始まりの音
NextVenusグランプリから数ヶ月後。季節も少しずつ暖かくなり始めた頃。
俺はYU☆KI★NOの二人から相談したいことがあると、バンプロの事務所に呼び出されていた。
YU☆KI★NOは俺の妹である有希と、その同級生である季乃が結成したバンプロダクション所属のアイドルだ。家族が所属しているということもあり、俺も彼女たちが全力でアイドル活動できるようにサポートしていた。
つい先日も季乃の我儘に付き合って……いやこの話は思い出したくない。
バンプロは俺が住む星見市とは違い東京にあるため、そこまで移動する必要がある。いつものように電車で揺られながら、俺は彼女たちの相談事について考えていた。
有希は元より誰かに相談する人ではない。困ったら自分で解決するし、そもそも自分が解決できず困るような事態に持ち込まないような子だ。
対照的に季乃はよく相談事を持ち込む…と思いきや俺を利用して自分が楽したりととにかく周りを振り回したがるやつだ。そんな彼女が相談事というと、どうしても警戒してしまう。
しかし今回の相談事はYU☆KI★NOとしての相談事らしい。今までとは毛色の違うそれにどうしても俺は考え込まずにはいられなかった。もしや、大変なことが起きているのかもしれない、と。
とはいえ、具体的な内容まではぱっと思いつくことがなく、ただただ時間だけが過ぎていく。
気が付くと、目的の駅までたどり着いていた俺は慌てて電車から降りると、そのままバンプロまで足を運んだ。
「やっと来た。お疲れー」
出迎えてくれたのは癖のある黒髪に、ダボっとしたパーカーを着た少女。前を開けたそのパーカーの中には黒いキャミソールが覗き見える。
「有希、お疲れ」
彼女は赤い瞳を一瞬だけこちらに向けると、気だるそうに机に倒れこんだ。
「あ、慎二さんお疲れさまです!」
そう言って明るい声で話しかけてきたのは、ベージュ髪の少女。セーラー服のような白いワンピースを着こなし胸元には黄色いリボン。頭の上にはつばのないオフホワイト系の帽子を被っている。
「季乃もお疲れ」
彼女はその黄色い瞳を真っすぐこちらに向けながら、悪戯気な笑みを浮かべた。
「この帽子可愛いでしょー?季乃ちゃんに惚れちゃいましたか?」
「はいはい惚れた惚れた」
「なんか私の扱い雑になってます!」
いつも通りの季乃の様子に少しだけ安心しながらも、俺は彼女たちが座っている前に着き、早速と本題を切り出した。
「それで、相談事ってなんだ?」
「それよりもですね!慎二さんは私に言うことあるんじゃないんですか!」
「まだ怒ってんの?季乃ちゃん可愛い、わぁ可愛い、惚れたー」
「こいつ一回蹴ってきます」
「蹴るなよ。スカートの中見えんぞ」
「大丈夫です。膝です」
「あっぶないな!まじで当てようとするな…っておい二回目は聞いてない…あ、やべ椅子倒れ……」
ガタンッと音を立てて俺の座っていた椅子が床へと倒れ伏す。同時にそれに座っていた俺も主に腕と膝にダメージを受けた。痛い。
「天罰ですね!ざまーみろって感じです!」
「黒!」
「白です!……はっ!」
今度こそ顎に季乃の足がクリティカルヒットし、俺は床へと倒れた。顎はダメだよ、脳が揺れちゃうから。
「あんま暴れないで。ここ事務所だから」
「本当に迷惑ですよね!この不審者!」
「お前の声が一番騒がしいんだよ……」
痛みを我慢しながら俺は立ち上がり、椅子も元居た場所へ戻す。
……俺自身も相談事と聞いてどこかテンションがおかしくなっているようだ。ここは冷静になろう。
改めて椅子に座りなおすと、俺は二人に向き合った。
「それで話ってのは?」
有希と季乃はお互いに顔を合わせると、代表として有希がその口を開いた。
「――私たちのマネージャーやらない?」