星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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ⅢX

 時刻は午後11時59分。俺は誰もいない会社で一人、デスクの前に立ち尽くしていた。

 

 お参りも、パワーストーンも、風水も、何となく有希へのお祈りもすべてやった。有希に冷たい目で見られながらもなんとか俺はやり遂げた。後はもう祈るのみしかない。

 

 刻一刻と時計の針が動く。心臓の音が今まで以上に高く鳴り響く。

 

 残り十秒。

 

 深く息を吸い、何一つ見逃さないように全力で目先を見つめる。

 

 残り五秒。

 

 口から息が漏れ始める。まずい、まずいと再度気合を入れなおす。

 

 残り二秒。

 

 なんか息苦しい。そういや息を吸っていないことに気が付く。

 

 残り一秒。

 

 視界が揺れた。

 

 零。

 

 揺れる視界の中、更新されたパソコンの画面にわずかに赤いものが映り込む。

 

『当選』

 

「きたぁぁぁぁっっ!!っ!ったぁぁぁぁいいい!!!」

 

 酸欠状態で叫んだ反動で、俺はバランスを崩し、近くの壁に衝突する。

 

 痛みで幾分か冷静になれた俺は、改めて自分のパソコンの画面を見つめる。

 

『おめでとうございます!ⅢXのライブに当選しました!』

 

 ……うん、見間違いではない。間違いなく当選だ。

 

「きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 俺は誰もいないオフィスで一人叫び続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして当日、ライブ会場はスリクスが登場する前から熱狂の渦に包まれていた。

 

「暑……しかも狭いし…こんなんなら来たくなかった」

 

 約一名、その熱狂の渦に呑まれずマイペースに俺の隣で文句を言い続けている有希の姿を見て俺は声をかける。

 

「そのうち慣れる。それにしても幸運だよな。まさか応募したのが二枚も当たるなんて」

 

「星見のマネージャーとかに渡せばよかったんじゃない?仲いいんでしょ?なんで私なの?」

 

「あいつは今忙しいからダメだ。それに有希に渡したのだって理由はちゃんとあるぞ?」

 

「何?」

 

「何だと思う?」

 

「あのさ、そういうの私が一番嫌いなことだとわかってやってる?」

 

「悪かった、怒らないでくれ」

 

 テンションが上がっていて言葉を選べてなかった。有希に謝るとせめて始まる前は冷静でいようと深呼吸する。

 

「……スリクスは俺が見てきた中で一番ライブがうまい。だからそれを有希にも見てもらいたい」

 

「……つまりBIG4の実力を見て学べってこと?」

 

「そういうことだ」

 

 せっかく二枚当たったんだし、季乃に渡すことも考えたんだが、あいつは人の技術を学ぶより自分だけの能力を高めたほうが輝くタイプだ。スリクスのライブでは学べることも少なそうと判断して渡さなかった。……まぁ俺が見ておきたいというのも大きいんだが。

 

「……後で季乃に謝っておきなよ」

 

「埋め合わせはする。電話した時も怒ってたし」

 

 電話口で裏切り者と叫ばれたのは初めてだった。いや裏切ってないし……だけど、意外とさみしがり屋なところもある季乃からすれば自分を置き去りにされて悲しいというのも理解できる。今度どこか連れていこう。そういや星が好きって言ってたからそれ関係でもよさそうだな。

 

「っとそろそろ始まりそうだな」

 

「前座みたいだけどね」

 

 ライブ会場の熱気はすでに相当なものだ。前座としてパフォーマンスをするアイドルも大変だななんて考えていると、そこに三人のアイドルが現れた。ってかあれって……。

 

「トリエル!?」

 

 白と金色のステージ衣装に身を包んだ。三人組のアイドル。間違いない、あれはトリエルだ。

 

「プレタポルテに移籍していたんでしょ?ならここで出てきてもおかしくなくない?」

 

「あ……確かにそうだった」

 

 忘れてた…というより考えないようにしていたが、彼女らはもう星見プロのアイドルではないのか。……そっか。

 

 いつの間にか口上が終わり彼女たちのステージが始まる。

 

 今まで同じ…いや今まで以上に進化した彼女たちのステージはライブの熱気をさらに高めていった。

 

「お兄ちゃん応援しないの?」

 

「……応援しているぞ?」

 

「今までだったらもっと叫んでいたじゃん」

 

「……そんなに叫んでいたか?」

 

「うん、耳が痛くなるほどに」

 

「それは悪かった」

 

 叫んでいた自覚はあったがそれほどとは思ってなかった。有希に謝罪しつつも、確かに俺自身今までとは違う感覚でライブを見ていたことに気が付いた。

 

 ……感傷的になりすぎていたか。いかんな、せっかくのライブなのに。

 

 気を取り直して今度は集中して彼女たちの一挙手一投足を見つめる。

 

 ……正直なところ個としての実力を見るなら、ダンスの分野では有希が、歌の分野では季乃が勝っていると思える。だけど彼女たちの魅力は三人での一体感にある。

 

