星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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I-UNITY開幕

 

「おぉ!さすがリズノワとトリエルですね!先輩方と比べても抜きんでています!それだけに一回戦で当たってしまったのが残念ですが」

 

「私たちからすればライバルが減ってありがたいけどね」

 

 陰謀揺らめき、それでも表抜きは平然とI−UNITYは開幕した。

 

 公正なくじ引きの結果、一回戦目になんとリズノワとトリエルが戦うことになり、YUKINOの日程とは被らないとのことで、俺たちも観戦に来ていた。

 

「……色々あったから心配だったが、杞憂だったみたいだな。むしろ色々あった分その感情を強さに変えている気がする」

 

「確かI-UNITYで優勝したアイドルの所属事務所が初代I.E.A.の理事長になるんでしたっけ?彼女たちは知っているんですかね?」

 

「少なくともリズノワは知っていると聞いたな。トリエルは……どうかはわからないが、少なくとも姫野の言う通りに従うような子たちではないだろ」

 

「意外と強かですもんね」

 

 優勝したアイドルの所属事務所が初代理事長になる。おかしな話ではあるが、アイドルの力…というよりVenusプログラムでの順位が業界での力になることを考えればそれほど変な話ではなくなる。朝倉社長もこのシステムを利用したくて、トリエルとリズノワを解雇したのかもしれないな。今となっては裏目に出てしまったが。

 

「結果、出るよ」

 

 会場全体から見えるビジョンに、集計完了の文字が映る。そして二組のアイドルと共に、映し出されたスコアグラフはやがて一つの結果を導き出した。

 

「勝者、TRINITYAiLE!」

 

 MCが叫んだその声に、会場中から声が上がる。

 

 ……正直どちらが勝ってもおかしくはなかったライブだった。裏方を知っている俺からすれば思うところはあるが、今はただトリエルの勝利を祝いたい。

 

「ビッグバンです!」

 

「ん?」

 

「朝倉社長が言っているのを聞いたんですよ!トリエルとリズノワが戦えばビッグバンが起きるって!」

 

 宇宙起源説にもなっている大爆発のことだよな?確かに会場のボルテージはすごいことになっているが、ビッグバン?本当に朝倉社長が言ったのか?

 

「……有希、季乃はもうダメかもしれない」

 

「うん、私も前々から思ってたよ」

 

「なんでですか!本当に言ってたんですよ!文句ならあのポエマー社長に言ってください!」

 

「うちのポエマー社長捕まってるし」

 

 でも確かにあの社長なら言ってもおかしくはないと思いつつも、季乃を宥めていると、視界の片隅で星見プロの子たちが舞台袖へと向かっていくのが見えた。

 

「……お兄ちゃんも行くの?」

 

「いや、俺が言ってもできることないしな。それに星見プロ所属ならともかく、部外者の俺が行って不審者だからな」

 

 出向契約でYU☆KI★NOの現状の所属は星見プロになってはいるが、俺自身はバンプロのままだ。そのあたりは契約上で俺がYUKINOのサポートをできることになってはいるが、現状だと正式なマネージャーではない。

 

「……そっか」

 

「……行ってほしかったのか?」

 

「そういうわけじゃないけど」

 

 ……最近、有希の様子がどことなくおかしい。何がと聞かれると俺もはっきりとは答えられないんだが、いつもと反応が違うというか、素っ気ない反応が少なくなってきた。本来ならば喜ばしいことなんだろうけど、何か事情がありそうなのが少し気になる。

 

「不審者舞い戻れりってやつですね!よかったです!」

 

「何もよくねぇよ」

 

 とはいえ、無理して聞くようなことではないし、パフォーマンスやアイドル活動に問題が発生しているわけでもない。有希もまだまだ未成年なんだし、悩みの一つや二つあるのだろう。

 

「舞い戻ったことの否定はしないんですね?」

 

「あ、いや、それは言葉の綾というか」

 

「……どういうこと?」

 

「なんでもない。こいつが勝手にそう呼んでいるだけだ」

 

「不審者と書いてストーカーと呼ぶんですよ!だってこいつ、サニピと月ストのライブに毎回行っていたんですよ!ストーカーですよね!」

 

「ファンと言え、ファンと」

 

「気持ち悪いね」

 

「なんでだよ」

 

 季乃のフォローで助かったが、どう考えてもマッチポンプだ。なんなんだこいつは。

 

「それよりも不審者さん、あそこにいる人見覚えないですか?」

 

「ん?」

 

 季乃が指をさした先、関係者席に座っていた二人の女性が目に入る。

 

「……スリクスのmihoさん。そして――」

 

「――姫野霧子か。そりゃいるよな」

 

 mihoさんはおそらく敵情視察。彼女が大の理論派で、常にアイドルの研究を欠かさないというのはわりと有名な話だ。ここに来ているのもそれ関係だろう。

 

