星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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星見プロへ

 TRINITYAiLE、星見プロへ入所。

 

 朝の通勤中に何気なくネットニュースを見ていると、そこに書いてた文字に思わずせき込んだ。

 

 文を読むと、すでに星見プロダクションの公式からそういった声明が出ており、実際に彼女たちのメッセージ付きで報告がされていた。

 

 移籍理由については辺り触りのないことで濁されていたからわからなかったが、それでも星見プロへ移籍と聞くと、俺としても黙ってられない。

 

 ……今日の仕事は、午前中にイベントでライブ、午後にYUKINOの二人をゲストに迎えたラジオ収録を行うことになっている。今日中に聞きに行くとしたらその後か。

 

 スケジュールとやるべきことを改めて洗い出しまとめると、俺は急いで職場に行き雑務を終わらせ、そのままYUKINOのライブ会場へ直行。

 

 何事もなく進んだイベントの進行を見て満足しつつ、次のラジオ収録について情報をまとめ――

 

「季乃ちゃんアタック!!」

 

「うおっ!」

 

 座っていた椅子ごと吹っ飛ばされた。

 

「いってぇ……何のようだ季乃?仕事中なんだけど」

 

「有希ちゃんもやっちゃってください!行け、有希ちゃん!有希ちゃんアタックだ!……ちょ、こっちじゃないです!私に攻撃しないでください!」

 

 先んじて控室に入ってきた季乃の腕を有希が掴むと、そのまま関節とは逆方向に回す。あれ痛いよなぁ……。俺も学生の頃よくやられたわ。

 

 バッチが足りなかったです、なんて言っている季乃は置いておいて、有希は真面目な表情で俺を見つめた。

 

「あのさ、トリエルのこと気になっているんでしょ?午後の仕事はわかっているし、さっさと行って来たら?」

 

「いや、さすがにそれは……」

 

「じゃあ今は仕事のことを集中してくれない?迷惑なんだけど」

 

 季乃もどこか心配そうに俺を見ているのが目に入った。……これはまたやってしまったな。他のことに気をそらしすぎたか。

 

「悪い。ちゃんとする」

 

「うん、期待してないけど」

 

「……信用得られるように頑張る」

 

「うん、ずっと頑張っておけば?」

 

「……季乃、助けてくれ」

 

「自業自得です!私だって文句言いたいんですけど!」

 

 こうなってしまうと、有希はしばらく拗ねたままだ。トリエルのことは気になるが、YUKINOのことも大切だ。今日は彼女たちと過ごすか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日、正式に星見プロにアポイントメントを取った俺は、東京に引っ越したばかりの星見プロダクションの事務所に来ていた。

 

 以前の事務所とは違い、外見からすごくきれいな場所だ。それに立地がいい。稼げているんだなってのを改めて実感した。

 

「綺麗な場所ですね!バンプロより親しみがあってよさげです!私もこっちに移籍したいです!」

 

「堅苦しくないしね」

 

「馬鹿、あんま下手のこと言うな」

 

 YUKINOは今日はオフにしていたはずだが、なぜか二人そろって俺についてきた。俺が帰れって言っても聞く耳を持たないからもうどうしようもないんだが、また変ないざこざ起こさないかだけが心配だ。

 

「大丈夫ですよ!今日は裏切り者を成敗しに行くんですよね?」

 

「違うわ。……頼むから大人しくしておいてくれよ?」

 

「任せてください!」

 

「何も任せてねぇよ。……有希もこいつ見張っててくれ…ってあれ有希は?」

 

「有希ちゃんならもう先に行きましたよ」

 

「エレベーター来たよ。何階?」

 

 ……頼むから本当に大人しくしていてくれよ。

 

 

 

 

 

「久しぶり、というほどでもないか」

 

「なんだかんだ顔合わせる機会も多いしな」

 

 星見プロで出迎えてくれた牧野に挨拶を交わし、俺たちは中に入っていく。新居らしい木目の綺麗な壁に透明な窓が取り付けられた風通しの良い場所。その一室に俺たちは案内され、そのまま席に着いた。

 

「あ、私たち遊んできていいですか?ここに居てもお邪魔でしょうし」

 

「……悪い牧野。変な奴連れてきてしまった」

 

「失礼な!有希ちゃんの悪口言うやつは私が成敗してやります!てりゃー!」

 

「お前だよ。後頼むから他所の事務所で暴れないでくれ……」

 

「ははは、元気で何よりだよ。休憩室なら居てもらっても構わないが……」

 

 ……そういえばさっきここに入るまでに星見プロ所属のアイドルたちが見えた。そしてトリエルの子たちも。

 

