星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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不審者と月スト

 サニピとは無事に和解でき、後は月ストの子たちだな、なんて考えていたが、どうやら月ストの子らとはすでにある程度解決しているらしい。

 

 聞くところによるとどうやら月ストの琴乃ちゃん、渚ちゃん、芽衣ちゃんとは学校が同じらしく、それを嗅ぎつけた季乃が突撃したことである程度、話す仲にはなったとのことだ。

 

「ちゃんと連絡先も交換してもらって今では連絡も取り合っている仲なんですよ!」

 

 琴乃ちゃんのほうは渚ちゃんガードが入って交換してもらえなかったんですけどね、と季乃はスマホを画面を俺に見せてきた。

 

「見てください!この会話!青春って感じですよね!」

 

「いやお前これスタ連してるだけじゃないか。やめてくださいって返されているし…何やってんの」

 

「好きな子ほどいじめたくなるって言うじゃないですか。ほら慎二さんがいつも私にやっているやつですよ!」

 

「季乃、それは迷惑だからまじで止めろ。後、俺はいじめている方じゃなくていじめられているほうだ」

 

「自意識過剰ですねぇ。まぁ挨拶ついでなので今後はやりませんよ」

 

 まぁこんな感じで、やっぱりと言うべきか季乃との関係は問題がある。

 

 サニピとは違い、月ストの子は季乃の影響をもろに受けた節もあるし、こっちから仲直りしてくださいというのもおこがましい。

 

 ただ、まぁ月ストの子たちはなんだかんだ逞しいし、季乃のことはそういうやつだって受け入れている節もあるから、俺がそこまで介入するべき問題でもないのかもしれない。

 

 むしろ、問題があるとすれば……俺の方か。

 

 

 

 

 

 

 後日、有希がレッスンに向かった後、俺は一人星見寮へと向かった。

 

 今日はサニーピース、月のテンペストともにオフにしてあるというのはすでに小耳にはさんでいる。なら彼女…芽衣ちゃんも今日はそこにいるはずだ。

 

 芽衣ちゃんは、俺がサニピと月ストを追いかけまわしていたことを知っている。だが、グランプリ前ということもあり、事を大きくしないために、俺に注意だけして放っておいてくれたという過去がある。

 

 グランプリが終わった今、いたずらに事を大きくしないでくれたのは嬉しいが、それでも俺自身として彼女に迷惑をかけてしまった、余計な苦労を強いてしまったというのは心苦しい。

 

 いずれ俺の口から話すと言ってしまったし、いつか話をしなければとはずっと思っていたのだ。

 

 ……それが今、なのだろう。

 

 今後、俺がどうなるかわからない。警察に突き出されるかもしれない。だけど俺なんかのことより彼女にこれ以上苦労をかけたくない。その一心で、俺は覚悟を決め、寮のインターフォンを押した。

 

『はい、どちらさまですの?』

 

「御堂です。ちょっと用がありまして……め、早坂さんはいますか?」

 

「芽衣ならすぐそこにいますけど……はっ!いませんわ!芽衣は不在です!」

 

 ……なんで噓つかれたんだ?

 

 インターフォン越しの相手…すずちゃんは確か星見寮へ帰宅させるときに会った以来だ。あのときは確か季乃がいて……不和を起こそうとしていたときだな。その隣にいた俺も確かに印象悪いか。

 

『すずにゃん呼んだー?』

 

『め、芽衣!あっち行ってくださいまし!大事なお話し中なのですわ!』

 

『そうなの?どれどれー』

 

『あっ、芽衣!カメラを覗かないで……』

 

『あ!御堂君だー!芽衣、ちょっと行ってくるね!』

 

『ちょっと、芽衣!』

 

 芽衣ちゃんさすがだなぁ……。ずっとぶれないというか、気ままに動いている様は微笑ましくある。

 

 すずちゃんとのやり取りを見てほっこりしていると玄関の戸が開き、そこからポニーテールの子が現れる。

 

「こんにちはー!芽衣だよー!」

 

 元気よくそこから現れた子はインターフォン越しで話していた声と同じ。芽衣ちゃんだ。

 

「ちょっと!芽衣!」

 

