「初めましての人は初めまして!そうじゃない人はお久しぶりです!YU☆KI★NOの笑顔担当、季乃です!」
「真顔担当の有希でーす」
「ちょっと有希ちゃんなんてこと言うの!」
「事実じゃん」
「アイドルだったらにこーってするんですよ!」
「にこー」
「「「「ははは!」」」」
今日はとある祭りの会場にゲストとしてYUKINOが呼ばれ、その出し物の一つとしてYUKINOがライブを行うことになっていた。
季乃は相変わらずのMC力で観客を巻き込み笑みを浮かび上がらせ、有希はいつも通りぶれない姿勢でクールに振舞う。真逆の二人の性格は刺さる人にはすごく刺さるみたいだ。
「まぁ夫婦漫才はここまでにしておいて、そろそろ曲行きますよー!Shining!」
YU☆KI★NOのコンセプトはお世辞にも笑顔溢れたお祭りの空気感には合わない。それは、彼女たち自体のコンセプトが甘くとろけるような非現実と、苦く這い上がるような現実をテーマにしているからだ。
だからこそ曲調も未来感と透明感のあるFutureBass系やテクノポップ、エレクトロを使ったものが多い。NextVenusグランプリで歌ったRealUnRealも転調させてダークな雰囲気を出してたし、すでにコンセプト的なものは世間にも広まっているだろう。
でも、最近お披露目した曲はそのコンセプトも吹っ飛ばした明るい曲。季乃の表向きのスタイルならこれでも空気は壊れないし、俺が見ても中々の出来だった。季乃が歌えばどの曲も様になるから本当にすごいって思った。
……ということで、今回はある意味チャレンジも込めたお祭りでのライブだ。彼女たちを知らない人たちにYUKINOを知ってもらうため、知っている人にはYUKINOにはまだまだこんな幅もあるんだと知ってもらうためのこのイベント会場でのライブだ。
「誰よりも輝くことを楽しみたいから~♪」
盛り上がりも上々だ。これなら今回の目論見も達成だな。
彼女たちのライブを俺も楽しみながら聞いていると、あっという間に彼女たちの出番は終わった。
「今日はありがとうございましたー!皆さん!お祭り楽しんでいってくださいねー!!」
「羽目を外しすぎないようね。じゃ、また」
二人が舞台を降り、舞台裏へと移動するのに合わせて俺も慌ててそこへ向かう。
「見てましたか!?今日も季乃ちゃんの歌とMCはさすがですね!」
「自分で言うのはどうかと思うけど、まぁ確かにさすがだな。そこは本当にすごいと思う」
「そこはって何ですか、そこはって!嫉妬は醜いですよ!」
「……有希言ってやれ」
「振付ミス二回、遅れ一回。頑張ろうね」
「うぐぐ」
季乃は歌もMCも上手だが、肝心のダンスはもうちょっとだ。以前よりかはだいぶ改善されてきたが、まだまだだな。有希が異常にうまい分、そこが目立ってしまう節がある。
「歌に集中しているとですね。踊りを忘れちゃうんですよね」
「駄目だよ」
「ごめんなさい」
……まぁ季乃自身それをわかっているからそれほど深く捉えることでもないけどな。今でさえすごいYU☆KI★NOが、これからさらに上達する手段が目に見えているというのは逆にありがたいことでもある。
「有希はもうこのスタイルのまま行くんだろ?」
「笑顔とかの話?」
「そう」
「そうだよ」
有希はやっぱりというべきか自分を曲げたくないらしく、デビュー当時からクールで澄ましたような表情でやってきた。時々、流すような笑顔も見せてはいるんだが、基本的に笑うことは少ない。
……だけど、こういったアイドルも珍しくはないし、売れることはLizNoirが証明している。季乃が愛嬌が良すぎる分、丁度良い塩梅なのかもな。
「うん、ならそれでいい。有希は他に言うことはなしだな。よく頑張った」
「うん」
「私も褒めてくださいよ!」
「季乃もダンス以外はすごかった。さすがだな」
「褒められている気分にならないんですけど!」
「心外だ」
とりあえず一通り反省会も終わったところで、今日のYUKINOの仕事は終了になる。俺はこの後、イベントスタッフに挨拶に行くつもりだったが、二人はどうするんだろうか。夜も暗くなってきたし、二人で帰すのも心配だ。
「今日はこれで解散にするけど、二人はどうする?帰るか?」
「せっかくですし、お祭り回りましょうよ!りんご飴食べたいです!」
「あーステージから見えてたもんね。私も気になってた」
「行きましょー!」
「おい待て、せめて衣装は着替えていけー」
「いやー楽しかったですねー。まさかお祭り代が経費で落とせるとは思いませんでした!」
「落とせねぇよ。俺の自腹だよ」
「経費じゃないですか!」
「俺のポケットマネーを何だと思ってんだ」
お祭りを散々楽しんだ後、俺たちはタクシーで駅まで送ってもらい、そこから歩いて家に帰っていた。
「……お兄ちゃん、まだ車嫌いなんだ?」
「うるさい。嫌いなものはどうしようもないんだよ」
「わかるよ。私だってお兄ちゃん嫌いだし」
「普通に傷つくわ」
俺だってお前のそういうところは嫌いだよ。まぁ慣れたけど。
「前一緒に乗ったときなんて、生まれたての小鹿みたいに震えていましたからねー。可愛かったですよ?」
「忘れろ」
「でもさ、やっぱり車ないと不便じゃない?こういったときも車あれば便利だし、営業に行くときも必要じゃない?」
「そうなんだよなぁ……」
積極的に営業に行く俺たちにとって、自由に移動できる手段を持つことはとても大切なことだ。何よりこういった暗くなった時に二人の送り迎えもできるのがかなり大きい。
だけど、だけどなぁ……どうしても車だけは苦手なんだよな。
「何かあったんですか?」
「……まぁわざわざ話すようなことでもないけどな。小さいころ、車に轢かれかけたり、乗ってたバスが事故にあったりと色々あってな。いつの間にかトラウマになってた」
まぁ正確には、トラウマになったのは別の事件が起きてからだけど。
「へぇーそうなんですね」
季乃は興味あるのかないのか微妙な相槌を交わすと、続けて口を開いた。
「まぁ苦手なことは誰にでもありますしね!変に克服しようなんてしないほうがいいかもですね!」
「……お前、自分のことを棚に上げたな?」
「季乃、ダンスはちゃんとできるようにならないと駄目だよ」
「なんで二人していじめるんですか!そんなこと思ってませんよ!」
星空の下、俺たちはいつものように賑やかな帰り道を歩いていく。
月はまだ明るかった。