星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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星見プロの不審者

 それから、NextVenusグランプリは何事もなく順調に進み、いよいよ迎えた準決勝。

 

 サニーピース対TRINITYAiLEと、月のテンペスト対LizNoirの一戦。どちらが決勝でもおかしくない豪華な顔ぶれがそろったその勝負は、なんとサニーピースと月のテンペストが勝利することになった。

 

 サニーピースはさくらちゃんが自分だけの歌声を見つけて、月のテンペストは自分たちらしくあり続けて。

 

 思わず号泣してしまうほど、二グループとも立派な勝利だった。

 

「きも」

 

「さすがにどうかと思いますよ……」

 

 ……横からずっと聞こえていた辛辣な声は、聞こえないふりした。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜中。俺はある予感を感じて、外へと出ていた。

 

 有希にも許可は貰った。帰ってきてねと何度も釘を刺されて心が少し痛む。

 

 少し歩いてたどり着いたのは、もう何度も行ったことのある場所、星見寮だ。時刻はすでに二時をすぎている。今日は賑わっていたであろう星見寮も、今は真っ暗だ。

 

「あら?」

 

 星見寮の目の前で名残惜しそうにそれを眺めていると、ふと寮の庭から声がした。

 

 濃い茶色のセミロングにヘアバンド、琥珀色の瞳は今は暗闇に呑まれ、あまりよく見えない。

 

 でも何度も目にしてきたからわかる。遙子さんだ。

 

「あ、すみません。起こしちゃいましたか?」

 

「ううん、なんか寝付けなくて。縁側でゆっくりしてたの」

 

「そうでしたか」

 

「君は……うん、やっぱり御堂君だよね?」

 

「そうです」

 

 ……やっぱり覚えているよな。遙子さんは優しいから忘れられないのだろう。

 

「……あれからどう?ちゃんとやっていけてる?」

 

 遙子さんは……俺にとっての恩人だ。長瀬麻奈、麻奈ちゃんがいなくなってから失意のどん底にいた俺を救い上げてくれた人。

 

 自分が一番つらいはずなのに全くその素振りは見せず、アイドルとして振舞ってきた。その仕草に俺がどれだけ救われたか。

 

「まぁなんとかやってます」

 

「そう、それはよかった」

 

「それよりも、遙子さん。あの時のことは本当に申し訳ございませんでした」

 

 色々と謝りたいことはあるが、一番はあの時の握手会のことだ。馬鹿な俺は、遙子さんの気持ちも考えず好き勝手話してしまった。

 

 長瀬麻奈が亡くなって寂しくないんですか、って。

 

 ……俺も精神的に参っていた時期だったから、仲間が欲しかったのかもしれない。それでも、俺は聞いてはいけない台詞を、一番言ってはいけない人に言ってしまった。

 

 それが俺の中にずっと突き刺さっていた。

 

 だからこそ、彼女に会うたびに俺は避けていたし、顔も合わせようとしなかった。本当に失礼な話だよな。

 

「えっと……何の話かな?」

 

「え、あの、握手会のことです」

 

「握手会?……あぁ私がまだソロでやってたときのね!あの時は君が来てくれて嬉しかったの。でもなんで謝っているのかな?」

 

「え……だって俺は無遠慮に麻奈ちゃんのことを」

 

「……あぁそのことね。確かに無遠慮というとそうかもしれないけど、あのときは素直に聞いてくれてちょっと安心したの。……だって誰も遠慮して聞いてくれなかったから」

 

 聞けるわけがない。だって誰よりも気丈にふるまっている子にそんなこと言えるわけがないのだ。

 

「だから謝らないで。悪いことは何もしていないから」

 

 ……やっぱり遙子さんは優しいな。麻奈ちゃんの後に見たアイドルがあなたで本当によかったって思う。

 

「……ごめんなさい、って、あ、いや今のはそういうわけではなく」

 

「ふふ、いいのよ。それよりも御堂君はどうしてこんな夜更けにここに?」

 

「あ、そうだった。マネージャー……牧野は見ませんでしたか?」

 

「牧野君?彼ならそこの物置小屋に……そういや、どこかに走り去るような影が見えたような……」

 

 やっぱりそうか。あいつが一番、長瀬麻奈を近くで見てきた人だ。自分がマネジメントするアイドルが彼女の立てなかったステージに立つと聞いて、冷静でいられるはずがない。

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

 そう言って俺は彼女に背を向ける。あ、そうだった、まだ言ってなかった。

 

