星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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選び取った一手

 I-UNITYの四回戦、TRINITYAiLE対ⅢX。ついに決まった対戦カードに俺はいつも以上に心臓を高鳴らせながら、真剣に資料を眺めていた。

 

 手元にある資料は先日三枝さんから頂いたもの。姫野がもしトリエルを脅そうと考えた時に、頼れそうな場所をピックアップしてもらったものだ。

 

 俺でも名前を知っている大手メディアに、ゴシップばかりのメディアなど方向性は様々だが、見方によってはどれも使える手札ばかり。

 

 それに書かれた情報を隅々まで読み解きながら、俺が姫野だったら、どういった対応を取るか考えてみる。

 

 まず前提として、I-UNITYで自分の担当するアイドルを勝たせる必要がある。担当とするアイドルはⅢXとTRINITYAiLEであり、どちらも実力は確かだが、根本としてアイドルを信用していないため、敗北することを恐れている。

 

 だからこそ、裏切る危険のあるトリエルはここで排除しておきたい。スリクスに実力で勝ってもらうのが一番だが、先の通り信用していないのでこちらから手を打ちたい。

 

 直接交渉でメリットをぶら下げ八百長を測ってみるが、トリエルのメンバーの性格からしてそれは拒否されたものとする。

 

 そのうえで俺ならどう手を打つか。こちらの手札にはメディアとの太いパイプがあり、多少のゴシップまでも使用可能。それと、一番大きな手札としてトリエルのリーダー、天動瑠依は、バンプロの社長であり捕まった朝倉恭一の娘であるという情報がある。

 

 だとすると、その情報を使わない手はない。朝倉恭一と天動瑠依の関係性を明らかにし、そのうえで朝倉恭一の逮捕の決め手となった横領に関して何らかの形で関わっていたことにする。関係性は事実だからそこは否定しようがないことから、残りはどうやって横領に関わっていたかということ。

 

 そこでゴシップ記事の出番。盗み聞きなどした情報を悪意のある形で繋げ合わせ、ゴシップ記事を発表。メディアとのパイプを使いそれを拡散。後はプレタポルテに所属している自分自身が、世論情勢を考慮してプレタポルテに訴えかけ、トリエルのI-UNITY出場を取り消す。

 

 この手札を使って、トリエルの四回戦への出場を取り消すにはこんなところだろうか。

 

 我ながら考え付く下種なアイデアに自虐しそうになるが、今はそんな考えがトリエルを救うことにつながると思うとそれに感謝したい。

 

 っと今はそんなことを考えて置く前にやらないといけないことがあった。

 

 俺は鞄から私用のスマホを取り出すと、一つのアイコンをタップし、電話のボタンを押す。

 

 短い着信音の後、彼女はすぐに電話に出た。

 

「もしもし、突然ごめん。ちょっとお願いしたいことがあるんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、お兄ちゃん。これって……」

 

 YUKINOのレッスンの休憩中、有希が見せてきたのは一つのネットニュースだった。

 

「TRINITYAiLE天動瑠依、父である朝倉恭一と共謀か!?なんですかこれ?」

 

「ただのゴシップ記事だよ」

 

 特にこれといった証拠はなく、内容はあくまで推測の域を出ないもの。閲覧数稼ぎのただのゴシップ記事だ。

 

「これ関係者から話を聞いたーって書いてありますけど、そもそも天動さんと朝倉社長が親子だっていう証拠さえないですよね?これが許されるんだったら、私はキャプテンアメリカの娘だーという話を私という関係者が言いふらしてもいいですよね?」

 

「なんでキャプテンアメリカなのかが疑問なんだが、それが認められないことは自分が一番わかるだろ?つまりこの記事もそれまでのものさ」

 

 実際にタイトルの強さから閲覧数は伸びているが、それと比例するようにバッドアイコンと、悪意ある記事に対してのヘイトコメントが増え続けている。I-UNITY四回戦間際だということもあって、露骨すぎたのだろう。

 

「ねぇお兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「何をしたの?」

 

「何も、ただ世間話をしただけだよ」

 

「……危ないことはしないでね」

 

「わかってるよ。……さ、そろそろ休憩も終わりだろ。レッスン再開するぞ」

 

「季乃はトリエルが心配なのでもうちょっと休憩します!」

 

「嘘つけ、ただサボりたいだけだろ。さ、季乃も行ってこい」

 

「鬼です。鬼いちゃんです」

 

 文句を言い続けている季乃をなんとかレッスンに戻し、俺は再びスマホに目を落とす。

 

 ……よかった、本当によかった。

 

 心の底から安堵と言う感情があふれ出す。まだトリエルが四回戦に出場したわけじゃない。まだまだ気は抜けないが、それでも一つの難関が突破できたことがとんでもなく嬉しいし、心の底から安心した。

 

 あまりの脱力感に思わず手からスマホがすっぽ抜け、床へと落ちる。心配気にこちらに駆けつけようとしていた二人を押し留め、レッスンを再開するように促す。

 

 視界がブレる。

 

 頑張ったかいがあったと、心からそう思えた。

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