星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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アンチ・ヘイト回です。マスコミに対するヘイトですが、苦手な方はスルーでお願いします。
展開自体はアプリと変わらないです。


不安は的中し

 まずいことになった。

 

 YU☆KI★NOのお疲れ様会の後、いつものようにSNSを見ていると、見覚えのある名前がトレンドに上がっているのが目に入った。

 

 『川咲さくら』『心臓移植』『心臓は長瀬麻奈のもの?』

 

 率直に意味が分からなかった。さくらちゃんの歌が長瀬麻奈の歌に似ているのは理解できる。だけど、なんでその心臓が長瀬麻奈のものになるのか。

 

 ソースを追っていくと、どうやら大手のとある週刊誌が確実な筋から手に入れた情報らしい。

 

 ……確実な筋。星見プロの三枝さんやあのマネージャーがこんなことを話すとは思えない。他のアイドルたちも例え知っていても悪戯気に話すような子たちではない。

 

 ……やられたな。

 

 おそらく以前俺が考えていたとの同じ方法だ。彼女たちの日常生活の中の発言を盗み聞きされ、それを情報源にされた。もしかしたら寮に忍び込んでいた可能性もある。

 

 俺の失態だ。もっと警戒すべきだった。意地でも星見寮を守り続けるべきだった。

 

 ただこうなってしまってはもう過去のことを後悔しても仕方がない。これからどうするべきか考えるべきだ。

 

 ……今日はさすがに時間も時間だ。現地に取材に出かける人材も少ないだろうし、何よりこんな時間だと警察沙汰になりかねない。狙うとしたら明日の朝。

 

 ……うん、この考えにおかしな場所は見当たらない。だとすると、俺もその前提で動くとして、俺はどうするべきか。

 

 一番避けたい事態は、彼女たちがマスコミの取材を受けざるを得ない状況に追い込まれてしまうこと。それによってトラウマになってしまう可能性だって十分にある。

 

 他と言えば、彼女たちが練習できない状況に追い込まれてしまうこともだな。入口付近はマスコミがずっと見張っているだろうし、寮から出られなくというケースも考えられる。グランプリに影響が出ることは何としても抑えたい。

 

 だとすると、俺がやるべきことはなんとしてもマスコミを抑え込むこと。これに尽きるか。

 

 ……案としてはいくつかあるが、実際マスコミがどんな方法で取材してくるかが正確でない以上、どうしても対処は後手後手になる。星見プロの子たちとも連携ができないし……。

 

 いや待て、そういやあそこにはマネージャーも住んでたな。となると連絡は可能か。

 

 ……うまいこと連携してマスコミの目をそらしている間に別口から脱出。スタジオへ案内…いやダメだ。さすがに人数も人数だしどこかで人目につく。むしろ、寮という私有地でなくなった以上、マスコミの攻勢も激しくなることが想定できる。

 

 ……もしかすると明日はお休みをとってもらうことになるかもしれないな。

 

 一番の事態を避けるためにはどうしてもそれが最善の手になる。これも状況次第だが、その間に俺がマスコミを抑える手を打つ時間にするというのも策のうちだな。

 

 ……とりあえず状況整理はできた。一言だけマネージャーに連絡入れて、明日朝一で星見寮に向かおう。

 

 

 

 

 

 翌日。まだ夜も明けていない真っ暗な時間に俺は家を出て、星見寮まで向かった。有希には朝から出かけることを伝えているし、朝食も準備しておいた。文句は言われないだろう。

 

 時間も時間だからか人通りは全くないし、辺りに光はない。……さすがにこんな時間に来ることはないか。

 

 そう思っていたんだが……どうやらそれは俺の想定が甘かったらしい。

 

 視界の先にいたのはおそらくここで夜を過ごした様子の人たち。間違いないマスコミ関係者だ。

 

 ……お前らはそこまでやるのか。魂を悪魔にでも売ってんのかこいつらはよ。

 

 このまま出て行って蹴り倒していこうか本気で悩みながらも、俺はなんとか冷静にと深く息を吐く。

 

 ……マスコミがここまでやるとはさすがに想定外だった。今でさえこの人数いるのならば、朝になるとさらに増える可能性が大いに高い。これは本気で今日は外出禁止にしたほうが懸命かもしれない。

 

 とりあえずマネージャーに現状について写真付きでメッセージを送りつつ、俺は隠れることにする。

 

 今手を打つのはさすがに早すぎる。逆に俺が疑われる結果になりかねない。

 

 時間は徐々に過ぎていき、日が上がり始めると同時、集まる人も次々と増えていった。それはもう、星見寮の出入口を塞ぐほどにまで。

 

 心の底から湧き上がる怒りを必死に押し留めながら、俺はこれからどうするかの想定を繰り返す。すぐに行動に移せるように送る文も何度も添削した。

 

 そしてようやく時は来た。

 

 マスコミの一人が日も上がり切った途端、インターフォンを押す。だけどそれは昨日マネージャーに連絡して電源を切ってもらっているため鳴ることはない。

 

