「あれ星見プロじゃないか?」
スリクスのライブが終わり、会場からの帰り道に彼らは立っていた。
「ほんとだ。何しているんだろ」
星見プロのマネージャーである牧野、そしてその所属アイドルたち。全員ではなかったものの、サニピ、月スト、リズノワのメンバーがそれぞれ目に入る。
……ここにいたってことは彼女らもスリクスのライブを見に来たってことか。I-UNITYで戦う相手にもなるし敵情視察ってところか?
「会いに行くの?」
「んー、そうだな。ちょっと話したいことあるし」
どちみち星見プロにはアポを取って正式に会いに行こうとしていたところだ。ここで事前に打ち合わせておくのも悪くない。
そう思って声をかけようとしていると、彼らの近くに一人の女性が現れた。
「……姫野霧子。なんであいつがここにいるんだ?」
俺はとっさに有希を連れ物陰へと移る。彼らはわずかに会話をすると、すぐさま楽屋裏へと移動し始めた。
……姫野には星見プロからトリエルを引き抜いた前科がある。なぜかはわからないが彼女自身、星見プロを毛嫌いしている節もあるし、彼女の動向には気を付ける必要がある。
同時に星見プロではない俺が彼女に目つけられていない今の現状はチャンスにもなりえる。尻尾を掴むまで今は大人しく見守るべきか。
「あれがお兄ちゃんの言ってた人?」
「ん?そっか有希は見たことがなかったか。そうだ、あれが姫野だ」
「へぇ」
有希は楽屋裏に下がっていく姫野を見て言葉を洩らす。その言葉にどんな感情が含まれているかまでは察することはできなかった。
それから少しして星見プロの面々は帰り道の通路まで戻ってきた。だけど、その表情は楽屋裏に向かう前より暗い。
……とはいえマネージャーの心配そうな表情を見るに、深刻な内容ではないはず。だとすると、余計なプレッシャーを与えられたか。
「有希行くぞ」
「はいはい、元気出させたいんでしょ」
「そういうことだ」
俺たちは物陰から出ると、こちらに背後を向けたままの牧野の首を後ろから腕で締めた。俗にいうスリーパーホールドだ。
「うがっ!!」
「牧野さん!?」
「マネージャー!?」
「よ、牧野。元気かぁ?」
「み、御堂か。元気だが…これ外してくれないか?」
「悪い悪い。つい癖でな」
牧野を開放し、俺たちは向き合った。
星見から来ているアイドルはサニピからさくらちゃん、怜ちゃん、月ストから琴乃ちゃん、芽衣ちゃん、リズノワから愛ちゃん、こころちゃんか。人選を見るに、ライブを見て学んでほしいことがあるって感じの面々だな。
「あ、御堂さん、お久しぶりです!」
「お久しぶりです」
「さくらちゃん、琴乃ちゃんお久しぶり。改めてYU☆KI★NOのマネージャーの御堂慎二だ。といっても今日はプライベートで来ているんだけどな」
「改めて説明するまでもないけど、YUKINOの有希」
「YUKINO……はっ!?」
YUKINOの名前を聞いてか、こころちゃんは途端周囲を警戒し始めた。
「季乃はいないから安心してくれ」
「……本当ですかぁ?嘘だったらボコボコにしますからね!愛ちゃんが!」
「なんで私なの!?」
こころちゃんは平常運転みたいだな。むしろ彼女は他の子たちのことを心配そうに見ていたから俺の思惑に乗ってくれた感はある。ありがとう。愛ちゃんは……ごめんね。
「それでYUKINOのマネージャーが何をしに来たんですか?わざわざ出てくるのを待っていたんですよね?」
怜ちゃんは未だに俺たちのことを警戒しているらしい。季乃というクラッシャーがいる以上、こうやって警戒してくれるのは、星見プロを守ることにもつながるため、正直言ってありがたい。
「そうそう、実はだな。怜ちゃんに告白したくてここで待っていたんだ」
「えっ!?」
「こ、告白!?告白って告白のこと!?」