 それに追いかけてかすずちゃんも後を追ってきた。……んー、こうなると少し話しづらいか。

 

「……早坂さん、ちょっと大事な話があるんですけど…大丈夫そうですか?」

 

「早坂?芽衣で大丈夫だよー?というかなんで今更?」

 

 ……俺が芽衣ちゃんに向かって芽衣ちゃん呼びしてたことあったっけ?どこかでバレてたか。

 

「あーじゃあ芽衣ちゃん大丈夫か?」

 

「大丈夫だよー!どこ行く?」

 

 行く場所か、全く考えてなかったな……。条件としては人が少なくてゆっくりと話せる場所。……今の時間ならあそこがいいかもな。

 

「高台の傍にある海岸沿いとかどうだ?あのあたりなら人も少ないし」

 

「いいね!行こ行こ!」

 

 ……あ、しまったな。そういえば有希に一言伝えてくるべきだったかもなぁ。警察に突き出される前に時間貰えると嬉しいんだけど。

 

「め、芽衣?た、大変ですわーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 少し前にも来た、星見市の高台の傍にある海岸。季節が季節だからか案の定辺りには人影は見えなったけど、一つ問題があった。

 

「悪い、ちょっと寒いな」

 

「そうだね。芽衣もぶるってきちゃった」

 

 天気も良く海はきれいだが、この時期の海風はちょっとキツイ。せめて風だけでもしのげる場所に移動し、そこに偶然会った椅子に腰かけた。

 

「こんなところがあったんだね!芽衣知らなかったよ!」

 

「たぶん、祭りのときに設営したまま片付けを忘れていったんだろうな。ありがたいことに誰かが手入れしているみたいだけど」

 

「感謝だね!」

 

 やっぱり、芽衣ちゃんは優しい。俺が言いたいことはわかっているだろうに、こうして雑談に乗ってくれるなんて……。俺も覚悟を決めよう。

 

「芽衣ちゃん…いや早坂さん。今日はあの時のこと、グランプリ前に俺が君たちを追いかけまわしていたことを謝りに来ました」

 

 あの時の俺は長瀬麻奈に囚われて、彼女の妹や彼女と同じ声を持つ子たちを守ろうと必死だった。

 

 だけど、結局俺がどうこうしても物事は変わらなかったし、事態は悪い方向へ進んでいった。むしろ、俺がいた分、余計に話がこじれることだってあった。

 

 結局のところ、俺の行動は余計だったし、何ならマイナスだったわけだ。

 

「……やっぱりそうだったんだ」

 

「理由は前にも言った通りです。長瀬麻奈と同じ目にあってほしくないから。ただその一心でやっていました。……信じられないかもしれませんが、本当にそれだけです」

 

「うん」

 

「けど、結果として皆を怖がらせることになってしまった。だからそのことを謝罪させてください。本当に申し訳ございませんでした」

 

 俺は立ち上がり頭を下げる。芽衣はその反応を見て驚いたような表情を浮かべると、言葉を探すように慌て始めた。

 

「えっと、実は芽衣も聞いただけで、目にしたーとかじゃないから怖がっていたことはないよ。たぶん、他の皆もそうじゃないかな」

 

「そ、そうなんですか?」

 

 そうなってくると話が変わる。じゃあ誰が俺を見ていたんだ?

 

「うん、芽衣も最初は嫌だなーって思ってたけど、実は見守ってくれているだけだって聞いてちょっと安心したもん」

 

 ってことは……もしかして俺の早とちりだった?いやでも、誰かに聞いたとはいえ、それを他の皆に黙っていてくれたのは事実だ。

 

「それでも早坂さんに嫌な思いをさせてしまって申し訳ないです」

 

 そう言って俺は再び頭を下げた。

 

「もうだからいいってばー」

 

「いや、これはいいじゃすまないんです。本当に申し訳ございませんでした!」

 

「ちょ、ちょっと!床に座り込んで…土下座!?」

 

「すみませんでした!」

 

「地面に頭ぶつけたらいたいよー!やめて!」

 

「いえ、こんな頭などここで砕いて……」

 

「やめて!」

 

「芽衣!!」

 

「芽衣ちゃん大丈夫……え?」

 

