ライブが終わった。たくさんの声援を浴びながら、同時に惜しまれる声を聞きながら私はステージを降りる。降りた先で待っていたのは、YU☆KI★NOの二人だった。
有希は目の周りを赤く染めて、私に静かに向かってくる。そして私の前で止まると、口を開いた。
「……やっぱり余計なお世話だったよ。鏡花」
そう言った有希は、むっとした、子供が素直になれないようなそんな表情を浮かべていた。そういえば、小さいときの有希はこんな表情をよく浮かべていたと思い出した。彼女は素直じゃない。それは今も変わらないのだろう。
「良きライブでしたでしょう?」
「……うん」
そっぽを向いて素っ気なく有希は口を開いた。言葉以上に、彼女の反応が感情を表していた。そんな様子に笑みが零れそうになるけど、その前に聞かないといけないことがあった。
「有希。心は晴れましたか?」
「どこぞのお節介焼きのおかげでね」
「ふふ、それはよかった」
私はそっと微笑みを浮かべた。
「む、なんかいちゃいちゃしているところ悪いですけど、有希ちゃんは私のですからね!渡しませんから!」
「抱き着いてこないでよ。暑苦しいから」
「いやですー!はなしませんー!」
「なんだこいつ」
有希は抱き着いてきた季乃さんを手で押しのけつつ、小さくぼやく。でもその様子はどこか楽しそうだった。
「せっかくですし、私も混じりましょうか」
「いやなんで?ちょっと!」
「あー!ダメですよ!」
二人に覆いかぶさるように大きく手を広げ、二人を抱きしめる。有希は迷惑そうに離れようともがいて、季乃さんは益々有希への抱き着きを強める。そんな二人の様子がたまらなく愛おしかった。
今の私は道を違えた。でもきっと、運命の歯車が一つ違えば彼女たちと一緒に居られて、もしかすると同じグループで活動できた世界もあったかもしれない。
でもそれは――
「あのー、すみません。YUKINOさん、古都ことさん、そろそろ出番なので準備の方を進めていただけると……」
そんな言葉と共に私の思考は中断される。見ると、ライブスタッフが申し訳なさそうな表情で私たちに声を掛けていた。
「だそうだよ。二人とも離れて。見られているのも恥ずかしいでしょ」
「私は全然オッケーです!」
「私もばっちこいですよ。見せつけてやりましょう」
「なんなのこの二人……」
有希も本当に嫌がってきていたので私は抱き着いていた腕を離す。こういうのは塩梅が大切なのだ。怒られないギリギリにすることで、次の機会が生まれる。
「……季乃も離して」
「このまま行きましょ……いたたたたたた!ほっぺつねらないでくださいー!」
有希に無理やり離され、季乃さんは拗ねたように有希を見つめ、有希は素っ気ない態度を見せる。……あれが正解だったのかもしれない。
一度楽屋に戻り乱れた衣装や髪を整えていると、ガチャリと扉が開きそこから有希がやってきた。季乃さんはいない。二人っきりで話したいことがあるみたいだった。
「逢引きですか」
「違うから。なんか鏡花ってアイドルになって冗談が多くなったよね」
「自己が成長しましたので」
「悪い方向に向かってないそれ?」
「お茶目だとよく言われますよ」
「意図的にやっているんだからちょっとね……」
やっぱり有希にはバレるみたいだ。でも彼女にならそれも構わない。
有希は苦笑いを浮かべた後、雑談でもするように言葉を続ける。
「私たちが送ったメッセージ……あー負けたら引退って話ね。あれ気にしないでいいからね」
「私は本気でも構いませんよ。でも、YUKINOが辞められると困ります」
「ふふ、それでこそ鏡花だ。でもそうだなぁ、私たちが負けならYUKINOは本当になくなるかもね」
「え……」
思わず有希に目が向く。冗談を言っているようには見えなかった。
「鏡花も言ってたじゃん。"一度立ち止まって"って。ここで負けるならきっと私たちはVenusグランプリに出ても負けるだけだし、ならしばらく立ち止まるのも正解かなって。なんか疲れたし」
「有希……」
「ま、その先どうするかは全く決めてないしさ。もしかすると再開するかもしれないし、もしかすると本当に終わりかもしれない。ゆっくり考えることにするよ。私らしくさ」
もう話す事はないと言わんばかりに、有希は背を向け一足先に出口へと向かっていった。その扉をくぐる寸前、彼女は忘れ物に気が付いたようにくるりと振り向くと、私に向かってにやりと笑った。
「あ、もしそうなっても鏡花は絶対に辞めないでね。YUKINOを壊した責任を持って、ちゃんとアイドルやっててね」
斜に構えたような悪い笑みだった。そして呪縛の言葉だ。……全く有希らしい。ならば、私が返す言葉は一つだ。
「当たり前です。私はアイドルですので」
満足げに微笑み、彼女はその扉を潜る。扉が静かに閉められた。
『古都こと VS YU☆KI★NO!結果出ます!!!勝者は――――』
『――――古都こと!!!』