星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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月のテンペストvsYU☆KI★NO

 第一部のライブバトルが終わり、いよいよ迎えた第二部。月のテンペストvsYU☆KI★NO。

 

 その試合の前に俺は盛大に悩んでいた。

 

「どっち応援したらいいんだ……」

 

 月のテンペストは長瀬麻奈の妹がセンターを務めるグループでデビューからずっと追ってきたアイドルだ。最初は麻奈ちゃんの親族だから、なんて理由で見てきたが次第に俺自身が月ストの魅力を知り、呑まれ続けていた。

 

 YU☆KI★NOは語るまでもなく、俺の妹である有希と、その友達の季乃が所属しているグループ。有希も季乃もその頑張りは身近でずっと見続けてきたし、彼女たちなりにアイドルに対して思いがあって、勝ちたいと思っているのは理解できている。

 

 二つのグループをより深く知ってしまったからこそ、俺はどちらにも負けてほしくないと思っている。だけど、ライブバトルになると絶対どちらかが負けてしまう。

 

 ……やっぱライブバトルはクソだわ。

 

 もういっそ月ストもYU☆KI★NOもサニピもトリエルもリズノワも皆特例で優勝になれ、なんて思っていると、有希からメッセージが届いていることに気が付いた。

 

 急いで見てみると舞台袖に来てほしいとのこと。

 

 なんとか関係者に許可を取り、舞台袖に行く許可をもらった俺は急いでその場所へと向かった。

 

「あ、来たみたいですよ!」

 

「ほんとだ。よくこれたね」

 

「お前が呼んだんだろうが」

 

 季乃も有希もいつもの調子で、目に見えて悪いところはなさそうだ。

 

「それでどうした?何かあったか?」

 

「ううん、別に。ただ、これで約束は叶えられたよねってことを言いたくて」

 

 ……約束。確か準々決勝までに行くって話だったよな。それならすでに叶えられているが……。

 

「うん、わかっている。中途半端だよね」

 

 YU☆KI★NOはグランプリ直前で始動したアイドルだ。それ故に経験はなかったが、圧倒的な才能で勝ち上がってきたが、準々決勝からはそれも通用しなくなる。だから準々決勝出場を目標にする。そういう話だったな。

 

「有希はどうしたいんだ?」

 

「私は……正直、皆みたいに真っ当な想いがあってアイドルしているわけでもないし、グランプリで優勝したい絶対の気持ちがあるわけでもない。でもさ」

 

 有希は今まで眠たげだった瞳をきりりと尖らせると、覚悟を決めるように口を開いた。

 

「こんな私たちでも応援してくれている人たちがいるし、そういった人たちに不甲斐ない姿を見せたくないって思う。それに、やるからにはやっぱり勝ちたい。だからね――」

 

「――勝つよ」

 

 そこにいたのは、いつものようにめんどくさがりでソファーに寝転んでファッション誌を読んでいた有希ではなく、YU☆KI★NOとしての、アイドルとしての有希だった。

 

 ……随分と立派になったな。

 

「あぁ応援してる」

 

「あ、私も決意表明したいです!」

 

「お、なんだ。今更正々堂々戦いますとでも言うつもりか?」

 

「酷い!せっかくいい雰囲気だったのが台無しじゃないですか!」

 

 だって季乃だもんなぁ。いい雰囲気より、いつもの雰囲気の方が調子出るだろ?

 

 そんな言葉は胸にしまい、俺はすねたような季乃の言葉に耳を傾ける。

 

「まぁ色々とやっちゃいましたけど、ここまで来たら私も正々堂々戦うまでです!やったるぞー!」

 

「……」

 

「……」

 

「返事してくださいよ!」

 

 だってなぁ、正々堂々は二番煎じだし。

 

「季乃」

 

「何ですか?私は今怒っています」

 

「楽しんで来いよ」

 

「……はい!」

 

 二人とも調子は絶好調みたいだ。俺は二人の活躍を祈りつつ、舞台袖から離れていった。

 

 客席へと戻る途中、わずかに月ストの面々が目に入った。一瞬、行くべきか迷ったが、やめた。もうここはアイドルたちの舞台だ。これ以上俺という部外者がいていい場所ではない。

 

 今度こそ客席へと戻り、ステージの幕が上がるのを今か今かと待ち続ける。

 

 もうどっちを応援するかなんて迷いはない。

 

 ……俺はただこのライブを全力で楽しむだけだ。

 

 

 

 

 

 

 先行はYU☆KI★NOからだった。先日の曲とは違い、アップテンポな曲と思いきや、転調で一気にスローダウン。早い歌詞を季乃が、遅い歌詞を有希が歌い、そのリズムと、理想と現実をうたった歌詞で見事に会場を盛り上げた。

 