「こ、これは……」

 

「一体どういうことですの?」

 

 

 

 

 

 

 気が付くと月ストの子たちが集まってきており、彼女たちは不思議そうな顔で辺りを見渡していた。

 

「頭を上げてください」

 

 頭上から琴乃ちゃんの声が聞こえる。俺も少し騒ぎすぎた。痛みである程度冷静になれたので、地面に座ったまま頭だけを上げた。

 

「うわ……」

 

「血、血が!」

 

「芽衣、水取ってくる!」

 

「絆創膏ならありますが……これで足りるでしょうか」

 

「わ、わわわわわ」

 

 彼女たちは俺を見て急に慌てたように動き始めた。一体どうしたというんだ。

 

「どうしたんだ?何かあったか?」

 

 血に水に絆創膏。もしかして誰か怪我したのか!?

 

「み、御堂さん!動かないで!」

 

 それは緊急事態だと俺は立ち上がろうとしたが、途端呼び止められた。

 

 え、なんで……。いや冷静に考えれば不審者である俺がここでどうこうするのはよくないか。見たところ、大きな怪我が見えるわけでもないし……。

 

「首も動かさないでください。じっとしていてください」

 

「はい……」

 

 有無言わせぬ渚ちゃんの声に従い、俺はその場で固まることにする。

 

 すると、どこかからペットボトルの水とタオルを取ってきた芽衣ちゃんが現れた。

 

「持ってきた!これ使って!」

 

「芽衣ありがとう!私が拭くから、渚と沙季は傷の具合を見ていてほしい」

 

 やっぱり誰かが傷しているのか。でも誰が……。なんて思っていると、琴乃ちゃんが水で濡らしたタオルを俺のでこの辺りを拭き始めた。

 

「えっと?」

 

「動かないでください」

 

 水を濡らした部分で拭き、零れた水を乾いた部分でふき取る。何度かそれを繰り返した後、彼女は渚と沙季に合図をすると、俺の額に絆創膏を張り始めた。

 

「処置はしましたが、あくまで応急処置程度なので、何かあれば病院に行ってください」

 

「丁度前髪で隠れる位置で、周りからは見えないので大丈夫ですよ」

 

 沙季さんと渚ちゃんからそう声がかけられる。……もしかしなくてもさっき頭打った時の手当してくれたのか?

 

 それは……申し訳ないな。

 

「ちょっと!なんでまた頭を下げようとしているのですか!怪我しますわよ!」

 

「やめて!」

 

 ……芽衣ちゃんにやめてって言われると心に来るものがある。俺は頭を下げるのをとどめてひとしきり謝った。

 

「……それでここで芽衣と何をしていたのですか?」

 

「それは……」

 

 芽衣ちゃんを見ようとして、止めた。もう言い訳をして誤魔化す場面ではない。

 

「謝りにきたんです。俺は……君たちを追いかけまわしていたから」

 

「え……」

 

 反応は思い思いだ。琴乃ちゃんは驚いたように声を洩らし、渚ちゃんはやっぱりかと言わんばかりに険しい顔で、沙季さんはまだ把握してなさそうな顔で、すずちゃんは頭にはてなを浮かべている。

 

「いつの日か話しましたよね?グランプリが終わったときにすべて話すって今日はその話をしに来ていました」

 

 もう取り繕う必要もない。すべて話そう。

 

 

 

 

 

 そうして俺が長瀬麻奈の同級生で彼女が好きだったこと、そして彼女が亡くなって悲しんだこと、そして二度とこんな目に合わせないために星見プロの子を見守っていたことをすべて話した。

 

 どんな罵倒も受け止める覚悟だったが、俺の発言を受けての彼女たちの反応は、微妙なものだった。

 

「……本当にそれだけですの?もっと盗撮したり、盗聴したりしているのではなくて?」

 

「命にかけて、それはないと誓う。なんならスマホを見てもいい。いっぱいあるから確認は大変だろうが、全部見て構わない」

 

「……なんでいっぱいあるんですの」

 

 それはまぁ、SNSでの活動の一環で……。それよりも。

 

「怒らないのか?」

 