 姫野霧子は、I-UNITYの開催者でもあり、誰よりもこの大会で勝つことを考えているやつだ。一体彼女たちのライブを見て何を企んでいたのか。

 

「有希、季乃。先に帰っていてくれ。俺はちょっと遊びに行ってくる」

 

「私も行きます!」

 

「……じゃあ私も行く」

 

「珍しいな」

 

「文句ある?」

 

「ない」

 

 姫野とは一度、正面から話す必要があると思っていた。彼女がやってきたことは知っていても俺自身彼女と話をしたことがほぼなかったからだ。

 

 推測や牧野からの話でなんとなく人物像は見えているが、結局それはあくまで想像上のものにすぎない。より深く人を知るためにも今がいいチャンスだ。……それに直接話せるならば打ちたい手はいくつかある。

 

 俺は席を立ちあがると、有希と季乃も連れ、彼女たちの元へと向かう。何やら話し込んでいた彼女たちだったが、俺たちの姿を目にすると話を止めた。

 

「お疲れ様です。姫野さん。ご挨拶に伺いました」

 

「あら、お疲れさま。ご丁寧にどうも」

 

 mihoさんにも軽く頭を下げる。彼女は俺を一目すると、後ろにいた有希と季乃へと目を向ける。mihoさんにとってはそっちのほうが気になるよな。

 

 ……まぁそれはともかくだ。今の挨拶の流れからすると、姫野は俺のことを認知しているらしい。同じバンプロで仕事していたから知っていてもおかしくはないか。

 

「後ろの子たちは、YUKINOの子たちよね?I-UNITYにはI.E.A.所属のアイドルしか参加できなかったはずだけど、どうやって参加したのかしら?」

 

「出向契約ってやつです。規約上問題はありませんよね?」

 

「……所属事務所がI.E.A.加入済みということが条件、グレーではあるわよ?」

 

「契約上、今の所属はバンプロじゃないです。どこがグレーなんでしょう?」

 

「……まぁいいわ。それで、何の用かしら?挨拶だけならもう済んだでしょう?」

 

「すみません、ちょっと聞きたいことがあってですね」

 

「何かしら?生憎と私は忙しいの。要件は端的にお願いするわ」

 

「他所の事務所に円満にアイドルを移籍させるのってどうすればできます?」

 

「……へぇ?面白いこと聞くのね」

 

 姫野を騙すための発言で、YUKINO二人を移籍させようとは考えてはいないが、背後からの視線と、何ならmihoさんからの視線が痛い。止めてくれ。

 

「でも、教えてあげる筋合いはないわ。それでも知りたいなら……YUKINOをⅢXの前まで立たせて見せなさい。話はそれからよ」

 

 ……話の流れ的に俺が星見プロダクションと繋がっていることは知らないらしい。YU☆KI★NOが星見プロ所属になっているからそのうちバレるかもだが、少なくとも俺が姫野を何一つ信用していないことは知られていないようだ。

 

「わかりました。もし当たるとすれば、クォーターファイナル…五回戦ですね。安心してください、YUKINOは強いので」

 

「ふふ、楽しみにしておくわ」

 

 そう言って姫野は不敵な笑みを浮かべ、去っていく。そのあとを追っていこうとしていたmihoさんを俺は呼び止めた。

 

「何でしょうか」

 

「これだけ言っておきたくて」

 

 スリクスが姫野の目的を知っているのはわからないが、少なくともトリエルを引き込んだことで、何かを企んでいることは気づいているはず。それでも行動を起こさないのは、自分たちには関係のない話と割り切っているか、利害が一致しているかだろう。

 

 ならば言うべき言葉は一つだ。

 

「トリエルも、月ストも、サニピも、そしてYU☆KI★NOも、負ける気はないんで。覚悟してくださいね」

 

「……なるほど。わかりました。誰であろうと私たちがやることは変わりませんので」

 

 失礼します、とmihoさんもこの場を後にした。俺が言いたかったことはおそらく伝わっただろう。

 

「ねぇ今の話って……」

 

「冗談だよ。姫野を騙すために演技しただけだ。まぁ、向こうも心からは信用していないみたいだけど」

 

「先に相談の一つくらいしてほしかったけど」

 

「ごめんって」

 

 有希に向かって頭を下げていると、何やら季乃がんーと悩んだ様子で声を上げていた。

 

「どうした?」

 

「んー、前々から思っていたんですけど、mihoさんってSundanceの美帆子さんですよね?いつの間にあんなに性格変わっちゃったんですかね?やっぱり相方さんが亡くなっちゃったからですか?」

 

「……どうだろうな。俺はそのSundance時代を知らないから何とも言えないが、それも理由じゃないか?」

 

「なるほど」

 

「……季乃、何がとは言わないが、やめておけよ」

 

「やりませんよ。大切な誰かがいなくなる気持ちはわかりますから」

 

 それから二人と共に俺たちはライブ会場を後にした。

 

 後日行われたYU☆KI★NOの一回戦は、何事もなくYUKINOが勝利した。

 

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