「どうして……どうしてあなたはそんなことするんですか!私の夢を、どうしてそう簡単に崩せるんですか!」
「俺のお疲れ様会だしな」
「私はなんでもよかったし」
無事に俺の就職が決まった報告を有希と季乃にすると、お疲れ様会やりましょう!とのことでご飯食べに行くことになった。
季乃は寿司が食べたかったみたいだったが、俺が食べたかったのは肉系。ということで、俺達は近所の焼き肉店に来ていた。
「久しぶりにきたけど、やっぱうまいな。タレが違う」
「……そこはせめて肉って言おう?」
「だってここらの肉って脂身ばかりじゃん。それでもタレをつければうまいからいいよな」
「ひねくれてるね」
食べ放題プランを頼んでいるからお金のことも気にせず食べることができる。ましてや今日は二人の奢りときた。人の金で食う肉はやっぱうまい。
「ほら季乃、こうして米に乗せれば寿司みたいじゃないか?」
「いやそれお肉をご飯に乗せただけじゃないですか」
「世の中には肉寿司というものがあってな」
「じゃあもうちょっとお高い肉を乗せてもらえませんか?」
「そんな細かいことばっかり気にするな。もっと食え」
「有希ちゃん!こいつパワハラ上司みたいになっててうざいです!マネージャーからモラハラ受けてます!」
「受かったからテンションがバグっているんじゃない?今日くらいは多少は我慢して…」
「有希も元気にやっていこうや!もっと笑顔でにこーって!」
「……次喋ったらお兄ちゃんの部屋にあるグッズ、一つ一つ燃やしていくから」
「悪かった。調子乗った。やめてくれ、頼む」
頭に冷水を当てられた気分になった。有希って冗談は言わないから、まじで言ったことを淡々と実行してくること知っているだけにそれはヤバいと感じた。仕方ない、有希をからかうのはやめておこう。
「じゃあ季乃!今日も可愛い季乃ちゃんにかんぱ―」
「あ!私のスマホから見覚えのある写真がいっぱい出てきましたよ!なんですかねこれ」
「待った。それはダメなヤツや。画面に出さないでくれ」
季乃のスマホに映っていたのは、俺が星見プロを遠くから見ていたときの写真の数々。というかそれってあの時目の前で削除してなかったか?まだ持っていたのか……。
「仕方ありませんねぇ。待ち受けにしておいて上げますよ!」
「まじでやめろ。頼むから」
なんとか季乃を抑え込むことには成功し、写真は今度こそ削除してもらった。……でもたぶんこいつのことだから別端末とかクラウドに保存してあるんだろうなぁ。
「……なんの写真なの?」
「デートしたときの写真です!」
「ちが……違うんだけど……否定しずれぇ」
無理に否定すれば有希の疑問に答えないといけなくなる。かといって否定しないのもそれはそれで問題だ。
「へー」
有希はどうでも良さげに乾いた返事をすると、コップに注いであったカルピスを啜る。……まじでどうでもいいらしい。
そんなこんなで俺たちは仲良くご飯を食べ進めていると、話は自然と俺の仕事についての話になっていった。
「てかさ、無事にお兄ちゃんバンプロのマネージャーとして働くわけになったんだけどさ、ぶっちゃけ私たちのマネージャーやれるの?会社の都合とかあるでしょ」
「あ、それ私も気になってました!」
「それなんだけどさ。正式に決まったわけではなさそうだけど、なんとなくやれそうな雰囲気はあった。要望を伝えたときに反応がよかったんだよな」
俺がマネージャーとなったのは、彼女たちをサポートするため。つまり彼女たちのマネージャーとやれないと意味がないため、それを一番に伝えたのだが、意外と朝倉社長からの反応はよかった。
「……なんでだろうね?」
「俺も引っかかってた。しばらくは別アイドルを見て、いずれは、ってのが筋道だと思ったんだけどな」
「まぁまぁそんな細かいことはいいじゃないですか!目的達成ってことで!」
「それはそうなんだが……」
「私、飲み物注ぎ行ってくる」
「あ、私もー!」
席を離れた二人を見送った後、俺はもう一度、俺がYU☆KI★NOのマネージャーになりたいと志願したときの朝倉社長の反応のことを考えてみる。
……バンプロからしてみれば、YU☆KI★NOの二人は今一番売り出したい新人アイドルになるはずだ。それもそのはず、彼女らは初出場どころか、デビューライブも済ませていない状態で、NextVenusグランプリの本戦に出場し、トップ8に入ったのだから。
そんな期待の新星である彼女らを新人である俺に任せられるだろうか。
……俺が逆の立場だったら絶対許可しない。いくら親交があるといえど、モチベーターとしての役割とマネージャーとしての役割は変わってくる。マネージャーとして動くのであれば、新人の俺をアサインなどするはずがない。
だとすると、俺をマネージャーでない、違う役割として期待されている?先も考えた通りモチベーターとしてはある程度の活躍は見込める。なら、別のマネージャーをつけ、俺は研修としてそのマネージャーの補佐として働かせる。……これなら納得がいくな。会社としても俺の研修も兼ねてモチベーターとしての才覚を発揮できる。
