YU☆KI★NOとの決戦の日が来た。あれから私は芽衣やトリエル、他の方々の協力のもと、私が見つけた想いを形にするために検証とレッスンを重ね、ようやく一つの回答が見えた。
ただその回答を見せるには今の私に必要な楽曲を持ち合わせていない。マネージャーに相談すると、彼はなんとなくそんな気がしていたという返事と共に、すぐさま手配を進めてくれた。おかげで今日という日に間に合うことができた。
本番前のリハーサルで、練習に付き合ってくれた皆の前でそれを披露すると、今までにない反応を得られた。きっとこれが、煌めきの正体だったと確信した。
「頑張って鏡花、応援しているわ」
スケジュールの都合上、会場に全員が来れるわけではない。だけど、朝の寮にはいつの間にか横断幕が用意されていて、一人一人から応援の言葉を貰った。大変な時期なのは私と同じだろうに、本当に彼女らは暖かい。
皆の想いを胸に宿し、私は寮を後にした。
向かうはライブ会場だ。ライブの時間は近い。
今回使うライブ会場には一つだけ特徴がある。それは、会場の前方、丁度私たちアイドルが踊るステージの後ろに巨大な液晶が取り付けられていることだ。その液晶には後方からのカメラ映像が映り、アイドルのパフォーマンスの一つ一つが見れる仕組みになっている。
リハではその動作も確認させてもらったが、最新技術を用いたカメラ操作により私の動きが鮮明に見えるようになっていた。後方の客席の方への配慮もあるだろうが、一番の狙いとしてはより正しい採点を行うためだろう。だけど、今の私にとってはこのステージは好ましい。
最後の振付の確認だけ行いながら、私は舞台裏で彼女を待っていた。決戦の前に彼女に聞いておくべきことがあったから。
「あ!ことことちゃんお久です!あなたのアイドル斎木季乃です★」
そこに現れたのは、笑顔で可愛らしくポージングを見せる季乃さんの姿だった。
「季乃さん、大事な話があります」
「誰もいない舞台裏にまで呼び出してまでする話ですか?も、もしかして愛の告白!!ごめんなさい、私は心に決めた人がいるので……」
「季乃さん」
「はい」
「好きです」
「はい……えぇぇぇ!!!!!!ちょちょっと待ってください!本当に告白しに来たんですか!?あの、えっと、気持ちは嬉しいんですが、あの、私には本当に……」
「冗談です」
「ことことちゃん、私は怒りました。ことことです」
「季乃さん、誰しも失恋はあります。元気出して」
「なんで私が振られたみたいになっているんですか!あーもうやっぱりあなた嫌いです!」
あからさまに怒ってますと言わんばかりにむくれた表情を見せる季乃さんの姿に、思わず笑みが浮かぶ。彼女とはあまり話したことはないはずだが、なぜだかこうやって以前も話したことがあるような気がして、懐かしい気分になる。
「季乃さん」
「なんですか」
「ありがとうございます。有希の傍にいてくれて」
「……当たり前のことですよ。ことことちゃんに言われるまでもありません」
「それでもですよ。季乃さんが居て心強かったと思います。何度だって言います。ありがとう」
「……もう、やめてくださいよ。照れちゃうじゃないですか」
そう言った季乃さんは、少しだけ顔を背けて目の辺りを擦る。彼女は本当に強い人だ。季乃さんが有希の相棒でよかったと心からそう思える。
でもだからこそ、聞いておかないといけない。
「季乃さん、話があるのは本当です」
「はい」
「芽衣に聞きました。季乃さん、あなたは……」
「あ、季乃。こんなところに居たんだ」
その言葉を続けようとして、同じタイミングで有希が姿を現した。彼女は季乃の姿を見た後、私を見て驚いたように目を丸くさせる。
すぐさま、挑発気な小馬鹿にするような瞳を浮かべた。
「あ、鏡花もいたんだ。何、季乃を誑かしていた?」
「振られてしまいましたが」
「え、本当にそうだったんだ……」
季乃さんは有希と私の姿を見て、話を続けようかどうか迷っている様子だ。その素振りなら、きっと彼女は有希にもそれを伝えてはいるのだろう。それに有希にも聞こうとしていたから都合がいい。
「有希にも聞きたいことがありました。全員で話がしたかった」
「何?」
「……」
素っ気ない態度の有希と、内容を察した様に表情を暗くする季乃さんの姿。彼女らを前にして、私は口を開く。
「有希の兄は亡くなった。それは間違いない。でも、そこにいるのでしょう?」
「……どういうこと?」
「有希には聞いていません。今はあなたに聞いています。――慎二さん」
季乃さんの隣に向かって私は問いかける。そこにいることは芽衣に聞いたから。
「あっ、ことことちゃんそっちじゃないです。ここです、ここ」
季乃さんが自身と有希との間の空間を指さす。どうやら間違えてしまったらしい。
