星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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YU☆KI★NO

 いよいよ、有希と季乃の本戦第一回戦が始まる。予選であれだけ活躍したからか、彼女たちのことを楽しみに来ているファンもいるみたいだ。

 

 ネットで調べてみても、彼女たちの名前は度々上がっている。長瀬麻奈の妹がいる月のテンペストや、長瀬麻奈の再来と呼ばれているサニーピースとは違い、完全なる無名のアイドルである彼女たちはダークホースとして期待されているらしい。

 

 それをなんだが自分事のように嬉しく感じていると、突然会場が暗くなる。……どうやら始まるみたいだ。

 

「それではお待たせしました!NextVenusグランプリ、第一回戦、第5組目をここに開始いたします!」

 

 進行役のMCが声を上げると、会場のボルテージは一気に高まる。それと同時にスポットライトが当たり始め、巨大なディスプレイには二組のアイドルの影が映し出される。

 

「一組目はこちら!誠実な歌とダンスで見る者を魅了してきた、今勢いのあるアイドル―――です!」

 

 バンと巨大ディスプレイにその姿が映し出され、その後すぐにそのアイドルたちがやってくる。……丁度アイドルの名前紹介のときに歓声が上がって名前が聞けなかったんだが。

 

 ……まぁ名前は今わざわざ聞かなくても知ってはいるアイドルだ。彼女たちはデビューしてからそれなりに経験がある子たちで、NextVenusグランプリでも他のグランプリでも安定した成績を叩きだしている実力派。決して侮れない子たちだな。

 

 彼女らの開始前のインタビューが終わり、いよいよ、有希と季乃が登場する番になった。頑張れよ。インタビューで変なことするなよ季乃。

 

「そして二組目はこちら!名高るアイドルたちをなぎ倒し、旋風の如く現れた今大会のダークホース!この試合でも台風の目になるのか!?YU☆KI★NOの皆さんです!」

 

 ディスプレイにYU☆KI★NOのロゴと彼女たちが映る。可愛いさ重視で作られたロゴと、ウィンクをする季乃の姿。それとは対照的にクールな眼差しで映り込む有希は絶妙なバランスでまとまりを生んでいる。名前に関しては俺も見たことはあったが、シンプルなネームセンスですごい良いと思う。アイドル喫茶とかやってそうだよな。

 

 後個人的に星の位置が好き。季乃の方にブラックスターがあるのがすごく似合ってる。

 

 そんなことを考えている間にディスプレイが変わり、彼女たちの姿が映し出される。

 

 目の前に出てきた彼女たちは季乃は元気よく笑顔で大きく手を振り、有希はいつも通りの表情で小さく手を振っていた。

 

「声援ありがとうございまーす!YU☆KI★NOの季乃です!」

 

「有希でーす」

 

「早速ですがーどうですかこれ!すごいでしょ!」

 

 そう言って、季乃と有希はカメラにも見えるようにきれいに一回転をしてみせる。

 

 そこにあったのは、今までとは違う。新しい衣装だった。

 

 お互いドレス風の姿なんだが、季乃はオレンジと白を基調とした肩までしっかり覆ったデザイン、髪には同じくオレンジの星の髪飾りをつけている。一方、有希は紫と黒を基調し季乃とは対極的な色合いで肩をだしたオープンスタイル。髪飾りは紫の星だ。

 

 一度も見たことのない、新衣装だった。

 

 ……なるほど、あのとき運んでいた荷物はこれだったか。季乃が有希にも内緒で運んでいた理由がようやく理解できた。

 

「おぉぉ!!」

 

「いいぞー!」

 

「可愛いよー!」

 

 どこからともなく声援が飛ぶ。嬉しいが、普段から接している二人にそんな言葉を掛けられているのを見ると、複雑な気分になるな。そう簡単に可愛いなんて言うんじゃない。

 

「えへへ、ありがとうございます!ということで、今日はこの衣装で皆と一緒に楽しんでいこうと思います!みんなーよろしくねー!」

 

「よろしくー」

 

 再び歓声が上がる。さすがは季乃だろうな。見せ方というか盛り上げ方が見事だ。

 

「じゃあ有希ちゃんからも一言どうぞ!」

 

「え?……まぁ私のパフォーマンス見て楽しんでいってください。最高のものをお届けしたいと思います」

 

「言葉じゃなくてライブで語るってやつですね!ぜひ見せてもらいましょう!」

 

「季乃もライブやるんだよ」

 

「そうでしたーえへへ」

 

 会場から笑みが上がる。季乃がほんといい立ち回りしてんだよなぁ……。有希を引き立てながら会話のフォローアップ、そしてさりげなく会場を巻き込む発言と、仲の良さが伝わる軽い押し問答。

 

