有希はどうやら星見プロに助けを求めていたらしく、星見プロのマネージャーである牧野と、なぜか莉央さんと一緒にバンでバンプロにやってきた。
事前に連絡は取っていたため、彼らが裏口についた途端、マスコミが集まる暇もなくすぐさまバンに乗り込み無事脱出。そして皆で星見プロの事務所まで来た。
「バンでバンプロにやってくるとは……中々やりますね」
「何がだよ」
皆無事だったということで喜んでいる星見プロたちを横目に、俺たちは少し離れたところでYUKINOの二人と話し合っていた。
「有希も聞いたか?リズノワもバンプロから解雇されたらしい」
「うん、さっきね」
葵によると、アメリカから急に戻された件もそのことについてだったらしい。かく言う彼女らも社長室に置いてあったのを勝手に見ただけみたいだが。
「俺も書類を見たんだが本物だった。社内で確認したんだがすでに手続きも済んでいた」
「……トリエルの時もだったけど、いきなり担当アイドルを解雇して、何がしたいんだろうね」
「そうだよなぁ……」
トリエル解雇以降、事務所の様子も伺っていたが別にアイドル業界から撤退するわけでもなく、今まで通り正常に稼働していた。俺がYUKINOのマネージャーできていたのもその証明だろう。
「でもなんで私たちは解雇されなかったんでしょうね?他にもアイドルはいっぱいいるのに」
確かにそれも気がかりだ。解雇するアイドルとしないアイドル。この差は一体なんだ?売れているとか人気度?それなら上位二つが解雇されるのは納得……はいかないな、普通逆だし。
「んー、特別な想いがあったアイドルたちだった。だから騒動が起きる前に退避させた……結果を見るにそう考えるのが筋ですかね?」
「確かにそれなら理解はできるが……」
「納得はできないよね。私たちは犠牲になっていいってことだし」
「同意ですね」
そうなんだよなぁ……。確かにあの人は冷酷だが、アイドルへの想いはある人だ。救うアイドルと犠牲にするアイドルを決めているなんて考えたくはない。
……あ、いやちょっと待て。前提から違うかもしれない。
「特別な想いがあったではなく、彼女たちに何かを成し遂げてもらいたいからってのはどうだ?」
「どういうこと?」
「トリエルとリズノワ。バンプロの二大トップじゃなきゃできないことがある。だけどバンプロじゃ動けなくなるから解雇させた。……割と筋の通る話じゃないか?」
「なるほどー。つまり彼女たちに何かを託しているってことですよね?でも肝心の彼女たちは何も知っていることはなさそうでしたけど」
「伝えたら駄目?もしくは伝えなくても叶えられること、か?」
「でもアイドルが何もしなくても叶えられることなんて……あぁVenusプログラムとか?」
「上位にいったらいいんですかね?それともライブでバンプロは無実だーって言ってもらうとかですか?」
「それは無理だとして、上位に行くってのはなんとなくありそうな気がする。少なくともそこで影響力は出るだろうしな」
「じゃあその影響力とやらで、成し遂げてもらいたいことが叶うってこと?」
「……なんかきな臭い話になってきましたねぇ。前々から思ってたんですけど、この業界、変に実力主義というより数字絶対主義なところありますからね」
「……Venusプログラムで事務所のアイドルが上位に行くと、業界の中での影響力が増す。当然のことではあるが、嫌な話だよな」
「そうなの?」
「……まぁYUKINOの仕事が取れるのもお前らがNextVenusグランプリでいい結果が残せて、その後のライブバトルでも勝ち続けて順位が上がってきたからだからな。それ自体も影響力が上がったということだろ」
「……確かに言われてみればそうかもね」
言い方は悪いがアイドル事務所というのはアイドルを売り物にして利益を得ている場所だ。お金が関わってくる以上、そうなってしまうのは正直仕方がないことではある。
「話を戻すんですが、その影響力でなんで朝倉社長の成し遂げてもらいたいことは叶うんですか?そもそも成し遂げてもらいたいことってなんでしょう?無実の証明?」
「……なんだろうな。朝倉社長とは正直腹を割って話したことはないからいまいち本心がわからないんだが、俺の感覚上だと、社長は自分の無実よりも事務所さえ立て直せれればいいとか考えてそうな気がする」
「そもそもその影響力とやらが具体的にどんな力を発揮するかも謎だしね」
「だよなぁ……」
仮定に仮定を進め、目的を考えてきたが結局のところ全く本心が読めない。どっかのタイミングで面会できないのかな……。
「御堂、ちょっといいか?」
「ん?」
話もひと段落つき、仮定でさえない可能性も考え始めていたとき、牧野から突然声をかけられた。というよりここ星見プロだったな。用事が終えたらすぐ帰ろう。
「今回の件について話をまとめておきたい。この後大丈夫か?」
「大丈夫だが、悪いが俺も全く知らないぞ?嘘じゃないからな?」
「大丈夫だ。とりあえずここじゃ話しづらいから会議室に来てくれ」
「わかった」
牧野が莉央さんと天動さんと共に会議室に向かったのを見て、俺はYUKINOの二人と顔を合わせた。
「そういうことらしい。悪いが二人は少しの間待っていてくれ」
「わかった」
「皆と遊んできまーす!」
「……有希、頼んだ」
「いつものことだしね」
元気よく飛び出した季乃の後を有希はついていく。学校で同級生ということもあって、やっぱりもう慣れたものなんだろう。
俺も行かないとな。
その後の会議室では、やはりというべきか特に進展はなく。ただ現状を話し合っただけだった。途中、朝倉社長から速達が届いたときは驚いたが、結局意味深な言葉が書いてあるだけで何も状況はわからずだった。
だけどこれだけはっきりわかったのが、朝倉社長がアイドルたちを無為に扱う人ではない。それだけだった。