「じゃあここまでですね。それじゃお元気でー」
すずちゃんを星見寮に帰して、月ストと一悶着あった帰り道。俺が月ストの子らに何ができるか考えていると、突然季乃がそんなことを言い出した。
「ん?家はまだ先だろ」
「うん?送って行ってくれるんですか?」
「じゃあ俺は何しにお前と一緒に歩いてんの?」
「それは……そうですけども」
何言ってんだこいつと思いつつも、俺は季乃の隣に立ち、歩いていく。
……月ストの子らが心配だな。とりあえず季乃を送った後にマネージャーに事の顛末を説明して、手を打ってもらいたいな。できればこいつへの怒りでパワーアップしてほしい。
「えっと、なんで送ってくれるんですか?」
「夜半に女の子が一人でいたら危ないだろ。住宅街で多少明かりも人通りもあるとはいえ、何があるかわからないんだぞ」
「そういうことではなく…軽蔑しているって言いませんでした?」
「言ったな」
「じゃあなんでですか?」
なんでってそりゃ……。
「軽蔑しているのは元からだし。むしろ、季乃の口からしっかり聞けて安心したまである。そういう性格ってわかっているならこっちも動きやすいしな」
今まであれだけ俺を揶揄ってきて、周りの子らに迷惑をかけていたらそりゃそうなるよ。むしろあれが愛嬌だけで乗り切れると思っていたのか?俺は忘れてないぞ、パンナコッタ事件。
「……酷くないですかそれ」
「酷いのはお前の性格だよ」
「あはは、それはどうも」
快楽主義で刹那主義。元から季乃がそんな考えを持っているのはなんとなく理解できていた。だけど悪いがうちの一族は皆、我儘な子たちばかりだから、そんな主義志向ははとっくに慣れているんだよ。
「それに、だ。そいつがどんだけ軽蔑するべき相手でも、本当に不幸になってほしいわけではねぇよ。……口では言うかもだけどな」
俺は、例え悪人でも、その人に対して何があってもいいとは思わないし、何をやってもいいとも思わない。罰を受けろとは思うかもしれないが、あくまでそれは常識的な範囲で、真っ当な手段で受けるべきだと思っている。
今日の季乃に当てはめるとしたら、さらに強くなった月のテンペストにライブバトルでボコボコにされるとかだな。罰ならそれくらいで十分だろう。
「…………変な人、ですね」
「よく言われるよ」
それからお互い無言歩いていき、やがて季乃の家までたどり着いた。彼女の家に明かりはついていない。
「そういや一人暮らしなのか?」
「そうですね。おじいちゃんと二人で住んでいたんですけど亡くなっちゃたので」
「そっか」
だからこんな豪華な家に一人だったのか。
思い返せば、うちも母さんが海外暮らしで大きい一軒家に俺たちだけで過ごしてきた。でも、季乃とは違い、うちには血のつながる兄妹がいたからやっていけたのかもしれない。
そう考えると、季乃の境遇は少し寂しいものに感じてきた。
「なぁ季乃、お前さえよければだが、今度お前の家に泊めさせてくれないか?」
「え?」
「あ、いやもちろん、有希も連れてだぞ。……こんな豪華な家で一泊するのも楽しそうだなって思って」
「……」
季乃はその言葉を聞いて考え込むように下を向き、やがてどこか照れくさそうな表情で言い捨てるように口を開いた。
「……別にいいですよ」
「おぉ、ありがとうな。有希にも伝えておく」
やるとしたらグランプリ終了後だよな。お疲れ様会とかもこっちでやって、そのまま泊るとかもよさそうか。
「楽しみにしてる」
「……大したものはないですけどね」
「それでもだよ」
「……」
珍しく季乃が塩らしい。そのまま黙っていれば可愛いんだよな。写真撮って有希に送ってやろ。
「あ!何撮っているんですか!ちょっと今撮ったの削除してください!」
「あ、もう送ったわ」
「ちょっと何やっているんですか!」
「有希から返信来たぞ。……落ちた?だそうだ」
「落ちてません!なんでこんなやつに落とされるんですか!馬鹿じゃないですか?」
「……落ちるって何のことだ?」
「知りません!帰れ!」
「せっかく送ってやったのに帰れはないだろ……」
ばたんと激しい音を立てて戸が占められる。あいつも大概口悪いよな。有希と同等じゃね?
……まぁとりあえず色々あったが無事に季乃は送り届けられた。後はマネージャーに連絡して、俺も帰るか。
月ストの子らが立ち直ってくれることを祈りつつ、俺はいつもとは違う帰り道を歩いていく。
今日の月は三日月だった。
帰ったら有希に怒られた。曰くなんで季乃と一緒にいたの?らしい。確かにそうだ。
ついでに季乃も怒られていた。もっと言ってやれ。