 極めつけは有希のダンスのソロパート。ステージの中心で流れるような激しめの踊りは見る者を魅了する。最後に交わしたウインクがめちゃくちゃカッコよかった。

 

 目立ったミスもなく、曲が進む。季乃のダンスも必死で食らいついている感はあるものの、それを知っている俺だけが気になるほどで、知らない人には立派なものに見えるだろう。

 

「Real Un Real」

 

 最後の有希の一言と共に、お互いポーズを取り曲が終わる。……会場からは大きな声援と拍手が舞い起きた。

 

「有希!季乃!よかったぞぉぉ!!!!」

 

 俺も声が枯れんばかりに叫ぶ。この声援が少しでも届けばいいんだけど。

 

 彼女たちは丁寧に会場を締めると、次の月のテンペストへとステージを渡す。

 

 果たして彼女たちはどんなものを見せてくれるのだろうか。

 

「今までとは違う、新しい月のテンペストをお見せします!月下儚美!」

 

 

 

 

 

 デビューライブでも歌った曲。でも、デビューのときとは全く違う動きのキレから始まったその曲は琴乃ちゃんの歌声から始まる。

 

「夜に咲く花一凛 儚く美しいその姿」

 

 初めこの曲を聞いてすぐに麻奈ちゃんのことを歌っているんだと思った。誰よりも近くで見てきた琴乃ちゃんだからこそ、その輝きが強く鮮明に焼き付いていると。

 

 だけど。

 

「強く息をした ただ真っすぐ見てた だけど少し震えてた」

 

 それはすぐに違うと思った。これは麻奈ちゃんを見た琴乃ちゃん自身の歌だって。だからこそこんなに不安げで、心配になる歌詞なんだって。

 

「輝くことの意味を知る」

 

 だけど……どうやらそれも少し違ったみたいだ。

 

「月明かり照らす光 君の光 初めて感じた真の願い」

 

 これは誰かではなく、月のテンペスト全員が歌う歌。そしてそれを届けるのは誰かではない。俺たち観客へ向けた歌なんだって。

 

「眩しくて 嬉しくて 何もかも変わり出す」

 

 その歌が、その歌詞が、心のなかにそっと落ちていく。そのたびに、月のテンペストという存在が身にしみて理解できてきた。

 

 ……どうやら月のテンペストというアイドルを一番信用できていなかったのは俺の方だったらしい。

 

「満ち欠けのたび揺れてく 心の影 大切に受け入れ もう迷わない」

 

 だって、俺がいなくても、俺がどうもしなくても、彼女たちは自分の足でステージに立って、立派にアイドルやっているじゃないか。

 

 それになにより。

 

 琴乃ちゃんが、皆と目配せしてパフォーマンスを合わせている姿が視界に映り込む。

 

 彼女たちは一人じゃないのだから。

 

「好きなだけ今をやり切ればいい」

 

「壊れそうなほど 不確かだけれど 君が照らすから 輝いているんだ」

 

 彼女たちの歌に会場はさらにさらに盛り上がっていく。踊りも今までに見たことのない新しいステップを交え、歌と共に、会場を沸かせ続ける。

 

 アイドルと、観客。その全てがライブを通じて一体化しているように感じた。これが、これこそが月のテンペストというアイドル。

 

 初めてライブを見た日のような、懐かしいものを感じた。

 

 

 

 

 

 

 曲が終わるころには会場が揺れるほどの歓声が続いていた。俺もびっくりするくらい声を出してしまった。めちゃくちゃ楽しいと感じるライブだったな。

 

 だけどそれも終わり。もうちょっとこの雰囲気に呑まれたかったな。

 

 時間は無情にも過ぎていき、いよいよ見たくないVENUSプログラムによる採点発表の時間が来た。

 

 どちらが勝ってもおかしくはなかった。どっちが勝っても俺は応援し続けたい。

 

「勝者は……」

 

 心臓が張り裂けそうなほど高鳴っている。その一瞬が永遠のように感じられた。

 

「……月のテンペスト!!」

 

 ……そっか。

 

 俺は静かに息を吐き、彼女たちの勝利に拍手を送る。すごいライブだった。俺もバトルとか関係なしに熱中してしまった。

 

 彼女たちの勝者インタビューが続く。その様子には、季乃から受けた精神的なダメージはなさそうに思える。……彼女たちはちゃんと乗り越えてきたんだな。

 

「勝者の月のテンペストに大きな拍手を!」

 

 手が砕けんばかりに俺は彼女たちに拍手を送る。ぜひ、次のリズノワも破って決勝でサニーピースと戦いあってほしい。

 

 きっとそれは、最高はライブになるから。

 

 俺は彼女たちがステージを降りるまでずっと、拍手を送り続けた。

 

 

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