星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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事件は進む

 それは本当に偶然だった。……偶然という言葉を使いすぎて偶然じゃないように聞こえるけど、本当の本当に偶然だった。むしろ運命だったのかもしれない。

 

 星見プロのマネージャーである牧野、そしてリズノワの葵さんとトリエルの優ちゃんがプレタポルテの本社に入る姿を俺は目にした。

 

 そしてわずかに見えた紫色のシルエットは、間違いなく姫野霧子の姿だった。

 

 そしてその翌日。TRINITYAiLEはプレタポルテへと電撃移籍した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどー、つまり元より姫野はバンプロを潰す気だった。そしてその有望株であるトリエルを奪取するため前もって解雇させておいたってことですか?」

 

「……どうだろうな。トリエルに関しては解雇から時間が経ちすぎている。朝倉社長が前もって対処した結果が解雇であって、その身動きを封じた後にそれを利用して奪いに来た、と考える方が理解できる」

 

「逮捕からの動きが早すぎるもんね。私もそっちと思いたいかな」

 

「ニ対一で私の負けです……私もそっちと思いましょう」

 

「何と戦っているんだよお前は」

 

 いきなりの電撃報道を見た俺たちはレッスンの気分でもなくなったため、三人で集まれる場所として再び星見プロに来ていた。

 

 星見プロのアイドル達はいきなりのことに動揺が隠せず、各々ひとしきり驚いたり、悲しんだ後に、それでも前を向こうとしていた。さすがだ。

 

「俺は……どうしようかなぁ。こうなった以上トリエルを連れ戻すのは困難だし……姫野に灸をすえてやりてぇな」

 

「それは私も賛成」

 

「二人とも物騒ですねぇ。復讐は何も生みませんよ?」

 

「一番恨んでそうなやつに言われてもな」

 

「復讐はですね。とっても気が晴れるんです!最高ですね!」

 

「一番やばいやつじゃん」

 

 季乃の二重人格に呆れつつ、俺は今後どうすればいいか考える。

 

 ……トリエルの件は時が来るまでどうしようもないとして、バンプロの騒動をどうにかするのが最優先になるか。二人の活動ができないのが一番問題だし。

 

 後は星見プロへの攻撃をどうするか、だよな。どんな手を使ったかは知らないけどトリエルの引き抜きなんてことをしてくる以上、もっと事を起こす可能性だってある。具体的に何かというのは未だ見えてこないが。

 

 ……目的はわかったが、結局どうすればいいかなんてわかんねぇな。アクセス権限やログに関しても調べてみたが俺の権限じゃ社内で調べられることは限られるし、変に協力を持ちかけて姫野の息がかかったやつにあってしまうのもまずい。警察は証拠がないと動いてくれないし、常々俺の無力さを感じる。

 

 こういったときに役に立てる力があればなぁ……。

 

「はぁ」

 

「お疲れみたいね」

 

 こつんと目の前にカップが置かれる音と共に頭上から声が響く。見上げると、黒髪でオレンジの瞳をした女性がそこにいた。

 

「あ、遙子さん。ありがとうございます」

 

「いいの。有希ちゃんも季乃ちゃんもどうぞ」

 

「ありがと」

 

「ありがとうございまーす」

 

 遙子さんは三人分のコーヒーを俺たちの前に置いてくれると、目を伏せた様子で口を開いた。

 

「……バンプロも大変なことになっちゃったし、今は大変よね。これくらいしかできなくて申し訳ないわ」

 

「遙子さんが気にすることじゃないですよ!悪いのは全部ひ…冤罪を持ちかけてきたやつです!」

 

「そうですよ、むしろこっちのほうが大変な時期にすみません。今俺たちがゆっくり話せる場所って限られていて」

 

「ううん、大丈夫…って言いたいところだけど、やっぱり気に病んじゃう子もいてね。私もさっきまでお話していたの」

 

「そうだったんですか……季乃がうるさかったですよね、すぐ追い出します」

 

「なんでですか!うるさいのは慎二さんも一緒ですよ!」

 

「だってお前の声、無駄に響くし……」

 

「季乃ちゃんのこの美声もわからないとは……耳腐っているんじゃないですか?」

 

「美声?騒音の間違いではなく?」

 

「はい怒りました。蹴ります」

 

「二人ともうるさいんだけど」

 

「「すみませんでした」」

 

「ふふふ」

 

 有希に謝罪しながら遙子さんを横目で見るとそこには僅かに笑顔が見えた。季乃とアイコンタクトを取り、軽く頷く。……っておいテーブルの下で蹴るなよ!演技だろ演技!

 

「すみません、うるさかったですよね」

 

「ふふ、良いのよ。おかげでちょっと元気出ちゃった。ありがとね」

 

「いえいえ、俺は何もしてないですから」

 

「私のおかげですからね!」

 

「お前でもねぇよ」

 

「ふふ、二人ともお似合いね」

 

 ……いや、遙子さんには悪いがこいつとお似合いはない。こいつほど腹黒でもないし、刹那的で快楽的でもない。

 

「じゃあ私はここまでにしようかな。またお話しようね」

 

「あ、はい。ありがとうございました」

 

「じゃあね」

 

「えっと、ありがとうございました」

 

 遙子さんもどこかへ去っていき、残された俺たちは思い思いに目の前のコーヒーに口をつけた。

 

 苦みの中にわずかに甘さを感じるそれに、少しだけ心が安らいだ気がした。

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