星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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少しだけ幕間


幕間 星見~東京
不審者と有希とケーキ


 NextVenusグランプリも無事終了して少しした頃。

 

 あれだけ世間をにぎわしたNextVenusグランプリの熱狂もそろそろ収まってきたそんな時期に、有希は珍しく俺に声を掛けてきた。

 

「ちょっと買い物手伝ってくれない?」

 

「……荷物持ちは嫌だぞ」

 

「いいじゃんそんくらい」

 

「ちょっとは隠し通せよ」

 

 相変わらず口も態度も大きい有希に呆れながらも、有希にしては珍しく頼み事をしてきたので、今回限りは、と了承することにした。

 

「ありがと。すぐ出るから支度して」

 

「もう行くのか?どこに?」

 

「んー、駅前のデパート……とか?この辺も相談したいから早く支度して」

 

 有希にしては珍しく煮え切らない返事…というより、まだ決まっていないのか?ますます目的がわからなくなった。有希のことだから変なところに行くことはないだろうが……。

 

「聞いてた?早くって言ってるんだけど」

 

「わかったからそう急かすな」

 

 これ以上、有希の機嫌を損ねるのも困る。今は有希に従おう。

 

 

 

 

 

 

「聞きたいんだけどさ。月のテンペストの子って何が好きとかわかる?」

 

「どういうことだ?」

 

 とりあえず駅方面に向かって歩いていると、道中、有希からそんなことを聞かれる。月ストの子の好きなものなら……まぁ多少はわかるが、全員が好んでいるものとなると話は別だ。

 

「……季乃がまた変なことしてたんでしょ?だからそのお詫びにって思って」

 

「有希……」

 

 その言葉に思わず感動してしまう。まさか有希がここまで人のために行動できる人だとは……どこぞの腹黒野郎とは大違いだ。

 

「何その反応。きもいんだけど」

 

「……有希、実はきもいって地味に傷つくんだぞ」

 

「だから?」

 

「やめてほしい」

 

「なんで?」

 

「嫌だから」

 

「……はっ」

 

 ……こいつ鼻で笑いやがった。やっぱ前言撤回。こいつもやっぱり大概だわ。もっと俺にも配慮しろ。

 

「とにかく、駅に向かうまでに考えといて、あの辺ならなんかあるでしょ」

 

 月ストの好きなもの……ねぇ。琴乃ちゃんとすずちゃんは麻奈ちゃんで、渚ちゃんは琴乃ちゃんで、沙季さんは千紗ちゃんで、芽衣ちゃんは……猫?ってそういう話じゃないよな。

 

 もっと物品で喜びそうなもの……お詫びなら食品、お菓子とかがベストだよな……。とはいえ何のお菓子が好きなのかまではさすがに把握していない。となると……あ、そういや一人だけ知っているかも。

 

「桃……」

 

「桃?」

 

「桃のホールケーキとかどうだ?あそこ人数いるし、ホールでも多すぎるってことはないと思うし」

 

「いやなんで桃なの?」

 

「月ストの渚ちゃんの好物が確か桃だったはずだから。それがいいんじゃないかって」

 

「まじで気持ち悪いね」

 

「なんでだよ」

 

 真面目に考えて答えたつもりなのにいきなり暴言を吐かれた。さすがにそれは俺も怒るぞ?

 

「いやだってさ。なんで人の好物とか知っているわけ?直接聞いたわけでもないんでしょ?」

 

「そりゃ……ファンだからな」

 

 ……確か渚ちゃんが桃が好きなのはどこかのタイミングで公言していたはず。……はずだよね?俺が盗み聞きした知識ではないよね?

 

 情報源がどこだったか必死に考えていると、有希は深くため息を吐くと、スマホで何かを調べ始めた。

 

「ま、偶然ってことにしたらいいでしょ。ケーキなら……あそこが良いかな」

 

 行く場所はきまったみたいで、有希は人を避けながら先へと進んでいく。その後ろを俺は見失わないようについていった。

 

 

 

 

 

 

「星見寮って何人いるんだっけ?」

 

「十人だな。マネージャー入れると十一人か?」

 

「……なんで寮にマネージャーいるの?」

 

「そりゃ……なんでだろうな」

 

 言われてみれば確かに謎だ。寮を管理する大人がマネージャー以外いないのが問題だよな……。セキュリティも甘いし…。

 

 そんなことを考えながら俺は有希に案内してもらったお洒落なケーキ屋で、品揃えを眺めていた。

 

「でも十人、十一人でも、ホールケーキだとちょっと分けづらいね。フルーツ系だと余計ぐちゃぐちゃになりそう」

 

「確かにそうだ」

 

「バラでいいんじゃない?それだと皆好きなの取れるでしょ」

 

「そうだな」

 

「……これお兄ちゃん連れてきた意味なかったな」

 

「聞こえてるぞ」

 

