ライブが終わり、観客も離れ始めた頃。俺は会場の外、関係者の出入口で有希と季乃が出てくるのを待っていた。
しばらくして、目の前の扉が開く。そこから出てきたのは有希の姿だった。
「お疲れ」
「お疲れー」
有希は疲れを滲ませながら、まるで普段の仕事が終わったかのように何気なく返事を返した。
「ライブ、すごかった。今までで一番の出来だった」
「ありがと。負けちゃったけどね」
有希は気にしてなさそうなふりをしているが、長い間こいつを見てきた俺ならわかる。相当、悔しがっているな。
「次は勝とうな」
「……うん」
だけど、それをわざわざ指摘することもないだろう。俺は一言に労りの言葉だけかけると、一緒に近くのベンチに座った。
「そういや季乃は?」
「なんか用事あるって」
用事?わざわざステージ裏でやることがあるのか?
すぐにピンとは来なかったが、少し考えると一つだけ思い当たることがあった。
……月ストの子らと話しているのか。止める……必要はないな。あいつも負けくらいは認めるだろうし、戦う相手じゃないなら毒を吐くこともないだろう。
しばらくの間そこで待機していると、ガタンと音を立てて再び扉が開いた。
「あ、お疲れ様です」
「お疲れ」
見覚えのあるベージュの髪。季乃だ。彼女は俺たちがベンチに座っているのを見て、ゆっくりとこちらに歩いてきた。
「負けちゃいました」
「あぁ見てた。惜しかったな」
「でも、負けは負けです」
俯いたその表情は悔しいのか悲しいのかわからない。でも、彼女がそれだけ真剣にライブバトルへ望んだというのがわかって、少しだけ嬉しくなった。それだけ彼女がアイドルに本気だという証明だから。
「そうだな。惜しかったとはいえ、敗北には違いないな」
「……」
「だから、この敗北を忘れるなよ。その想いが次の勝利につながるんだ」
「……はい、そうですね。その通りです」
「だけど……今だけは悲しんでいいと思う。季乃、よくやった、カッコよかったぞ」
「うん……」
俯いた季乃から雫が零れ落ちる。自分が楽しみたいため、初めの理由はそれだったかもしれないが、季乃もアイドルを続けていくうちに知らず知らず本気になっていたのだろう。
俺は季乃の涙が誰にも見えないように覆いかぶさり、彼女が泣き止むのを待つ。
やがて次第に落ち着いてきたころ、呆れたような視線に気が付いた。
「……そんな関係だったの?」
「何が?……って、あ、いやこれは違う。そういうのじゃないから」
「別に駄目とは言わないけど、人前では気を付けてね」
「違うから!それは勘違いしないでくれ!……季乃からも何か言ってやってくれ」
「……もう少しこのままでいてもらってもいいですか?」
「なんで塩らしくなってんだよ。わざとだろ、もう離れるぞ」
「あぁ残念。誰かに写真撮ってもらって襲われたーってことにしたかったんですけどね」
「まじで止めろ。俺の人生が終わる」
季乃は先ほどまでの様子とは一変、いつもの笑顔を浮かべると前を向いて俺と目を合わせた。
「でも嬉しかったですよ!またやってくださいね!」
「もうやらねぇよ」
気づかずだったが、我ながら大胆なことをしたもんだ。現役アイドルにこんなことしているところ見つかったら一発アウトだぞ。見つからなくてよかったわ。
「帰りはまたバンプロによって帰るのか?」
「いや、さっき話してきたから大丈夫」
「ってことで一緒に帰りましょう!」
「わかった。……一応変装しとけよ。目立つから」
「めんどいからパス」
「しない方が宣伝になるんじゃないですか?」
「頼むから変装してくれ。俺の身がもたん」
念のため持ってきていた変装用グッズを彼女たちに身に着けてもらい、俺たちは一緒に帰り道を歩いた。
なぜか話の流れで俺までつけることにはなったが……まぁこいつらが笑顔になれたならいいか。今日くらいは許してやろう。
俺たちの帰路には、すっかりと夕暮れになった空が辺りを包んでいた。