あれから有希とそして季乃とも面接の練習を付き合ってもらい、ようやく面接当日を迎えた。
……わりと地獄のような日々だった。
面接に対する嫌悪感からか、日に日に精神を消耗していき、何なら、有希も季乃もいつも以上に真面目にやってくれたから、そのプレッシャーでさらに精神が摩耗した。
有希は想像通り、堅実に、そして鋭く切り込むような子だ。定番の質問から切り込んだ言葉で俺という人物を深堀りしていくタイプ。
そして季乃は、めちゃくちゃ話しやすい雰囲気を作ってくれて、それでその人の本質を見るタイプ。変化球のような質問も多かった。
だけどそのおかげでなんとなく面接というものが見えてきた気がした。結局のところ、面接というのは俺という人物を知りたいだけなのだ。俺も偽らず素直に話せばいいとようやく気付けた。ありがたいことに、やってきたことや話せることは結構持ち合わせていたから、その辺で詰まることは一度もなかった。
「まぁ…いいんじゃない?」
数十回超えたあたりで有希からはオッケーサインは出た。彼女も覚え覚えだったから慣れなかったようだが、それでも俺の受け答えに違和感は感じなかったとのことだった。
だけど問題は季乃だった。
「全然ダメですね!自信がないことが仕草でわかります!」
季乃自身が元よりコミュ力の塊のような人間で、それを利用できるほどの洞察力と思考力を持ち合わせている子だ。だからこそ、というか彼女の見る視点は鋭いものが多かった。
「あーダメです。作ってきたんだなーって言うのがすぐ伝わってきます。ある程度筋道を立てるのはいいですけど、最終的には今の自分の言葉で言ってください」
「感情をこめればいいってもんじゃないです。感情に訴えるのは人によっては逆効果なのでやめましょう」
「言葉に詰まるのはいいんですけど、長くえーで繋ぐのはやめましょう。適当に話されているようで印象良くないです」
普段とは違い、真面目に淡々と突き出してくるのでシンプルに厳しい。だけど、毎回雰囲気はいいから特別嫌な気分にはならず、俺も進んで改善することができた。
「……うん、一次面接程度ならこれくらいで通るじゃないでしょうか。ここからが本番なのでもっと頑張りましょうね!」
……まぁそんなこんなで手取り足取り、ちょっとした動作の一つでさえ、季乃に教えてもらった俺は、少しは自信を持てて面接に臨むことができた。
そして順調に、一次、二次も越えることができ、いよいよ迎えた最終面接。
「まぁ頑張って。失敗しても別にどうってこともないんだから、気楽にね」
「慎二さんならやれますよ。私を信じてください」
二人に背を押され、社長である朝倉恭一と面接に臨むことになった。
「まじで緊張した……」
面接は無事終了し解放。内容はともかく、自分のやるべきことは全て終えたということをとにかく安堵していた。
受付の人に挨拶をし、事務所の外へ。そのままエレベーターに乗って一階に降りると、そこには見覚えのある二人が待っていた。
「お疲れー」
「お疲れ様です!」
「来てたのか。お疲れ」
有希と季乃は俺の姿が見えるや否やこちらに駆けつけて労りの言葉をかけてきた。それが少しうれしくて俺もつい笑みが浮かんでしまう。
「余裕だね。感触はよかったの?」
「んー、ぼちぼちだな。失敗したとは感じなかった」
「……本当に大丈夫でしたか?」
「話してみると朝倉社長、中々面白い人だったしな。あれでダメだったら諦めるしかねぇよ」
強面風の顔で髪型もオールバックで表舞台に出ていい人なのか疑問だったが、その内面はアイドルへの想いに溢れた不器用な人だった。後ポエマーなのが面白かった。初見で笑わなかったのはファインプレーだと思う。
「そうですか……」
季乃がいつもより静かだ。……まぁ彼女には本気で手伝ってもらっていたし、その分俺の結果が自分事のように気になるのだろう。安心させるためにも、俺は彼女の頭に手を乗せた。
「安心しろ。季乃に言われたことはちゃんとやってきた」
「当たり前ですよ…もう」
彼女は照れたような顔でその手をどけると、先ほどまで空気を吹き飛ばすかのように、いつものような笑顔を浮かべ口を開いた。
「じゃあ今日は面接頑張ったで賞ってことでご飯食べに行きましょう!私、お寿司がいいです!」
「なんでお前が決めるんだよ」
いつもの調子に戻った季乃に笑みが零れながらも、俺は彼女の横を歩き、その場を後にした。……有希が呆れたような視線を向けていたのは気にしないことにした。
そして少しして俺の携帯にバンプロから連絡がかかってきた。
緊張しつつも電話に出た俺に告げられたのは、採用の言葉。
『どうかアイドルたちを支えてあげられる存在になってほしい』
朝倉社長直々にかけられた言葉に、もちろんですと返事を返し、俺は通話を終えた。
……まだ仕事をしたわけじゃないから実感はわかない。でも、ようやくこれで自分も定職についたと考えると安堵が押し寄せてくる。
「麻奈ちゃん、俺、マネージャーになったよ」
写真立ての中の笑顔の彼女に俺はそう告げると、俺は有希にも伝えようと部屋を出た。
――かくして俺はマネージャーとなったのだ。