 しばらくしてそのことに気づいた彼らは思い思いに声を上げ始めた。周囲にも聞こえるそれは周りの住宅にも当然響くことだろう。

 

 とはいえさすがに警察を呼んでしまうと、彼女たちに迷惑がかかってしまうし、まともに対処してもらえない可能性だってあるからそれはなしだ。

 

 だけど、周りに聞こえているという状況ならば、誰かが偶然その様子に気づいてもおかしくはない状況になったということだ。

 

 俺はこっそりその様子をカメラに収め始める。あんまり周到すぎると逆に疑われかねないので、あくまで自然になるように何度もパターンを撮っていく。

 

 ……この時間は朝の準備をしている人が多くSNSを見ている人はまだ少ない。投稿するには時間が早いな。

 

 焦る心を抑えながら俺は時を待ち続けていると、次々へと増えていったマスコミがついに出入口一体を埋め尽くした。

 

 そして何を考えたのか、一部のマスコミが押し出されるように敷地内へと入りだした。

 

「は?」

 

 馬鹿じゃないのか?人の所有する領地に勝手に入ることは犯罪だぞ。そんなことも理解できないのかこいつらは。

 

 そんなことを考えている間にも、敷地内に入るマスコミの数は増えていく。さすがに怒りの限界だった。

 

「……今俺が出て行ってもできることはない。抑えろ」

 

 両手を強く握りしめ俺は怒りを抑え込む。やつらを潰す策はある。今はそのために我慢しろ。

 

 とはいえ、さすがにこれは問題だ。マネージャーに連絡しようとしていると、その前にマネージャーは物置小屋から出てきて入ってきたマスコミを抑え始めた。

 

 ……ありがとう。お前がいて本当に助かったよ。

 

 幾分か冷静になれた俺は、今がチャンスだとカメラを回し始める。これは確実にバズる。もういっそ社会問題になれ。

 

 それから少しの間、マネージャーとの押し問答が続き、少しは状況が落ち着き始めた。窓からは星見寮の子たちが心配そうにその様子を見ているのが目に入った。

 

 ……これくらいの時間なら大丈夫か。

 

 時刻を見てもちょうど出校、出社で家を出ている時間帯だ。この時間ならば通勤中でSNSを見ている人はかなり多くなる。

 

 俺は偶然撮った風を装いながら、フォロワーが数千人程度のアカウントを取り出し、そこに撮った写真と動画を張り付ける。

 

 コメントはこんな感じでいいだろう。

 

『なんか騒がしいと思ったらめちゃくちゃマスコミが集まってたわ。ってかこれ窓から見えるのってサニーピースの子じゃね?』

 

 送信ボタンを押し、しばらく反応を見る。やがてぽつぽつと反応が来た時点でさらに投稿を続ける。

 

『これよく見たら敷地内に入っているよね?普通に犯罪じゃん』

 

 少しずつ反応が伸びているが、フォロワーが数千人のアカウントだと伸びの比率的にもこんなもんだろう。

 

 俺はその反応を少しでも広げるために別のアカウントを取り出し、それを拡散させていく。

 

 ……徐々に反応もよくなってきた。これならばメインのアカウントで反応しても問題はなさそうだ。

 

 該当投稿を引用する形で俺は言葉を選びながら文を作っていく。あくまで立場は平等、怒りに呑まれすぎないように文を組み立てる。

 

『サニーピースの子たちは今グランプリの途中です。こんなこと絶対に許せません』

 

 フォロワー十万人越えのアイドルレビュー系インフルエンサーの力思い知るがいい。

 

 送信すると、一気に反応が伸びた。やはり数字の暴力は恐ろしいものがある。

 

 ……とはいえ、やりすぎるのも厳禁だ。変な奴が現れても困るので、すぐさま投稿を繰り返す。

 

『すみません、感情的な投稿をしてしまいました。先も言った通りサニーピースの子たちはグランプリ中です。自分たちの投稿が彼女たちの目に映る可能性も十分にあります。どうか感情的に行動するのはやめて、事が収まるのを見守ってあげてください。自分が言える立場ではないですが、どうかよろしくお願いします』

 

 反応は先のより少ないし、俺への文句も出ているがそれは問題ではない。むしろ俺にヘイトが向くならありがたいまである。

 

 ……うん、とりあえず俺が打てる布石は打った。一気にトレンドにも上がったし明日にはマスコミも動きずらくなるはずだ。

 

「ふぅ」

 

 少しだけ息が漏れる。後の問題は今日これからどうするかだよな。

 

 ……だけど正直そこに関しては俺もできることは少ない。下手に出たほうが事を大きくする可能性だってある。マネージャーに任せるのが最善手か。

 

 マネージャーはなんとかマスコミを敷地外に押し返し、自身も物置小屋へと戻っていった。これで多少はましになるといいが……。

 

 しかし現実は無常で、その日は結局日が暮れてもマスコミがその場を離れることはなかった。

 

 

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