星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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エンカウント

 どうやらあのスーパー。スーパータケミヤは怜ちゃんがバイトとして働いている場所らしい。

 

 なぜバイトをしているのかは定かではないが、あの日怜ちゃんが飛び出したのは知り合いにアイドルとして会うのが恥ずかしかったからだろう。それならば納得だ。

 

 それにしてもなぜアルバイトなんか…そんなに生活がきついのだろうか。それならば俺が資金を…いやいやそれは過干渉だな。それに俺だってお金を持っているわけじゃない。ブログで稼げるお金など大した資金になっていないし。

 

 ……なんとかアイドル活動を成功させて生活も安定させてほしいな。

 

 そんな思いで眺めていると、怜ちゃんがスーパーに入った後に見覚えのある影がぞろぞろとスーパーに入っていくのが見えた。

 

「あれ、サニーピースのメンバー?」

 

 わざとらしく姿勢を下げ、スーパーに入っていく姿は余計に目立っている。彼女たちは何をしているんだろうか。というかマネージャーお前もいるんかい。

 

 スーパーの中はさすがにここからは覗けない。仕方あるまい、俺も行こう。

 

 

 

 

 スーパータケミヤはよくあるチェーン店とかではなく、地元のスーパーだ。俺もよくここで買い物しているから位置取りは大体わかる。特に魚が安いんだよな、おかげで助かっている。

 

 どこかで聞いたことがあるようなないようなBGMを聞きながら店内を探していると、レジを打っている怜ちゃんの姿とそれを隠れてみているサニーピースの面々の姿があった。……ほんとに何しているんだ彼女らは。

 

 というか、すごい狭い棚の陰によくそんな人数入れたな…雫ちゃんも千紗ちゃんも潰れているし、危ないんじゃ……あ、倒れた。

 

 ぐえっというマネージャーの声を耳にしながらサニーピースの面々が怪我していないか確認する。……大丈夫そうだな、怪我しなくてよかった。

 

「えっ!」

 

 怜ちゃんが驚いたように声を上げる。まぁ急に見知った顔が倒れてきたらそりゃ驚くわな。

 

 

 

 

 

 

 話を聞くところによるとどうやら彼女たちは怜ちゃんがバイトしていることを知らなかったらしく、それで尾行していたとのことだ。

 

 あのさ、マネージャー。サニーピースのメンバーならともかく、お前がやるとまじで犯罪になるから気をつけろよ。

 

 そんなことを考えていると、どうやら彼女たちはナイーブな話をしているようで、しんみりとした雰囲気になっていた。

 

 ……部外者はここで去ろうか。盗み聞きしていい話ではない。

 

 ……あ、そういえば今日の特売なんだろう。

 

 サニピの面々を横目で見ながら今日のチラシを取り中身を追う。今日は…冷食系が多いな。俺は構わないんだがあいつが怒るんだよな。それは省いて…お、国産豚が三割引き、キャベツ、ブリも安いな。ここのブリが異常に安くなるのはなぜなんだろうな。

 

 そうこうしている間に彼女たちの話も終わったらしく、怜ちゃんはレジに、サニーピースの面々は解散してどこかに行ったようだ。

 

 マネージャーいるし、追う必要はないだろう。……お、これも良さげだな。

 

 俺は安心して買い物を続けていると、視線を上げた先から一人女性が歩いてきているが目に入った。

 

「あ」

 

「うん?」

 

 年上特有の落ち着いた雰囲気、濃い茶色のセミロングをヘアバンドで止めたゆるふわのウェーブ。彼女はトパーズのような瞳を真っすぐにこちらに向けていた。

 

 ……間違いない遙子さんだ。アイドルとプライベートでエンカウントしてしまった。逃げなくては。

 

「あ!君、握手会にも来てくれた――」

 

「失礼します!!」

 

「え、えぇ!なんで逃げるのー!?」

 

 すまねぇ遥子さん。俺はアイドルはファンとして見て応援したいだけで、プライベートで俺という存在に関わらせたくないんだ。君たちの輝きを俺で曇らせたくはないんだ。本当にごめんなさい。

 

 手早く買うものをまとめると、レジに出す。遙子さんは……まだ気づいてないな。よかったよかった。

 

「3684円です」

 

 なんか買う物いくつか忘れている気がするが、遙子さんという天使がここに降臨している限り、俺はここで買い物することはできない。明日くらいにまた買い物に来よう。

 

 ……あ、そういやレジ袋つけ忘れていたわ。

 

「すみません、レジ袋お願いします」

 

「一枚5円になります。3689円です」

 

 財布からお金を取り出し、トレイの上にお金を置こうと顔を上げて気が付いた。

 

 見惚れするようなスタイルに金色の髪。さらに視線を上げると翡翠の瞳と目が合う。

 

 あ、怜ちゃんじゃん……。

 

「どうかしましたか?」

 

 こてんと傾げた顔はとても可愛らしく、普段の凛々しい姿とギャップが……いやいやそうじゃない。撤収だ、撤収。こんな危険な場所に居てられるか!

 

 俺はなんでもないと声を掛けると、素早くお金を支払い、商品の入った籠を受け取る。彼女をなるべく視界に入れないように商品をレジ袋に移すと、俺は逃げるようにスーパーを出た。

 

 あ、あぶねぇ。なんだここは、天国か?俺という存在が浄化されるところだったわ。

 

 汗をぬぐいながら俺は帰路につく。彼女たちを目の前で見ることができて幸運な一日だったが、同時にメンタルが削られるな。直視できないや。

 

 俺は緩んだまま戻らない頬を隠しつつ、家にたどり着くと冷蔵庫に買ってきたものを仕舞い始める。

 

 ……それにしても遙子さんに怜さん、すごい綺麗だったし可愛かった。そう考えるとなんかもったいないことした気が……いやいやあれ以上みると不快にさせてしまうし、いい引き際だったと思う。うん。

 

 自分で自分を納得させていると、背後からわずかに足音が響いた。

 

「あ、帰ってたんだ。うわ、何にやにやしてんの気持ち悪い」

 

 俺はその声で一気に現実に引き戻される。……いたのかよお前。部活じゃねぇのか。

 

「俺もお前の声聞いたら不快になったわ」

 

「うわ、話しかけてくんな」

 

「あ?てめぇから話しかけてきたんだろ?」

 

「私の話聞いてた?」

 

「俺の話聞いてたか?」

 

「気分悪くなった。部屋に戻る」

 

「俺もだよ」

 

 まじでこいつなんなんだよ。喧嘩売ってきて買ったらなんでいきなり掛けてた梯子外すの?俺はてめぇのサンドバッグじゃねぇぞ。

 

 ……まぁにやにやしていたのは俺が悪いし、あいつがいないと思って帰ってきた挨拶してなかったから、あいつが気づけなかったのも俺が悪いか。とはいえ謝る気は更々ないが。

 

 買ってきたものは仕舞い終えたし、まだ飯の時間には早い。俺も部屋に戻ってアイドルの配信アーカイブを見ることにした。

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