星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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不審者と季乃とバンプロ

 有希がバンプロに入ってから少し経った。元から適応力が高いこともあり、彼女はすっかりバンプロに馴染んだみたいで隙を見てよくサボっているそうだ。……俺としては頑張ってほしいところだが、元よりダウナー気質のある子だ。練習はちゃんとしているだけよしとしよう。

 

 それよりも問題は季乃にあるみたいで、彼女、バンプロの他のアイドルにちょっかいをかけすぎて色々と問題になっていると聞く。確かに以前俺がバンプロ行った時も鈴村さんと口論していたし、話をする必要があるのかもしれない。

 

 思い至ればなんとやら。俺は季乃に連絡して、関係者が入れるスタジオの休憩室まで来ていた。

 

「あ、不審者です!」

 

 そんな言葉と共にスタジオから出てきたのはベージュの髪をミディアムにした黄色の目の少女。季乃だ。

 

「……いい加減その呼び方どうにかならないのか?周りの目がきついんだが」

 

「事実じゃないですか!」

 

「事実じゃねぇよ」

 

 実際のところ確かに元不審者には違いないのだがここで否定しないと、周りからの評価が怖いのでそういうことにさせてもらう。

 

「仕方ないですね、そういうことにしておいてあげましょう。ってことで用件はなんでしょう?私に愛でも囁きにきましたか?」

 

「なわけあるか。……ま、ちょっと話があってな。飲み物買ってくるからそこで座っておいて」

 

「あ、私ロイヤルミルクティーで」

 

「……自販機にあるといいな」

 

 偶然、自販機にそれっぽい商品があったので、俺分と一緒にそれを買い、席へと戻ってくる。

 

「私思うんですけど、一度お店の紅茶飲んでしまうとペットボトルの紅茶って味が違いすぎて飲めなくなると思うんです」

 

「……まぁ言わんとしていることはわかるが、買ったんだから飲めよ。お前が言ったんだぞ」

 

「全く慎二さんは我儘ですねぇ」

 

「お前がだよ」

 

 いつもの調子の季乃に呆れながらも俺も席に着き、ミルクティーを口に当てる。確かに店のものと思って飲むと雑味がありすぎるよなぁ……やけに甘いし。

 

「それで、お話しってなんですか?」

 

 そうだった。俺はミルクティーを置き、真剣な眼差しで季乃を見つめる。

 

「……その……バンプロはどうだ?」

 

 色々と問題起こしているらしいな。そんな言葉を言おうとしたが、彼女の目を見ていると咄嗟に別の言葉が出てきた。面と向かうと話すとなると……ちょっと言いずらい。

 

「うーん、ちょっと思ってたより堅苦しいなぁって感じですけど。まぁ設備はしっかりしてますし、何より面白い子がいっぱいいて楽しいですよ!」

 

「そうか」

 

「最近もとっても可愛い子見つけたんですよ!こころちゃんって言うんですけど、お調子者で人を揶揄うことが好きで、頭にまきびしを付けた子なんですよ!」

 

 ……頭にまきびしをつけている?まきびしってあれだよな。フィクションで忍者が良く使っている足下に撒く棘みたいなものだろ?それに頭にって……どういうこと?

 

 いや真面目に考えるのはよくないな。季乃のことだ。アクセサリーか何かを揶揄って言っているのだろう。間に受けとる必要はない。

 

「最後のはともかく、それ以外だと季乃とそっくりじゃないか?」

 

「私もそう思ってですね。仲間意識でその子がいじめていた愛ちゃんって子を私も一緒にいじめてたんですけど、なぜかこころちゃんが怒り始めてですね。それがすっごく可愛かったです!あの子、根は真面目なんですよ!可愛いですね!」

 

 色々と聞きたいことがあるが、その前にまず言わないといけないことができた。

 

「季乃、いじめちゃだめだ。トラウマにだってなることがあるんだ。それは止めろ」

 

「大丈夫ですよ。その辺の塩梅は得意なので!」

 

「それでもだ。最近ってことは、新人の子なんだろ?先輩にそんなことされたら事務所自体が怖がられる」

 

「うーん、私が見た感じそんな子じゃないと思うんですけどね……。まぁわかりました。いじめるのはこころちゃんと慎二さんだけにします!」

 

「百歩譲って俺はいいから、そのこころちゃんとやらもいじめるのはやめてあげろ」

 

「いじめの許可もらいました!」

 

 ……しまった。失言だったか。まぁ季乃のことだから度の過ぎたことはしないだろうが、ぎりぎり俺が怒るか怒らないラインを踏んでくるから厄介なんだよな。

 

「まぁそれは置いておいて、そのこころちゃんや愛ちゃんとやら以外とはどうだ?仲良くやっているか?」

 

「そりゃもちろん!みんな面白い人ばかりですよ!最近だとあのLizNoirの莉央さんと仲良くお話をしましてね」

 

