を疑っているわけではないが、それでも心配なのだろう。彼女に限らずだけど、やっぱり皆優しい人ばかりだ。
「けれどもやはり私一人ではできることが限られます。ですので芽衣、あなたも協力していただけますか。もちろん、芽衣もVenusグランプリに向けてのレッスンの合間で構いませんので」
その言葉に芽衣はぱっと明るい表情を浮かべ、口を開く。
「もちろんだよ!芽衣にできることがあれば何でも言って!」
「ありがとうございます。私のステージで気になるところや、YUKINOについてわかったことがあれば、言ってもらえれば」
「YUKINOについて……」
芽衣はその言葉に引っかかったようで、考える素振りを見せてからわずかに私を見上げる。言うかどうか悩んでいるのだろう。
「言いにくいことでも構いませんよ。言いたくないのであれば言わなくても大丈夫です」
「……ううん、大丈夫。言うね。……鏡花ちゃんは信じてほしいかな」
そう言って芽衣はその話をしてくれた。にわかには信じがたいが、信ぴょう性のあるそんな話だった。