星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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ダンスレッスン!

 トリエルが星見プロに移籍して一ヶ月ほど経つ。

 

 あれからYUKINOの仕事をこなしながら会社を調べてきたが、これといったことは起きることがなく、ただ時が流れていった。

 

 姫野も出張から帰ってきたとのことで今まで以上に警戒していただけに、あまりの何も起こらなさに拍子抜けしてしまった。……まぁただ、そのおかげで今はYUKINOの活動に専念することができていたからありがたくはある。依然として警戒を緩める気はないけど。

 

 ということで、俺は今日も資料を片手にYUKINOのレッスン室へと向かっていた。今回は良いお土産を持ってくることができた。

 

「有希、季乃、居るか?入るぞ」

 

 ドアをノックしレッスン室へと入ると、そこには腕を伸ばした姿勢でポーズを取らされている季乃と、それを眺め、一挙一挙直していく有希の姿があった。

 

「あ!慎二さん助けてください!鬼が現れました!」

 

「季乃がちゃんとポージング取れるまでちょっと待ってて」

 

「わかった。頑張れよ」

 

「無視!」

 

 ひえーと言いながらも、有希の言う通りポージングを正していく季乃を見ながら、俺は近くのパイプ椅子に座り、メールのチェックをする。

 

 ……メールは珍しく来ていないな。困った、暇だ。

 

 二人の練習風景を見ててもいいが、変に視線を浴びせて練習に影響が出るのも困る。とはいえ時間潰す手段もない。

 

 SNSは就職してからばっさりやめた。何人かとは連絡とっていたりはするけど、業界人になると情報漏洩とかが怖いし。やっぱりこういった区別は必要だと思う。

 

 それでも休日にアイドルのライブ見に行ったりはしているし、ブログもまだ続けて入るが、以前よりかは頻度は減っている。俺も社会人になったんだなぁって常々思わされる。

 

「……ま、こんな感じじゃない?ちゃんと鏡見て覚えてね」

 

「はい覚えました!終わり!終了!」

 

「……」

 

 終わるや否やこちらに駆け寄ってきた季乃とそれを不満げに眺めていた有希に、苦笑しつつ、俺は声を掛けた。

 

「お疲れ。俺からの報告は後でで大丈夫だから、今は休憩してていいぞ」

 

「いえ、私は私が頑張っているときにずっとスマホを見ていたあなたに文句を言いに来ました!」

 

「あー悪い、気が散るかなって」

 

「言い訳無用です!お詫びを要求します!」

 

「それが目的だろ……」

 

 ……まぁでも最近仕事もレッスンも頑張っているし少しくらいは何か……いやいやちょっと待て、いっつもこんな感じで甘やかしてないか?

 

「季乃、悪いが今回はなしだ」

 

「怒ります」

 

「やめろ、蹴るな。痛いんだよまじで」

 

 露骨に脛ばかり狙ってきていた季乃をなんとか宥めつつ、俺は話題を変えるためにも本題を持ち出した。

 

「今日は二人にお土産があるんだ」

 

「もう、そういうことなら早く言ってくださいよ!和菓子ですか?洋菓子ですか?」

 

「あ、いやそういうお土産じゃない。仕事の成果って意味のお土産」

 

「怒ります」

 

「怒らないでくれ。痛いからまじで」

 

 再び蹴り始めた季乃を抑えていると、有希から声がかかった。

 

「……それで、何?」

 

「俺なりにYU☆KI★NOがこれからどうすればいいのか考えていたんだけどさ」

 

「うん」

 

「やっぱり、少しでも多くライブバトルをして、Venusプログラムでの順位を上げるべきだと思ったんだ」

 

「なんでそう思ったの?」

 

「二人もライブバトルが好きだし、何よりそれが一番楽しいんだろ?」

 

 彼女たちの行動理念は、何より自分たちが楽しみ喜びたいため。アイドルを続けるうえで、ファンの期待に応えたいなんて想いも沸いたわけだが、やっぱり原点はそれになる以上、そこの比重は一番高くなる。

 

 なら、それを一番にして俺も考えるべきだと思っている。……まぁVenusプログラムで勝てばやれる仕事も増えてくるし、結局それを重視するしかなくなるんだけどな。

 

「……確かにそうだね。あの舞台が一番楽しいかも」

 

「相手を叩きつぶす快感もありますしね!」

 

「……冗談だよな?」

 

「さぁ?」

 

 ……そこは冗談だと言ってほしかったが、表に出さないならまぁいい。季乃はずっとこんなやつだし。

 

「ともかく、Venusプログラムを順位を上げるなら勝ち続けることが大事になってくる。勝ち続けるためには、やっぱり技術が必要になってくる。ということで、だ」

 

 俺は持ってきた資料を取り出し、その表紙を二人に見せる。

 

「合同レッスン会を開くことにしましたー。パチパチ」

 

「……何この表紙。だっさ」

 

「何の絵なんですかこれ」

 

「星見市のマスコットを馬鹿にするな」

 

 魚魚っとさんを馬鹿にするやつはさくらちゃんに代わって俺が許さない。俺は季乃のやや濡れた髪の毛をわしゃわしゃにしながら、話を続けた。

 

「やっぱりダンスも歌もだけどさ、直接見てみないとわからないことってあると思わないか?」

 

「そうだね。リズノワの井川さんの踊りとか直接見るとやっぱり違って見えたし」

 

「歌は私が一番うまかったですけどね!」

 

 わりと本気で蹴ってきた季乃の蹴りを躱しつつ俺は話を続ける。ってかなんでこいつちょっと顔赤くしてんだよ。

 

「だからこそ、お互いにパフォーマンスを見せあい、そこで何かの知見を得て、磨き合うことが大切だと思える」

 

「わかったから、早く要点だけを言って。どことやるの?デイドリ?」

 

「いや、うちの事務所じゃない、他所の子たちだ」

 

「……本気で言ってる?」

 

「本気だ。しかも相手は元BIG4だぞ」

 

「……あぁ、当分戦うことはないから手の内見せても大丈夫ってこと?」

 

「そういうことだ」

 

「季乃、顔蹴っていいよ」

 

「任せてください!」

 

「待った椅子倒れ――」

 

 弧を書くようなきれいなハイキックを受け、俺は椅子ごと床へと落ちた。何が悪かったんだよ。

 

「……ともかく、向こうの都合もあって合同レッスンは明日になったから、よろしく」

 

「……明日」

 

「こいつ私たちに無断で予定つぶしました!潰しましょう!」

 

 こうやってブラックになっていくんだなぁと仕事を取ってきた我ながら考えつつ、俺は蹴り続ける季乃の足を掴み、必死に蹴られないようにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝者は……YU☆KI★NO!」

 

「っし!」

 

 さすがは元とはいえBIG4、有希も季乃も彼女たちとのレッスン中に何か得られるものがあったみたいで、それからは益々ライブバトルでいい点数を取れるようになっていった。

 

 無論、点数が全てとは思えないが、細かい技術や観客の盛り上がりも目に見えて上がっているのが理解できる。何か掴めたみたいでよかった。

 

「お疲れ様」

 

「お疲れー」

 

「お疲れ様です!」

 

 二人と声を掛け合い、今日もいつものように口論を始める。

 

 YU☆KI★NOは順調に勝ち進んでいた。

 

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