星見プロダクションで二組が同時デビュー。
サニーピース、月のテンペスト。それぞれのグループ名と共に各メンバープロフィールも公開されており、俺はそれを躍起になって読み込んでいた。
「サニーピース……明るい雰囲気のグループかな。メンバーは…川咲さくら…うわすごい王道系の元気っ子だ。えーすごくいい……兵藤雫…ミステリアス系かな?いや何やら同族の匂いがする……白石千紗…小動物的な可愛さがあるな応援したくなる……一ノ瀬怜…ダンスが得意?あ、そういやこの子ダンスの高校生大会で優勝した子じゃないか?すごいな……最後は……佐伯遙子……遙子さん!?」
思いもよらぬ名前に思わず声が裏返る。あんまり大きな声を出すとあいつがうるさいと言ってくるため自制しながらも、俺はプロフィール欄をもう一度眺める。
「これ遥子さん……だよな?写真見ても同姓同名の他人ってわけじゃないし。……そっか遙子さんグループに入ったのか」
彼女のデビュー時は見たことがないが、それでもかなりの最初期から見続けていたアイドルが遙子さん…佐伯遙子というアイドルだ。アイドルが別のグループに移籍したりというのは決して少なくはないことではあるが、それでも長年見続けてきたアイドルが違うグループになるというのはなんだか胸が締め付けられるような思いがある。
だが、それでも。
「遙子さんがグループ……。それは楽しみだな。どんな感じになるんだろう」
元々お姉さん感のある人だ。皆をまとめあげる役になるのかな。だとするとそれは一体どんな姿で…。
「いかんいかん。妄想していると夜が明ける。……次は月のテンペストか」
サニーピースとは打って変わり、クールでシックなイメージの湧くデザインで描かれたページを見ながら名前を追っていく。……今回は下から見るか。リーダーを最後に見たほうがイメージは湧きやすいだろう。
「早坂芽衣…おーすごい、なんというか無邪気そうな子だ、可愛い……成宮すず…お嬢様系か?だけどなんだろうなこのポンコツ感は……白石沙季…白石?あれサニーピースにも白石姓がいたけど姉妹かな?写真から溢れる優等生感が強い、眩しい……伊吹渚…ほんわかした雰囲気なんだけど…なんだろうこの雰囲気は…誰よりも身近にいてそれでも家族とは違う雰囲気……そして最後は……長瀬……?」
長瀬という姓で一度脳が停止していまう。星見プロダクションで長瀬というと俺には一人しか思い当たる節はない。
……いかんいかん。長瀬姓なんて彼女以外にもいるだろう。今はデビューアイドルについてチェックしているんだ。そっちに集中しよう。
「長瀬琴乃…クール系の子だな……。でもどことなく彼女に似ている気が……気のせいか?」
写真だけじゃいまいち全体が掴みずらい。でも目元とか彼女そっくり……いやいやまさかね。
「とりあえずデビューライブへ行こう」
「みなさん、はじめまして!サニーピースです!」
「月のテンペストです」
星見市の野外ステージ。海が近く星も良く見えるこの場所はよく祭りの会場に選ばれたり、桜が咲くころには花見スポットとして有名なこの市の名所とも呼ぶべき場所だ。
そしてこの場所にはもう一つ。有名な理由がある。
「麻奈ちゃんの…初ライブの場所か……」
長瀬麻奈。星降る奇跡とも呼ばれたこの星見市で生まれた伝説的なアイドル。短い活動期間ながら数々の記録を打ち立て、その伝説は皆の記憶に残ることになった。そんな彼女の初ライブの舞台がここなのだ。
「馬鹿、目の前でアイドルが喋っているのに何考えてんだ」
頭を振り切り替えると、目の前のアイドルの口上に注目する。
「これから歌う歌が、産声です。この世界に生まれた瞬間の声です」
「聞いてください」
彼女らの歌が始まる。数々のアイドルを見てきた身からすれば、まだまだ歌もダンスも未熟で、トップアイドルには遠く及ばない。
でも、彼女ら一人一人が一生懸命に取り組み、そして楽しそうに歌う姿は、正しくアイドルだった。
「うおー!いいぞー!」
思わず声が出る。長瀬姓のこととかとか、麻奈ちゃんのこととか全てを忘れて俺は彼女たちを応援し続けた。
「みんな、ありがとー!!」
ライブが終わる。全力で声を出し続けていたから喉が多少痛むが問題ない。それよりもこの瞬間が終わってしまうことが悲しかった。
でも、違うな。終わるんじゃない、ここから始まるのだ。彼女たちの物語が。
その帰路。名頃惜しさにしばらく高台で黄昏た後、家へと戻ろうとして、見覚えのある姿を目にした。
「……あれ、サニーピースと月のテンペストのメンバーじゃないか?」
彼女たちは、デビューライブの感想を言い合っているのか遠目から見ても仲良く談笑していた。その笑顔がとても眩しい。
邪魔者は去ろうと別の道を歩き出したとき、偶然、彼女たちが何かを見つけたようで斜め後ろを振り返った。
その時に見たものは忘れられないものになるだろう。
やや青みがかった長い黒髪にきりっとした青い目。記憶にある彼女の姿とは違ったものの、笑顔を浮かべたその姿は記憶の中の長瀬麻奈と似ていた。
……確実に別人ではある。でももしかして彼女は麻奈ちゃんの親族じゃないのか?
その無邪気な笑顔は、俺がそう判断づけるには十分すぎるものだった。
しばらくその場に立ち尽くしていると、視界のふちに猫が映り込んだ。どうやらこの子があの子たちの笑顔を誘ったようだ。
……長瀬麻奈という存在は俺にとって、とても大切な存在だった。
同じ学校に通って彼女のことが好きになったし、その歌を聞いて心を奪われた。
だからこそ、俺は彼女の死がとてもじゃないが受け入れきれなかった。
どうして俺がその場にいられなかったのだろう。どうして助けてやれなかったのだろう。
……俺とて現実的視点は持ち合わせている。ただの一ファンでしかなかった俺が彼女の場所を知ることはできないし、いたところで交通事故を避けることはできなかっただろう。
でも後悔は尽きなかった。もし俺があの場にいて、少しでも時間をかけていたら事故ることはなかったんじゃないかって。できることはあったんじゃないかって。
後悔して、後悔し続けたからこそ、俺は二度とこんな悲劇を起こさないようにしようと心に決めていた。
あらゆる理不尽が、誰かの悪意が、彼女たちを襲うことはないように。俺が推すアイドルたちに不幸が訪れないように。何をしてでも彼女たちを守ろうとそう決めていた。
……だからこれは改めての俺の決意表明だ。
俺はスマホを一つ取り出し、SNSを起動させる。アカウントはどれでもいい。
『サニーピースと月のテンペストのデビューライブとてもよかった!これからも見守っていきたいな』
もう二度と、彼女たちに悲劇は落とさせない。
決意を新たに俺は彼女たちと同じ道を歩いた。