 正直、嫌われるどころかこのまま足蹴にされてもおかしくないと思っていたから反応に驚いている。

 

「怒る……というより」

 

「なんといいますか……」

 

「……思った以上に何もしてなかったから」

 

 ……え?いやいや、結構なことしているだろ。行きも帰りも先んじて危険なものを探し、そうならないように対処し、彼女たちの姿は極力目に入れないようして、周りの人物を見張る。

 

 やっていることが不審者そのものじゃないか。

 

「でもそれって私や琴乃ちゃんたちが誰かに襲われたとしたらどうしてたんですか?」

 

「そうならないようにしてたんだが……もしあったとしたらすぐ駆けつけて犯人に跳び蹴りだな。そして動けないように確保する」

 

「うわ……」

 

「ボディーガードですわ……」

 

 ……さっきから月ストの子たちの反応がおかしい。違う意味で引かれている気がする。

 

「ともかく!俺は悪いことをしたんです!好きにしてください」

 

「ど、どうしようか?」

 

「うーん……」

 

「芽衣もやってもらいたいことはないかなぁ」

 

 ……それはそれで傷つくんだけど。

 

「あ、それなら、星見寮のお庭手入れの手伝いとかどうでしょうか?そろそろ草抜きもしないとですし」

 

「名案ですわ!……これで私がしないで済みますわ」

 

「芽衣も手伝うー!すずにゃんもやろー!」

 

「え!私は……」

 

「ふふ、言いだしっぺですので、私もお手伝いしますね」

 

「琴乃ちゃんはどうする?」

 

「それならみんなでやろっか」

 

「「「おー」」」

 

「お、おー…ですわ」

 

 ……すずちゃん、俺も同じ気持ちだよ。

 

 

 

 

 

 

「つ゛か゛れ゛ま゛し゛た゛わ゛」

 

「お疲れ様です。お水お持ちしました」

 

 それから数時間、手分けして庭の隅々まで掃除し終えた俺たちは思い思いに縁側でくつろいでいた。

 

「御堂さんも」

 

「ありがとう」

 

 沙季さんに水を貰い、くつろいでいると背後から戸が開く音が聞こえてきた。

 

「ただいまー!……あれ、琴乃ちゃんたち何しているの?」

 

「あ、さくら。庭の草抜きしていて丁度終わったところ」

 

「えぇ!そうなの?私も言ってくれれば手伝ったのに…」

 

「まぁこっちはオフだったし、それに……」

 

 琴乃の視線が俺を向くと同時に皆の視線が俺へと集まるのを感じた。

 

「この人が…御堂さんが手伝ってくれたから」

 

「あ、あの時の……」

 

「御堂、なんでここにいるんだ?」

 

 遅れて入ってきたマネージャーが姿を現す。俺だって同じセリフ言いたいよ。

 

「御堂さんはその……」

 

「俺が迷惑かけたからお礼したいと言ってな。それで草抜きを手伝わせてもらってた」

 

「そうだったのか……」

 

 月ストの子らをちらりと向き頭を下げる。これでなんとか話を合わせてくれるだろう。

 

「ありがとう、御堂。おかげで助かったよ」

 

「……お礼なら月ストの子に言えよ。俺は何もしてないし」

 

 実際に俺は俺を言われる立場ではない。投げやりにそう言うと、俺はここらへんでお暇しようと立ち上がった。

 

「じゃ、俺はここで」

 

「ありがとうございました。また会いましょう」

 

「ありがとー!今度またマネージャーの学校時代の話聞かせてねー!」

 

「おう!こいつの面白話ならいっぱい持ってくるから楽しみにしてろー」

 

「……何話したんだ?」

 

 マネージャーの声を無視して、俺は星見寮を後にする。

 

 ……結局のところ、またも彼女たちのやさしさに甘えてしまっただけだったな。芽衣ちゃんも悩んでいる様子はなさそうだったし、本当に良かった。

 

 でも、こんなことはもうこれっきりにしないとな。彼女たちが優しすぎて何度も甘えてしまいそうになるから。

 

 俺はでこの上の方に張られた絆創膏を軽く触る。……剝がすにはまだちょっと早いか。

 

 夕暮れの中、俺は一人で自宅へと帰った。

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