 地味に有希のパフォーマンスが目立つように誘導しているところも含めてさすがだと思う。意図的にやっているから侮れないって感じるんだよな。

 

 そのあとMCの進行に従いYU☆KI★NOともう一つのグループも裏へと下がる。ここから彼女たちのライブが始まると思うとこっちが緊張してくる。

 

 時を待たずして始まったのは、もう一グループのアイドルの曲。

 

 学生生活と恋愛模様をテーマにした歌詞で、曲もおしゃれで脱力感のある…いわゆる渋谷系と呼ばれるものだ。

 

 さすが本戦まで生き残ったまである。ダンスには統一があって歌ものびのびしている。平均的に実力が高いな。俺も聞いていて雰囲気に吞まれそうになる。

 

 あっという間に時間が経ち、彼女たちのライブが終わる。俺も思わず拍手をしてしまっていた。

 

 ……いや待て待て待て。考え方がおかしくなっている。いいライブだったんだ。拍手は当たり前だろ。

 

 色んな感情がぐるぐるしていると、間を置かず、次のライブへと設営が進む。そして始まった。

 

 シンセサイザーの使ったテクノポップ。明るく透明感のある曲かと思えば、どこか不穏な空気感が漂う不思議な曲。歌詞も一見明るいが、見方を変えれば黒く感じられるようなものが、季乃の明るい雰囲気と有希の暗い雰囲気でよく表されている。

 

 それにしてもやっぱり、季乃の歌声はすごい。

 

 曲にあった透明感のある声で会場全体を包み込み、悪戯気にそれらを解き、そして有希のパートへと渡す。

 

 有希の歌声は季乃と違ってクールなものだ。だからそれが現実感をより引き出しており、有希の透明感と対比して、より深く引き込まれる。

 

 そして一番は有希が踊るダンス。滑らかな動きで繰り出されるそれらは体のブレを一切感じさせず、より曲全体の雰囲気を高める。

 

 ……有希と現実感があるからこそ、季乃の非現実感がより引き立つ。そして季乃の非現実があるから、有希の現実がより深く際立つ。

 

 お互いがお互いを高め合っている。素晴らしいライブだ。

 

「すごいな」

 

 

 

 

 俺は周りの歓声と拍手の音でようやく意識を戻された。いつの間にかYU☆KI★NOのライブは終わっていたみたいだ。完全に引き込まれていたな。

 

「あははー、ありがとうございまーす!」

 

「…っ、ありがとうね」

 

 あれだけ素晴らしいライブをしたんだ。さすがに二人とも息が切れてしんどそうにしている。だけど、笑顔だけは絶やさずにステージ上に立ち続けた。

 

 ……歓声が中々鳴りやまないな。確かに俺もしびれるくらい最高のライブだったし、それも当然だ。

 

 俺も皆と同じように声を上げ、手を振る。有希がわずかにこちらを見た気がした。

 

 ……その後無事に歓声は落ち着き、VENUSプログラムによる計測が始まる。

 

 悪いがもう結果は見えていた。だけど、万が一の可能性もあることからそれを眺めていると、画面に結果の文字が映り込む。

 

「勝者は……YU☆KI★NOです!!おめでとうございます!!」

 

 そこに表示された点数はさすがの一言だった。彼女たちの試行回数も少ないから自己ベスト更新ももちろんなんだが、リズノワやトリエルに並ぶ数字がそこに示されていた。

 

「うわ、まじかよ」

 

 その結果に思わず笑みが浮かんでしまう。だってあの有希がこの点数を出したんだぜ?そんなこと信じられるか?

 

 笑みが止まらない。その数字を周りの歓声を聞くほどにそれはより強まっていく。

 

 写真撮っておこう。

 

 ふと冷静に返った俺はその数字と、喜んでいる有希と季乃をカメラに収める。すごいな本当に。有希、頑張ったな。

 

 なんだか目頭がじーんとしてきたため、必死に抑えているといつの間にか勝利者インタビューが始まっていた。

 

 そこで話す有希と季乃の姿がなんだか、とても輝いてみえて……。

 

 ……やっべなんで泣いてんだ俺。

 

 胸が熱くなり、思わず涙があふれ出してきた。あぁもう、泣くつもりなんて微塵もなかったんだけど。

 

「今の勝利を伝えたい相手はいますか?」

 

「それはもちろんファンの皆にです!」

 

「そうですね。私もファンの皆に。それと…育ててくれた母と……後、兄にも伝えてあげたいです」

 

 ……そんなこと言わなくていいんだよバカ。

 

 いよいよ涙が止まらなくなった俺は、インタビュー終了後すぐに会場を後にした。

 

 こんな姿見せてられないと会場近くの公園で休んでいると、背後からライブ帰りの人たちがライブの感想を言い合っているのが聞こえてきた。

 

