翌日、バンプロとの契約を破棄されフリーとなったリズノワは、どうやら星見プロと契約を交わしたみたいだ。これにて一件落着……とは当然ならない。
星見プロ側よりも、問題はバンプロに残っている俺たち側に起きていた。
「……どこ行っても記者がいるんだけど、どうなっているの?」
「いい加減、私手出していいですか?質の悪い週刊誌は潰します」
「二人とも落ち着け。季乃も抑えてくれ」
仕事とは当日受けて当日こなすものではない、前々から準備を進めてそれで当日になってようやくその仕事を行うという形だ。だから、バンプロが騒動に巻き込まれる前に受けていた仕事は当然やる羽目になって、そしてどこからか現れた記者に質問攻めにされていた。
……少し離れたところでの仕事だったため油断していたが、彼らはGなみの出現能力を誇ることを忘れていた。もっと考えておくべきだった。
「……バンプロも今は仕事を受けられる状況じゃないし、前々から受けていた仕事もキャンセルが入っている。だからしばらくは仕事に行くことがないと思うが……」
「それって実質YUKINOが活動停止になっているってことだよね?」
「……うん。そうなるな」
「やっぱり潰しましょう」
「俺もそうしたいのは山々なんだが……世間的な目はバンプロへ風向きが悪い。今やると逆効果になる可能性もあるから駄目だ」
「じゃあ私たちもバンプロやめて星見プロ行きましょう」
「それは私が嫌。母さんにもここで頑張るって言っているし」
「じゃあやっぱりマスコミ潰しましょう。私に考えがあります」
「季乃、それはダメだ。とりあえず俺が対処するから何もしないでくれ。頼む」
季乃に向かって頭を下げると、彼女は怒りの表情のままで口を開いた。
「でもこのままじゃYUKINOは何もできません!どうすればいいんですか?」
「そこは考えがある」
活動実績だけ見ると活動停止みたいな状態にはなってしまうかもしれないが、それでもやれることはある。というか、碌に外に出ることができない今が一番ベストなタイミングかもしれない。
「有希、季乃。SNSやらないか?」
「ねぇ季乃、私こういうのよくわかんないんだけど、こんな感じの文でいいの?」
「YU☆KI★NO所属の有希です。本日よりSNS活動をすることになりました。よろしくお願いします……堅いです!堅すぎです!もっと柔らかく、普段会話するように書いておきましょう!」
「じゃあ……有希です、よろしくお願いしますって感じ?」
「シンプルすぎます!コンパクトに情報まとめて、それでいて個性を出す感じで!」
「めんどくさいね」
「これもアイドル活動ですよ」
二人にSNSでの活動の承諾を取り、事務所にも許可でアカウントを作った後、二人は最初の投稿をどうするか考えていた。
それを横目に俺は二人分のコーヒーと、猫の形をしたクッキーを皿に盛り付け、二人の前に出す。
「今更SNSの危険性なんて言うことでもないと思うが、一つ一つの投稿がアイドルとして見られるからそれだけは気をつけろよ」
「つまり私が慎二さんと一緒に映った写真を投稿するのはNGということですね!軽く手を写させたり、慎二さんに撮らせたりして、匂わせ程度にしておきましょう!」
「それもダメだよ」
……まぁ季乃の説明の通りアイドルに男がいると感じさせる投稿はNG。他には政治とか宗教とか反社会勢力とか、とにかく荒れそうなやつは全面的にダメだ。
「じゃあこの写真撮って送るのはあり?」
そういって有希はいつの間に撮ったのか、季乃と二人でSNS談義している写真を見せてきた。
「なしではないんだが、いかにも自宅で窓の外が映っているのがちょっとな。住所特定は怖いぞ」
「めんどくさいね」
はぁと露骨にため息をつく有希。……これがカフェとかの写真なら全然ありだと思うんだけどなぁ。
「あ、そういえば有希、ケーキの写真とかはどうだ?食べ歩きとかもしているし、それの写真を上げるとか?」
「いいかもですね!今日はどこどこに行ってきましたー!これが美味しかったです!みたいな何気ない感じで上げると親近感が湧きますよ!ついでにいえばお店の宣伝になって感謝され、アイドルとしてのキャラ付けにもなってお仕事の幅も持てますね!」
「……めんどくさいね、SNSって」
「だよなぁ俺もそう思うわ」
「世の中は情報戦です!情報を操って勝ち取っていきましょう!」
「まぁ二人とも負担にならない程度にな」
「ほどほどにしとく」
「すぐにインフルエンサーになってみせますよ!」
心配だが、まぁ二人ともうまいことやっていくだろう。そんな楽観的な考えで俺は二人を見ていた。
「……なんかすごい勢いで数字伸びていくんだけど、なんで?」
「ば、バズってる……私より先に……」
SNS巧者の季乃と、素人だからこそ変な投稿と時折見せる神がかった投稿をする有希が世間ではわりと受けて、SNSのフォロワー数がどんどん伸びていくのは別の話だ。