 ということで、そのケーキ屋で十一人分のケーキを買うことになったんだが……どれも高いな。やっぱりお洒落なケーキは値段もそこそこするな……。

 

「ゆ……」

 

 話しかけようとしたが有希は思いのほか真剣に考えている様子だ。

 

「あ、これ美味しそう……こっちも…悩ましいね……」

 

 ……真剣に考えているのか?見た感じだとケーキに興奮しているようにしか思えないけど。

 

「うわ!これいいなぁ……」

 

「有希?ちゃんと選んでいるか?」

 

「……ちっ。こいついるの忘れてた」

 

「えぇ……」

 

 俺が話しかけたのが悪かったのか有希はいきなり気分を落としたように息を吐いていたが、再びケーキを見て目を輝かせ始める。

 

 ……そういや有希ってケーキ好きだったよな。

 

 母からのプレゼントには毎回ケーキが付いていたし、なんなら俺が送った誕生日ケーキも嬉しそうに受け取ってくれた。

 

 ……こっそり家に持って帰る分も買って帰るか。

 

 俺は有希の反応を見ながらどれがいいかを見極めつつ、ケーキを見繕っていく。

 

 有希には……これかな、いやこっちか?こっちも…って全部いい反応しやがんなこいつ。全然選べねぇよ。

 

「うーん、こっちかな……でもこれも食べたい……いっそのこと全部一種類ずつ」

 

 それにしても、今日は珍しいものがいっぱい見れるな。有希がここまで興奮した姿を見るのは初めてかもしれない。

 

「いや今日は贈り物用だから……うん、決まったかな」

 

 かなり長いこと悩んでいたが、有希はようやく決まったみたいで、店員に声を掛けた。

 

「全部ください」

 

「待て」

 

 微笑ましく見ていた俺も思わず声が出てしまう。何を言っているんだ、さすがにそれは無理がある。

 

「冗談だよ。これと、これと、これと……」

 

 有希は俺を見て小さく笑うと、指をさしながらケーキを選んでいく。……からかわれたのか?……本当に今日は珍しいものをよく見る日だ。

 

「後これください」

 

 有希の注文を見つつ、俺はもう一人の店員に先ほど選んだ三つのケーキを伝える。

 

「少々お待ちください」

 

 有希の分とまとめて会計を済まし、先に俺が頼んだ分を受け取り、鞄へと仕舞う。そのあとに有希が頼んだ十一人分のケーキを両手に持った。

 

「すごく美味しそうだった」

 

「そうだな」

 

「今度買いに来よ」

 

 今もなお少し興奮気な有希を見つつ、俺たちをそこを後にする。これは…反応が楽しみになるな。

 

 

 

 

 

 

 星見寮に行くと、サニーピースの面々は今日グループで仕事が入っているらしく、月ストの子らが出迎えてくれた。

 

 ……いや、警戒されていたから出迎え…とは違ったかもだが、それでもあのときのお詫びとして有希からケーキを渡すと、そこには一気に笑顔が広がった。

 

 特に桃のケーキを見た時の渚ちゃんの表情の変わり方はよかった。月ストのファンでよかったと心から思えた。

 

 その後、季乃のときとは違い、平穏に会話を終わらせると、俺と有希は家に帰った。

 

 

 

 

 

 

「有希、見せたいものがある」

 

「何?」

 

「ふふふ、見ろ、ケーキだ」

 

「……うん、お兄ちゃんがきもすぎて気分下がった」

 

「泣いた」

 

 さすがにあからさますぎたが、それでももっと言い方あるだろ。……まぁ有希らしいといえばらしいか。

 

「でも、ありがと。私のために買ってくれたんでしょ?」

 

「……まぁあれだけ食べたそうにしてたらな」

 

 グランプリ中は食事制限でケーキどころか甘いものすら食べてなかったから、その敢闘賞でもある。いつの日か買ってあげられなかったケーキの分も含めて三つだ。

 

「じゃあ早速食べていい?」

 

「おう、好きなの食べていいぞ」

 

「……お兄ちゃんはどれ食べるの?」

 

「俺?いや、俺の分は買ってないから全部食べていいぞ」

 

「……ダメ。お兄ちゃんも一つ選んで」

 

「いや、俺甘いもんはあんまり…」

 

「じゃあこれね。はい」

 

 そう言って有希から強引にケーキの一つを渡される。確かにそんなに甘くないものではあるが……本当にいいのだろうか。有希のために買ったんだが。

 

 とはいえここで返して有希が不機嫌になられても困るので、大人しくそれを手にして、皿の上に並べる。

 

「いただきます」

 

「いただきます……んー!美味しい!」

 

 有希の満面の笑みを見ながら俺もケーキを口へと運ぶ。

 

 ほろ苦くも、甘みが感じられるそれは、甘いものが得意でない俺でも、すんなり受け入れられるものだった。

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