 莉央さん…神崎莉央さんのことか。前あったときは雰囲気もピリピリしていたし、季乃とは合わないと思っていたが……。

 

「私の歌声のことを聞いてきたんで、私言ってあげたんですよ!私に歌で勝てたら教えてあげるって。なので今度一緒にカラオケ行くことになりましたー!わーい」

 

「何やってんだお前」

 

 先輩に喧嘩を売るな。莉央さん、それ絶対怒っているやつじゃん。後それは仲良く話していない。バチバチに火花切ってただろ。

 

「あ、リズノワと言えば、葵さんはあんまり私と話してくれないから嫌いです。君と話すと疲れるんだ、だそうです!酷いですよね!」

 

「正当な評価じゃないかな……」

 

 こんな調子でずっと話されたら確かに疲れるよな。近くに有希がいればなんとか手綱を握っててくれるんだろうが。

 

「じゃあ次はトリエルですね!トリエルの子たちはですね、コンセプト通り天使のようなやさしさで、いい子ばかりですね!あ、でも優さんは別です。あの人だけ内心真っ黒です。堕天使ですよ」

 

 優さん…鈴村さんとは確かに合わなさそうというか、前あったときもバチバチに殴り合ってたもんな。水と油というか、仲良くやっていけそうなビジョンが見えない。

 

「ほんわかしてそうに見えてつかみどころがないのが特に嫌ですね。掴むところはいっぱいあるのにですね」

 

 ……まぁ季乃よりかはあるだろうなぁ。あの子、さすがにあの女優の子だけあって大きいもんな。遺伝だろう。

 

「あ、私のを見た料金は後でいただくのでご了承をー」

 

 見れるところないだろ、と咄嗟に口にしかけたのを必死に押さえつけた。危ない危ない、口は災いの元だ。

 

「蹴るなって。何も言ってないだろ」

 

「季乃ちゃんセンサーが働きました」

 

「壊れてんだろ」

 

 露骨にすねを狙ってきたその蹴りをなんとかガードしながら季乃を宥め、次の話へと移す。

 

「じゃああの子は……すみれちゃんはどうだ?」

 

「すみれちゃん!あの子好きです!可愛いですよね!よしよししてあげたくなっちゃいます!」

 

 季乃が好き、可愛いって言うと露骨に心配になってくる。純粋さに乗じていじめてないだろうか。

 

「ご安心を!すみれちゃんをいじめる子はお姉ちゃんたる私が許しませんので!」

 

「お前が一番心配なんだよな……」

 

 ってかお姉ちゃんってなんだ。あの子の方がよっぽど立派だぞ。

 

「じゃあ最後に天動さんは?」

 

「……あの人、優しいんですけど、なんか怖くないですか?」

 

「怖い?どこがだ?」

 

「この間なんてですよ。レッスン終了後にいきなり倒れたかと思いきやあの人寝てたんですよ?別の日に会話も聞いたことがあるんですけど、チョコレート味のもんじゃ焼き食べたいとか、レタス味のグミを食べたいなんて言ってたんですよ?あの人おかしいですよ」

 

 そ、そうなのか?天動さんがグミが好きなのは知っていたが、そこまで偏食だとは知らなかった。倒れた話は普通に心配だ。

 

「だから正直、私もあんまり会話したことないんですよね。怖いので」

 

「……直接言ってやるなよ。たぶん傷つくぞ」

 

「言いませんよ。怖いので」

 

 そんな怖い、怖い言わなくても……。少なくとも俺は意外と話してみると面白そうな子だと思ったけどな。普段のストイックさもあってギャップがあるというか。

 

「まぁそんなところですかねー。私のバンプロでの評判聞いて楽しかったですか?」

 

「……気づいてたのか?」

 

「なんとなくって感じでしたけど。まぁ私もやりすぎないようにはするのでご安心くださいませー」

 

「それがわかっているなら、まぁいいか。元気にやれているようでよかったよ」

 

「どうもです。それよりもですね!私、パンケーキが食べたい気分です!」

 

「……奢れって言うんだろ。わかったよ、話のお礼ってことにしといてやる」

 

「いぇーい!」

 

 

 

 

 

 季乃に連れていかれた喫茶店は、隠れ家っぽい場所らしく値段の割には美味しいものが多いと評判で、あの莉央さんも隠れて来ている場所らしい。

 

 紅茶の味は確かによかったし、それだけでも来る価値があるなって感じだったんだが、なぜか注文していないパンナコッタが目の前に現れてテンションが下がった。

 

「私からのお礼ですよ!」

 

 俺は季乃を睨みつけながら、それを口に入れる。

 

 ……どこまでも甘いそれはやっぱり俺の口には合わない。

 

 だけど、たまにはこんな甘さも悪くはないかと思える味だった。

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