その言葉に真っ先に芽衣ちゃんが食らいつく。A=A理論になっていることに気がついていないのが可愛らしいな、芽衣ちゃんずっと眺めていたいわ。って牧野、なんでてめぇまで驚いているんだよ。お前俺の性格わかってんだろ。
「おう、有希がな」
「……あのさ」
「えー!?有希ちゃんが!?」
「で、でも女の子同士なのに……」
「琴乃ちゃんはわかってませんねぇ。今時百合営業は基本ですよ!って愛ちゃんが言ってます!」
「言ってない!というか百合営業ってなんなの!?」
愛ちゃんはこのまま純真であってくれ。
「あ、あの…ごめんなさい、有希さん。私は……えっと、アイドルなのでそういうのはちょっと」
「振られたな」
「……」
嫌な予感がした。咄嗟に避けようとしたが、腕を掴まれ、反対側へとねじられる。
「痛い痛い痛い!待った、俺が悪かったから…っ!!!」
腕をひねられ体制が下がったところに顎に膝を当てられる。一瞬のことに頭が真っ白になって、地面へと撃沈した。
「うわぁ……」
「わかっていると思うけど、こいつが言ったのは全部冗談だから」
「そ、そうですよね。あはは」
「……女の子同士だから、当然…よね?」
「芽衣はいいかなーって思ったけど」
「こころ、百合営業って何?」
「愛、人には知らなくていいことがあるのです」
「だ、大丈夫か?」
牧野、ありがとう。お前だけだよ俺を心配してくれたのは……。
なんとなく牧野から差し伸ばされた手を振り払い、自分の力で立ち上がると、改めて彼女らに向き合う。
「牧野、話がある。なるべく早い時間がいいが、空いている時間はないか?できれば星見の子たちにも相談したい」
「……わかった。今日はスケジュール空けているからこの後でもいいか?」
「ありがたい。……有希も大丈夫か?」
「いいけど、何の話?」
「YU☆KI★NOがI-UNITYに参加する話だよ」
「……つまりYUKINOをI-UNITYに参加させるため、一時的に出向契約を結んでほしいということか」
「そういうことだ」
I-UNITYへの参加条件はI.E.A.に参加していること、うちの事務所はごたごたもあって参加できていないこともあり、このままではYU☆KI★NOの参加はできなくなる。
ということで、一時的な出向契約で星見プロ所属ということにしてもらうことで、参加させてもらおうといった話だ。
……といっても、ここまで行くとビジネスな話になってくる。出向契約をかわせば当然、給料支払い等も契約先に発生するし、何よりバンプロのアイドルではなく、星見プロのアイドルとして扱われることになる。
いくら牧野とは友達とはいえ、ビジネス面まで義理と恩で押し通すつもりはない。
「ということで契約書をまとめてきた。基本的にそっちが損するようにはしていないつもりだがよく目を通してみてくれ」
「こ、こんなにか」
「当然だろ。ビジネス面の話にはなるが、俺はビジネスをしに来てはいない。俺はYU☆KI★NOがI-UNITYに出られればそれでいいんだ」
「……そうか」
出向といっても今回結ぶのはバンプロに所属したまま他の会社で働く在籍出向だ。給与もこちらで払うように変更しているし、保険等もこっちが支払う。また、業務の内容はI-UNITYに参加するだけのものだから他の仕事の斡旋や営業もしなくていい。
事務所の許可はすでに取っているし、後は星見プロ次第だ。
「……これは目を通しておく。返答はその後だ」
「それで構わない。お願いします」
「あぁ、だけど……悪い話にはならないとは思う。エントリーはこっちで進めておくよ」
「ありがとう」
さすがは牧野。麻奈ちゃんが惚れた男なだけあって話がわかる。ありがとう、本当にありがとう。
「じゃあ後ほど。また連絡するよ」
「ありがとう、お願いします」
牧野との話も終え、俺たちは帰路についた。
契約に関して承諾が出たのは間もなくだった。