「失礼しました。……あなたが御堂慎二さんですね。お初にお目にかかります。私は風見鏡花。有希の友であり、慎二さんとも面識があります。覚えていますでしょうか?」
「鏡花、誰と話しているの?」
「有希ちゃんはちょっとだけ待っていてほしいです。……ことことちゃんは声は聞こえるんですか?」
「何も聞こえないです」
「じゃあ私が代わりに話しますね。ははは、よくぞ参った風見鏡花!歓迎するぞって言って……あー!!ちょっと待ってください!わかりましたから、芽衣ちゃんに全部ばらそうとするの止めてください!」
季乃さんはあたふたした様子で何かを引き留めると、むっとした様子を見せる。でもどこか楽しそうだ。
「ちゃんと話しますよ。御堂慎二だ。有希の兄で、YUKINOのマネージャーをやっていた。会えて光栄だ。悪いが覚えていない、とのことです」
「お互いに幼少期のころなので当然でしょう。お気になさらず」
「お互いに幼少期のこ……あっ、そうでした。こっちは聞こえているんですね。ややこしいですねこれ」
言葉を整え、私と向き合う。
「それでどうしたんだ?だそうです」
「芽衣から慎二さんが幽霊となって季乃さんに憑いていると聞きました。原理は気になりますが、それよりも率直な疑問がありました。なぜあなたは有希ではなく、季乃さんに憑いたのですか?」
「あっ、私も気になってました。めちゃくちゃ嬉しかったですし、おかげで命拾いしましたけど、どうして私だったんですか?」
季乃さんは空を見ながらうんうんと頷くと、少しだけ頬を赤くして、最後には怒った表情を見せた。
「慎二さん。それはダメですよ。有希ちゃんは慎二さんが考えている以上に慎二さんのことが大好きです。それはわかっていてください」
「嫌いだよ。あいつなんて」
「有希ちゃんもダメです。正直に言わないから伝わらないんですよ」
「……だってお兄ちゃん死んだじゃん。私を一人にしたじゃん」
「ごめんって言ってます」
「あいつが言うわけないよ。もう死んでるのに」
「私には見えているんですって。そこにいるんですよ。ほら、ここ!馬鹿面してる!」
「……馬鹿面じゃないし」
「めんどくさ!!!」
有希はどうやら兄の幽霊がいることを信じていないみたいだ。季乃さんともうまく話を合わせているだけにも見える。
「それで結局なんと?」
「……私が言うのも照れくさいんですけど、季乃とは置いていかないって約束をしたから、こうして戻ってきた。有希は強い子だから一人でも大丈夫かなって思ってた」
「馬鹿、阿呆」
「私も同意見ですよ。慎二さん」
「季乃に言ってる」
「なんでですか!?」
わーわー騒ぎ出して季乃さんは有希に抱きつく。有希は鬱陶しそうに払い除けようとしていた。
「……慎二さんは幸福者ですね。こんなにも皆に想われ、死後もこうしてあなたのために何かをしようとしてくれる相手がいる。羨ましい限りです」
「……死んでしまったら意味がない。俺は不孝者だよ。本当に申し訳ない限りだ」
「それはその通りです」
「そうだそうだー!……その通りだ」
「季乃さん多重人格みたいですね」
「ね」
「私だって思ってますよ!ややこしくなるんですってこれ!皆も慎二さんの声聞こえるようになってください!」
もう!と怒った声を上げた後、再び季乃さんは真剣な表情をし出す。何も知らなければ本当に多重人格みたいだ。
「それでまだ話したいことはあるんだろ?」
「えぇ。これは有希にも聞きたかったことです。……慎二さん、あなたは有希に何の呪縛を与えたのですか?有希は何を彼に伝えたいのですか?」
「……」
「……」
私の言葉に二人は押し黙った。言いたくないことがあると口を結ぶのは二人とも同じらしい。
でも、話さないのであれば私も言うべきことはある。
「今日のライブバトル。私は私自身にできる全身全霊で挑みます。古都ことのアイドルとしての回答をここに示します。だからこそ私は伝えたい」
一呼吸置き、改めてお二方を視界に入れる。
「目先のものに囚われるなんて失敗をしないように」
それが、YUKINOとの戦いで私が破れた原因だったのだから。
有希は私の言葉に目を丸くして、すぐさま堪えきれないような笑みを口元に浮かべる。
「あっは!言ってくれるじゃん。そういうのは実力つけてから言いなよ」
「こればかりは有希ちゃんと同じです。ことことちゃん、あまりYUKINOを舐めないでもらえますか?」
二人分の、いや、三人分の敵意が私に襲い掛かる。それでも構わない。YUKINOと古都ことの道はすでに違えている。そういう道を私は選んだのだから。
「舐めてなどいませんよ。YUKINOが絶対に侮れない相手ということは身をもって知っていますので。だからこそあえて言います」
三人を前に私はそっと微笑む。覚悟をここに示すために。
「絶対的な夢をここに示しましょう」