YU☆KI★NOとのライブバトルは私が後行だ。一度ステージに上がりお客さんに挨拶をした後、私は舞台裏に戻り、取り付けられたモニターでYUKINOのステージを見つめる。
以前は先行だったため、真逆のステージだ。どれだけのものをYUKINOが見せてくれるのか少しだけ楽しみになる。……YUKINOもこんな気持ちで見ていたのだろうか。
そんなことを考えていると、ステージ上に歓声が飛び始めた。気を取り直して、私は彼女たちに注視する。
『みんな、お久しぶりー。有希だよ』
『季乃です★皆さん!見えてますか!季乃です★』
『見えてるでしょ。後ろにこんな大きな液晶ついてんだから』
『本当だ!びっくりですね!有希ちゃんのあんなところやこんなところまで見えてます!』
『宣伝が露骨だよね』
『そんなこと言わないでください!!!』
会場に笑い声が走る。彼女たちのMC力は何度見ても見事なものだ。
『ともかくですよ!これで私たちのダンスは見られたい放題です。後ろの席でもいっぱい見れますよ!』
『その分、私たちが失敗したらそれだけ見られるんだけどね。気を付けてね季乃』
『ふふふ、そのために今回は仕掛けを考えてきました』
『何?』
『まずライブ開始時に液晶を壊します』
『器物破損じゃん』
『前にいる人たちには季乃ちゃん特製目隠しグッズで目隠しさせます』
『もう誰も見れないねそれ』
『つまり私のウィンです!』
『アイドルとしては敗北だよ』
『ということでよかったらグッズ買ってくださいねー!』
『またも宣伝でしたー』
会場の笑い声を耳にして、二人は目を合わせると立ち位置を整えなおす。纏う雰囲気が変わったことにすぐ気づいた。
『じゃあ宣伝もこれくらいにそろそろ行きましょうか!』
『うん、見せてあげる。私たちの本当の姿を』
有希がその口元に歓喜を含ませ、季乃さんはその瞳に享楽を映しこむ。明るい雰囲気は霧散し、期待と興奮の混じった動乱の空気が会場を包み込む。
そんな会場を前に二人は呟いた。
『my HEart's cry』
響くはオクターバーを用いた厚みのある低音ギターとアナログシンセサイザーをベースした重厚なサウンド。終末世界を表すようなダークな雰囲気が会場中を覆う。
メロディが狂気に染まる。
『
世界に響け my HEart's cry』
歪んだ笑みで嗤うように歌う有希、その背後では季乃さんがこれ見よがしに見せつけるようにダンスを披露する。絶望の中で一人踊り続けように勇ましく。
『闇の中で伸ばした手を嗤い踏み潰すような
そんな
そんな彼女の様子に目をくれず、有希はただ嗤い続ける。歓喜を何重も表情に掛けて、今この瞬間がたまらないとでも言いたげに。
『常世に見える無数の闇が
今に生きる私の武器
この輝きを あの世まで届けるため』
鐘の音が響く。終末と狂気の世界に、わずかな光が差した。
『まだ 足りない、見えない。あなたの下へ』
その鐘の音に、有希の歓喜の瞳に理性が戻ってくる。歓喜の仮面が剥がれていき、一人の少女の絶望が、慟哭が浮かび上がる。同時に幼き叫びがステージに響き渡った。
『凛冽夜の暗がりが
私の心を狂わせる
冷たい雨さえ 嗤い飛ばせ
心の空虚なんて 感じさせないほどに
世界に響け my HEart's cry』
有希は動きを止め、一度瞳を閉じる。悲哀の心を静めるようにそっと。
やがて、終末的なメロディと共に瞳を開けると、覚悟を瞳に映しこんだ。
『私は止まらない。この輝きだけが残ったものだから』
メロディは慟哭を奏で続ける。悲劇的なチューンはまだまだ続く。張り詰めた糸のように覚悟を決めた有希の隣に季乃さんがそっと立つ。彼女は有希の前に立ちその絶望から守るように歌い始めた。
『消えゆく光に祈りを
常夜の輝きにスポットライト
有希とは対照的に光を保った良識的な音色。透明感のある歌声が会場を覆い尽くす。それはまるで絶望の中の光のように、眩しく照らした。
『隠しきれない痛み 本気の証』
それは決して途切れない光ではない。欠けた陰のある光だ。でもだからこそ、闇の中でもがきながら輝こうとしているその光が、とても美しく綺麗に思えた。
『取り残されないように
傍にいるから
好きなだけ叫べ 邪魔はさせない
この想いもいつか届きますように
あなたに響け my HEart's cry』
季乃さんは眩い瞳で、有希に微笑みを浮かべた。でも、それでもなお有希には届かない。彼女はどこまでも、どこまでも深い昏き底で、一人踊り続けた。
『どうして、私は一人泣いているの?
どうして、あなたは一人逝ってしまったの?』
私は泣いていた。あの日、お兄ちゃんがいなくなって、どうしていいかわからなくなって、小さいときのようにお兄ちゃんを頼ろうとして、でもお兄ちゃんはいなくて。
わからなくて。でも何かできることがないか考えて考えて考えて考えて考えて。答えが見えたんだ。
お兄ちゃんが残してくれたものは私自身。そしてYU☆KI★NOだ。だからこそ、お兄ちゃんが大切にしていたそれを絶対的な輝きまで煌めかせること。それが生き残った私に課せられた定めなのだと。
だから私はここで舞い続ける。御堂有希というアイドルとしてここに立ち続ける。それしか私の生きる意味はないから。
……きっとこれは有希の想いだ。想いが歌となって私の心に直接語り掛けてきたのだろう。その想いに答えることはステージに立っていない私にはできない。
でもそれは今に限った話だ。今度は私がステージに立って伝えて見せる。私の想いを全て。
『世界を舞台に舞うことはできたかな』
狂ったように感情任せに踊り続け、疲れたように息を吐く有希。倒れそうな彼女を季乃さんは背後からそっと支えた。
『させて見せる
ユキの音は消させない
きのうよりまだまだ輝いてみせるから』
季乃さんが有希の手を取る。二人で手を取り合い、最後は世界に向けて彼女たちの心の叫びを響かせる。
『後悔を越えて
最高の夜へ
未来に響け my HEart's cry』
my HEart's cry
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