「有希がいるから大丈夫だとは思うが、邪魔なら追い出す。判断は委ねる」

 

「……わかった、信じよう。……YUKINOの皆さん、疑ってしまって申し訳ございません」

 

「大丈夫です。当然のことですので」

 

「有希ちゃんの寛大さに感謝する事ですね!」

 

 有希に目を配り季乃をここから追い出してもらい、俺たちは早速本題に入った。

 

「トリエルの件。牧野は何か聞いているか?」

 

「わからない。本人にも聞いてみたが知らないらしいし、朝倉社長にも聞いてみたが本心は教えてもらえなかった。ただ、朝倉社長は不当に解雇するような人ではない」

 

 ……そうだよな。あの人、アイドルに対しての情熱は本物で……って、ちょっと待て。聞き捨てならないことが聞こえたんだが。

 

「解雇?トリエルは解雇されたのか?」

 

「うん?そうみたいだぞ。本人たちにもそれは確認取れている」

 

「まじか……」

 

 じゃあトリエルが選んで退所したわけではないのか。でもどうしてトリエルを解雇させるんだ?言い方は悪いが今の稼ぎ頭だし、会社として解雇させる理由なんてないと思うが……。

 

「……円満退社と聞いていたが、事務所内では聞いてないのか?」

 

「関係各所ではそういう扱いになっているのは知っている。けど、内部では全くそんな話はないな。むしろいきなりその話を聞かされたくらいだ」

 

「そうだったのか……」

 

 ということはつまり、牧野たちも何も知らないということか。……あぁそういえばこれも聞かないとだったな。

 

「そういえばどうしてトリエルは解雇された後、星見プロに?お前が誘ったのか?」

 

「いや、彼女たちが進んでここにきた。後は本人たちに聞いてくれ」

 

 つまり事件とかは関係なく彼女たち自身のプライベートの話ってことか。ならそこまで掘り下げる必要はないか。

 

 ……聞きたいことがなくなってしまったな。結局、牧野たちも理由はわからず、ただ巻き込まれただけみたいだし、収穫はなしか。なんとなくそんな気はしたけどな。

 

 ともかく、これで俺がここに居座る理由もなくなった。季乃が何かをする前に立ち去ろうと席を下げたとき、牧野は口を開いた。

 

「……バンプロで何かあったのか?」

 

 ……あったといえばあった。トリエルが退所したし、それだけでもあったと言える。が、牧野が口にしているのはそういったことではないのだろう。

 

 つまるところ、こいつに俺が今まで調べていたことを話すかどうかといった話だ。

 

「ごたごたとはしている。だけど、俺もよくわかってないんだよな」

 

「……それは信じていいんだな?」

 

「当然だろ。俺は嘘はつかないからな」

 

 姫野という人物までは見つけられているが実際に彼女が何をしようとしているかまではわからない。故に、よくわかっていない。嘘は言っていないな。

 

「……はぁ、御堂は芸能業界向いていると常々思うよ」

 

「そうか?俺からすればお前の方が立派にやっていけると思うけどな」

 

 お互いに軽口を叩き、ついでにマネージャーとしての情報交換も終えると、いつの間にか次の仕事の時間が迫ってきていることに気が付いた。

 

「あ、悪い。そろそろ時間だ」

 

「そうか。久しぶりにゆっくり話せてよかった」

 

「俺もだ。今度はお互いに何もないときに会いたいものだな」

 

「それはそうだな」

 

 挨拶もほどほどに俺は部屋を出る。有希たちを連れ出すため休憩室まで足を運ぶと、すぐに目的の人物を見つけた。

 

「季乃、そろそろ帰る……って何してんの?」

 

「こ、この人、お化けです。本物のばけもの、です……」

 

 そう言って季乃は天動さんを指さして、その場に倒れた。何やってんだこいつ。

 

「あ、御堂さん。季乃さんに成敗するなんて言われましたので、手始めにとランニングで勝負したらこうなりました」

 

 自業自得じゃん。季乃のことは無視することにして俺は天動さんに頭を下げた。

 

「季乃が失礼しました。ちょっと…いやかなりのお調子者ですので、できれば許していただけると」

 

「ふふ、大丈夫ですよ。以前から季乃さんはこんな子でしたので」

 

「そうなんよー。いっつもうちらに絡んできて、勝手に負けてどっか行くんですわぁ。可愛らしいと思わへん?」

 

「え?もしかして私にカラオケで負けた優ちゃんが、瑠依ちゃんの力を借りてマウントを取ってきているんですか?あの鈴村優ともあろう人物がまっさかそんなみっともない真似するはずないですよね?」

 

「早口で聞き取られへんやったわ」

 