 個では表現できないものを三人揃うことで最大限表現し、それをさらに高めている。口で言うのは簡単だがこれができるからこそトリエルは強い。

 

 気が付けばライブ終盤だ。最後まで見逃さないように俺は彼女らを見つめ続けた。

 

「……」

 

 横からわずかに視線を感じた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごかったなトリエルのライブ。更にパワーアップしているがわかった」

 

「そうだね。今の私たちなら……勝率は三割程度?」

 

「……難しいところだな。ライブバトルはその場その場の空気で結果ががらっと変わったりもするし……場合によってはそれも厳しいかもな」

 

「……わりとズバッと言うんだね」

 

「あ、悪い、なんも考えてなかった」

 

 妹であるとはいえ、YUKINOのメンバーである有希の前で言うべき言葉ではなかった。……なんか最近注意力落ちてんな。気をつけないと。

 

「でも、スリクスはあれ以上何でしょ?」

 

「まぁな。来たときも言ったが彼女らはライブがうまいんだ。見てればわかる」

 

「へぇ。気になるね」

 

 珍しく有希が興味を持っていることに驚いていると、会場にわっと歓声が上がった。

 

 視線を戻すと、そこには黒いステージ衣装に身を包んだ三人の姿があった。

 

「みんな待ったぁ?」

 

 銀髪ボブヘアにサイドをわずかに前に下ろした触角。グレーの瞳で表情に小生意気さを滲ませながら、全面に可愛さを押し出したkana。

 

「ⅢXのmihoと申します。圧巻のステージをお楽しみください」

 

 腰下まで届く長い黒髪に鋭く突き刺すような紫の瞳。凛とした声も合わさりクールなカッコ良さを表したmiho。

 

「声援ありがとうございます。楽しんでいってくださいね」

 

 ウェーブのかかった長い金髪に深緑の瞳。引き締まった抜群のスタイルで見るものを魅了する、まさに女性の美しさを表現したfran。

 

 彼女が、彼女らこそがスリクスだ。

 

「へぇカッコいい人たちだね。……ってあれ?なんか見覚えあるんだけど」

 

「……franさんのことか?元モデルで今でもファッション誌にも載っているからそこでじゃないか?」

 

「それもなんだけど……」

 

 んーと有希はなにかを思い出すように唸りだす。見覚えあるって言っても接点あるわけはないよな?仕事で一緒になった経験もないし……。

 

「って曲始まったぞ」

 

 会場中にセットされたスピーカーからパンク系の激しい音が流れ始める。それと同時に彼女たちのライブが始まる。

 

 ……彼女たちのライブはキレのある激しいパフォーマンスが特徴だ。振り付けも難易度が高いものばかりで、しかもそれを他のメンバーの動き、曲調に合わせる必要もある。

 

 腕の動き、足の動きだけでなく、身体全体を使ったその動きは一つでも歯車が狂ってしまえば忽ち崩壊するもの。しかし、彼女らは寸分違わぬダンスで自らを表現してみせた。

 

 それは曲を彩るだけではなく、自分たちが主役で曲をバックにするように、世界を自分等のものにするかのような激しさで、全てを塗りつぶしていく。

 

 そしてそれらを形付けるための歌は、すでに完成されきったそれを更に昇華させていく。

 

 感嘆の声さえ出ない。計算されつくした完璧なライブがそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、思い出した。私、この人たちのライブでダンスの勉強してた」

 

 分析する間もなくいつの間にかライブは終わり、生で始めてみたスリクスのライブに呆然としていると横から声がかかった。

 

「……スリクスのライブで、か?」

 

「うん、この人たち完成されているから一番学びやすかったから」

 

 ……なるほどな。有希のダンスセンスはスリクスから学んだものだったか。そりゃすごいわけだ。

 

「そうか……。それでライブはどうだった?」

 

「……すごいね。こんなライブ始めてみた。まだまだ上があるんだって思い知ったよ」

 

「そっか」

 

 それを知ってよかったのか悪かったのかはよくわからない。俺も初めて生で見たがこれは良くも悪くも最高のステージだ。だからこそ、何半端な心だとメンタルがやられると感じた。

 

 ……季乃を連れてこなくて正解だったかもな。

 

「でも、一つわからなかったんだけど、ライブがうまいってのはどういうことだったの?確かに凄いとは感じたけど」

 

「そうだな、俺もそれを見てもらおうと思ったんだが……現地で見ると技術的な巧さはこんなにもわからないものなんだな」

 

「つまり?」

 

「現地だと客観的に見れなかった。今度ライブ映像見せるからそのときでいいか?」

 

 はぁと有希から目に見えてため息が漏れる。悪かったって、俺も分析が出来なくなるくらい凄いステージだってことは知らなかったんだ。

 

「……じゃ帰ろっか」

 

「そうしよう……ってちょっと待った」

 

「何?」

 

「あれ星見プロじゃないか?」

 

「ほんとだ。何しているんだろ」

 

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