「決勝進出おめでとうございます。これからも遙子さんも、サニピも皆、応援し続けますから」

 

「……!ありがとう!」

 

 今度こそ俺はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 あいつが行くとしたら麻奈ちゃんとの思い出の場所。デビューライブの高台、決勝のステージ。彼女の家。色んな所を回ったが収穫無し。

 

 残るとすれば……やっぱりあそこか。

 

 

 

 

 

 私立星見高校。俺が過ごした母校であり、牧野と麻奈ちゃんがいた学校だ。

 

 そこで俺は、夜の学校から一人で出てきた男の姿を見た。

 

「よ、不審者」

 

「なっ……って、御堂か。驚かせるなよ」

 

 時刻はすでに日が明け始めているころ。朝の光に照らされた牧野の表情は、どこかすがすがしさを感じられた。

 

「事実だろ。不法侵入だぞお前」

 

「そ、それはだな……」

 

 大方、麻奈ちゃんとの思い出を探りに行ってたのだろう。今更、学校まで来るなんて……やっと気づいたのかよ。

 

「ま、俺も似たようなことやってたからどっちもどっちだけどな」

 

「……何をやってたんだ?」

 

「秘密だ」

 

 とはいえ、こいつもなんとなくは気づいているはずだ。状況証拠は十分に集めきられているしな。

 

「そうか……あんまりうちの子たちを怖がらせないでくれよ?」

 

「もうやらねぇよ」

 

 あの時のように事故にあったらどうしようなんて不安は確かにまだ残っている。だけど、俺がいなくても彼女たちは立派に歩んでいたし、実際にここまで来れた。それに――

 

 ――彼女たちは一人じゃない。サニーピース、月のテンペスト、みんなでアイドルなんだ。

 

 ……こいつだってついているしな。

 

 俺は牧野の目を見る。

 

 彼の目は三年前と同じで、真っすぐに俺を見つめていた。

 

「御堂……変わったな」

 

「そうか?」

 

「変わったよ。前より優しくなった」

 

「前から優しかっただろ?」

 

「ははは」

 

 朝の光に照らされ、俺たちはあの時の同じように同じ帰り道を一緒に歩く。

 

 唯一違うとすれば……ここに麻奈ちゃんがいなくなったことかな。

 

「そういやさ。麻奈ちゃんのお墓ってどこにあるんだ?」

 

「知らなかったのか?」

 

「うん、見たくなかったから」

 

 今なら、やっと彼女の死と向き合える気がする。

 

「じゃあ今度一緒に行こうか」

 

「お、お前とでかけるなんて久しぶりだな。クソダサ私服を見るのを楽しみにしておくわ」

 

「そんなにダサくはないだろ……」

 

 毎回同じような服しか着てこないやつが何言ってんだか。双眼鏡で見てた時もお前いっつもスーツだったぞ。それしか持っていないのか心配だったわ。

 

 そんなこんな、くだらないことばかり話していると、やがて俺の家が見えてきた。星見寮はまだ先だな。

 

「じゃ元気で。また会おうな」

 

「御堂も元気でな」

 

 そう言って俺は家へと帰ろうとして、伝え忘れたことに気が付く。

 

「あ、そういえば」

 

「うん?どうした?」

 

 牧野の顔がこちらを向く。俺はその顔に向かってにやりと笑うと一言だけ告げた。

 

「月ストに伝えておいてくれ。次はYUKINOが勝つ」

 

「……あぁわかった。でも、次も月ストが勝つよ」

 

 これ以上言葉はいらない。俺は家の扉を開き、自室へと向かう。

 

 家族写真の隣に倒してあった写真立てを持ち上げると、一番見えやすいところにそれを飾った。

 

「ふわぁ……さすがに眠いな」

 

 もう時刻は朝と言ってもいい時間だ。少しでも寝ておこうと俺は毛布に身を包み込む。

 

「おやすみ……」

 

 視界を閉じる寸前、カーテンから漏れ出した光が写真立てに飾られた写真を照らし出す。

 

 そこには、俺と牧野と麻奈ちゃんが笑顔で映っていた。

 




 サニピと月ストの決勝戦は御堂君がちいかわになるだけなんでスルーです。

 よって、これにて星見編終了です。ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。
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