「YUKINOだっけ?まじですごかったよな。俺初めて聞いたけどファンになったかも」

 

「季乃ちゃんの歌やばいよな。一瞬で引き込まれたわ」

 

「有希ちゃんの歌と踊りも負けてないぞ。というかあの踊りはまじでヤバい。普通に優勝するんじゃないか?」

 

 思い思いの感想が聞こえてくる。そのどれもが肯定的な意見でせっかく止みかけた涙が再び溢れそうになる。

 

「ダメだ、考え出すときりがない。……今はあいつらを祝ってやらないとな」

 

 今あいつらは楽屋にいるはずだから、出てくるのには時間がかかるだろう。

 

 俺はメッセージアプリを起動させると、そこに書く文言を考える。

 

 おめでとう、だけじゃ味気ないし、長々と感想を書くのも憚れる。シンプルに、それでいてすごかったことをしっかり書いて……あぁこれじゃ話が長くなる。

 

 ……冷静じゃないからか全然文がまとまらない。それでもなんとかまとめると、俺は何度も読み返し、それを送信した。

 

 ピコンとすぐに通知がやってくる。

 

『ありがと。でも、なんで泣いてたの?』

 

『ありがとうございまーす!泣いている顔、写真撮りたかったです!』

 

 なんでバレてんの?客席の場所伝えてなかったよね?

 

 バレているとわかると急に恥ずかしさが湧き出てきた。なんで泣いてたんだ俺、よく考えろ、相手はあいつらだぞ?毒しかはかないようなやつらだぞ。

 

 ……今までの仕打ちを考えると少しは冷静になってきた。よし、これでいいな。会場に戻ろう。

 

 帰りは一度バンプロの事務所に戻るらしく、事務所の車で移動するそうだ。

 

 それまでの間に彼女たちの顔でも拝んでおくために、俺は出入口付近で待機しておく。すると、少ししてその扉が開いた。

 

「うわ」

 

「わっ!ストーカーですか!?」

 

 それ、なんか前も同じネタやった気がするぞ。俺はそのセリフにいつもの彼女たちであることであることがわかり、なんだか安心した気分になった。

 

「おめでとう。ライブ、すごかった」

 

「うん、ありがとう」

 

「えへへー、もしかして惚れちゃいました?でもダメですよ。季乃はアイドルなので!」

 

「季乃もすごかった。ライブ中の歌声も、それ以外の会話回しもさすがだった」

 

「……なんか調子狂いますね。ありがとうございます」

 

「有希も言うことなしだな。圧巻のステージだった。見せてくれてありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 珍しく有希も季乃も素直だ。彼女たちもライブの余韻に浸っているようだな。

 

「あ、そういえばなんで泣いてたんですか?」

 

「あ、確かに。私も気になってた」

 

「ライブよかったぞ!」

 

「話そらさないでくださいよー。客席で一人だけ大泣きだったんで目立ってましたよ!」

 

「初めてあんなに泣いてるところ見たかも」

 

「ライブすごかったー!」

 

「あからさまに避けてますねこの人……」

 

「しばらくはこれで揶揄えば黙らせれるんじゃないかな」

 

「いいアイデアです!」

 

「まじで止めろよ」

 

「泣いてたー!」

 

「ライブ素敵でした!」

 

「阿呆!」

 

「は?」

 

「なんで泣いてたんですかー!?」

 

「今日は快晴だな――」

 

「もうライブ関係ないじゃんそれ」

 

 ……まぁともかく、俺もなんで泣いてたのか知らないし、それをこいつらに見られたっていうのはすごく恥ずかしい。あの時の自分を後ろから羽交い絞めにしてやりたい。

 

 だけど、俺が泣くほどライブがすごかったってことだろう。そのことはちゃんと伝わったかな。

 

「大丈夫。わかっているよ」

 

 有希は俺の顔を見て、頷いた。……有希はさすがだな、俺以上に俺のことをわかっているのかもしれない。

 

「私もわかってますよ。泣くほど…くふふ…うれし…ふふ、あはは!!!」

 

「笑うなよ!お前、人の涙をなんだと……」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい。でもちゃんと私も理解できてますのでご心配なく!」

 

 ……全くこいつらはどこまで行っても変わらんな。

 

「あーそろそろ車出る時間みたい。行くね」

 

「はーい、じゃあまた会いましょう!」

 

「おう!じゃあな!」

 

 手を振り、彼女たちが車に乗り込むのを見届ける。

 

 ……俺も帰るとするか。ついでに帰り道でいい感じのお店探そう。今日はお疲れ様会だな。

 

 何なら喜んでくれるか考えながら、俺は一人で帰路につく。いつもより速足で俺は帰っていった。

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