「……瑠依ちゃん、すみれちゃん、すみません。トリニティエールは明日からダブリィエールになるかもしれません。いや、なります」

 

「あはは、それはちょっと、困るかもです」

 

「すみれちゃんごめんなさい!でも私にも引けない時が――って慎二さん!離してください!お話はまだ終わってません!」

 

「ほんとごめんなさい。ちゃんと言っておきますので」

 

「ふふ、じゃあまたね」

 

「次会える時が楽しみやね」

 

「あ!季乃さん、またご飯食べに行きましょうね!」

 

 ……想像以上に季乃とトリエルは仲がよかったらしい。ギスギスした展開にならなくてよかったと安堵しつつも、今度はもう一人である有希を探した。

 

「あ、いた」

 

 有希は休憩室にあったソファーの上で、なぜかすずちゃんを抱いて眠っていた。その反対側には芽衣ちゃんがこれまた取り合うようにすずちゃんを抱いて眠っている。……こっちはこっちでどういう展開なの?

 

「あ、御堂さん、お久しぶりです」

 

「お久しぶり、琴乃ちゃん。これは……どうなってんの?」

 

「あ!助けてくださいまし!この二人が…ぐみゅ」

 

 有希の腕がすずちゃんの口元を塞ぐ。すごい気持ちよさそうに寝てんな。

 

「初めは有希さんがソファーに座っていただけなんですけど、次第に眠くなってきちゃったみたいで、それで芽衣ちゃんが抱き枕に、とすずちゃんを渡して、それにつられるようにすずちゃんも眠ってって感じです」

 

「あー、なるほど。わからん」

 

「あはは」

 

 説明してくれた渚ちゃんも苦笑いで返しながら、俺は有希を起こそうと、彼女に近づいた。

 

「有希ーそろそろ起きろ。帰るぞ」

 

「……ぅるさい」

 

「うぐっ!ちょっと有希!締まってます!」

 

「芽衣もそろそろ起きて」

 

「うにゃ…後三時間……」

 

「日が暮れちゃうよ」

 

「ぐ!め、芽衣も締めないで……」

 

 ……さすがにすずちゃんが可哀想になってきた。強引にでも引き離そうとしていると、どこからかやってきた沙季さんが二人の頬をつねった。

 

「芽衣ちゃんも有希さんも起きてください。もう起きる時間ですよ」

 

「えっと、さ、沙季?何しているの?」

 

「こうしないと起きそうになかったもので」

 

「おかんだ……」

 

 俺の独り言が聞こえたのか、沙季は途端顔を赤めると、片付けに戻りますとどこかへ去っていった。……沙季さんって家政婦さんとか向いてそうだよな。俺の家も掃除してくれ。

 

「ぅん……」

 

「ふわぁ……おはよぅ」

 

「酷い目にあいましたわ……」

 

 そのおかげというか、二人は無事に目覚め、すずちゃんも無事に解放された。俺は有希に近寄ると、帰る時間だということを伝えた。

 

「……あぁそういえば星見プロに来てたんだっけ?」

 

「他所の事務所でのんびりしすぎだ」

 

「なんか居心地いいんだよね……ふわぁ……じゃあ帰ろっか」

 

 有希は一つだけあくびをすると、立ち上がり、身だしなみを整える。

 

「月ストの子たちも有希と遊んでくれてありがとう。迷惑かけて申し訳ない」

 

「いえ、私もお話聞けてよかったです」

 

「私も有希ちゃんのお話楽しかったです!また恋愛話しましょうね!」

 

「私は酷い目に合いましたけど……」

 

「また一緒にお昼寝しようね!」

 

「あっ、今日はありがとうございました」

 

 月ストの子たちにも挨拶を交わし、俺と有希と季乃は外へを出る。……なんだかんだ、あの子たちとは仲がよかったんだな。

 

「それで、何か聞けたの?」

 

「いや、牧野は巻き込まれただけっぽい」

 

「そう。こっちも月ストの子たちは何も知らないみたいだった」

 

「トリエルも同様でしたねー。興味深い話はありましたけど、あんまり関係ないことでしたし」

 

 つまり全員収穫はなし、か。まぁそれでも全員リラックスはできたみたいだし、今日はそれで十分か。

 

「俺はこれから仕事あるから一度事務所戻るけど、二人はどうする?」

 

「私は疲れたので直帰します」

 

「私もこのまま帰ろうかな。何かする気分でもないし」

 

「そっか。じゃあ気を付けて帰れよ」

 

「はーい」

 

「うん」

 

 二人を駅まで送っていき、俺は事務所へと戻る。少なくとも、星見プロに何も起きてなくてよかったと心の底からそう思えた。

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