だけど本当にそうだろうか。有希と季乃の話から今のバンプロには何かしらの問題がある。その一端が朝倉社長にあるとして……いや逆だ。朝倉社長がそれに巻き込まれていて、バンプロ内部に何か悪意が存在するとすれば、それに染まっていないと思われる俺をYU☆KI★NOにつけるというのは一理ある選択かもしれない。会社としてはリスキーにはなるが。
……後の考えとすれば、有希と季乃が事前に根回ししていた可能性。いやこれはさすがに邪推のしすぎか。
いくら何でもあいつらに失礼だったなと反省していると、二人とも席に戻ってきた。
「おかえり……って何してんの?」
「は、離すのですわ!というか、なんであなた方がここにいるんですの!」
「見覚えのある子がいたので捕まえてきました!」
「季乃が勝手にやっただけ。私は知らない」
季乃が掴んでいたのはホワイトブロンドのロングヘアをした、いかにもお嬢様っぽい姿をした子。彼女はアクアマリンのような水色の瞳をこちらに向けていた。
「あー、悪い。季乃、元居た場所に返してきなさい」
「嫌です!これは私が拾ってきました!私が育てます!」
「人を捨て猫みたいに扱わないでくださいまし!」
彼女…成宮すずは器用に季乃の腕を外すと、そのまま逃げようとして有希の前に飛び出した。
「……どうも」
「……どうもですわ」
有希は彼女を捕まえる意思はなかったらしく、軽く挨拶を交わすと、横を通り過ぎるすずの姿をじっと眺めていた。
「あー!有希ちゃんなんで逃がすんですか!せっかく捕まえたのに!」
「ねぇ、あの子って月のテンペストの子だよね?ということは、他のメンバーもいるんじゃない?」
「無視!?」
月のテンペスト。成宮すずが所属するアイドルグループであるそれは、俺にとって馴染みの深い…というより、俺がずっと推してきたアイドルグループだ。
確かに彼女がここにいるということは、他のメンバーもいる可能性が高いか。
「あー!いたー!」
そう思っているや否やこちらに飛び込んでくる影が目に入る。彼女は俺たちの場所に一直線に向かってくると、明るい声で言葉を発した。
「こんばんはー!芽衣だよー!どうしてここにいるの?」
彼女はそう言って、ルビーのような赤い瞳を真っすぐ向けたまま首を傾げた。
「今日は俺の内定祝いでな。皆で飯食いに来てた」
「そうなんだー!……ないていって何?」
「会社への採用…つまり就職が決まったってことですね。おめでとうございます」
芽衣ちゃんを追ってか、続々と背後から新しい顔が現れる。
……月のテンペストのメンバー、そして同じ事務所のアイドルグループであるサニーピースのメンバーも来てたのか。ってことはそのマネージャーも…。
「……奇遇だな、御堂」
「偶然だからな。じゃなきゃ有希と季乃は連れてこねぇよ」
「冗談だ」
彼女たちの背後から、一人のスーツ姿の男性が現れる。彼…牧野は一瞬、険しい表情をしたかと思いきや、途端笑顔になった。
「就職、おめでとう。どこに行ったか聞いてもいいか?」
「聞いて驚け。バンプロだ」
「え……」
牧野とアイドルたちも驚いたような視線を俺に向ける。そうだろう、そうだろう。もっと驚いてくれ。頑張ったんだから。
「もしかして裏口入学ならぬ、裏口入社とか……」
「社長を脅して……」
「バンプロの…弱みを握っている……とか……」
「不審者がバンプロダクションに……」
「真っ当な手段で入りました!」
あんまりの酷い言われように思わず声が出てしまう。俺をなんだと思っているんだ。……いや不審者ではあったけども。
「……慎二さんはちゃんと頑張ってバンプロに入社しました。失礼じゃないですか?」
「ごめんなさい」
季乃の一声で彼女たちの謝罪の声が聞こえた。冗談だってわかっているからそこまでやらなくていいんだけど。
「それよりも、星見プロはどうしてここに?」
「あぁ、星見市で星見プロ全体での合同ライブがあってだな。最近忙しかったし、今日はそのお疲れ様会だな」
「だからみんないたのか」
サニピも月ストもNextVenusグランプリを同時優勝を果たしてから、各地に引っ張りだこだからな。最近は事務所も東京に移したっていうし、忙しそうだ。
「じゃあここらで戻るとしようか。あんまりここにいると周りにも迷惑だしな」
「あぁ、じゃあなー」
「御堂、改めてバンプロへの就職おめでとう。次会う時はライブ会場でかな?」
「そのときは覚悟しておけ。ハンカチ忘れないようにな」
「こっちの台詞だよ」
俺の挑発にそう言い返すと、牧野は元の席へと戻っていった。
牧野とは高校生の同級生だからか、こうして気安く言葉をかけられる。それにあいつのことを知っているだけに、牧野が星見プロのマネージャーでよかったって心底思える。
「あ、終わった?肉なくなったら、注文するけど何がいい?」
「静かだなって思ってたらずっと食べてたのか……」
「別に話すこともないしね」
合理的っていうかなんともまぁ、ドライな子だよな。らしいっていえばらしいんだけど。
「季乃も機嫌取り戻して再開するぞー、ってかなんでそんなに拗ねているんだ?」
「拗ねてません」
「拗ねてんじゃん」
その後は季乃の機嫌を直しながら、三人で時間ぎりぎりまで飯を食って家へと帰った。
翌日、食べ過ぎた影響からか無言で体重計を眺めていた有希がいたのは見なかったことにした。