I-UNITY四回戦、TRINITYAiLE対ⅢX。次世代のエース対現世代のトップの一角の一戦は、始まる前から大盛況で向かい入れられた。
いつも以上に気合の入った表情で、それでいてどこか怒りを滲ませたようなトリエルと、いつも通りのプロとして表情で、けれどどこか不愉快そうな表情を垣間見せるスリクス。対照的な二組の姿形が印象的だった。
そして始まったライブバトル。先行のスリクスは今まで通り、会場中を虜にする、気が付けば時が過ぎているのに気が付くような、視線が釘付けになる圧巻のパフォーマンスを。後攻のトリエルは、三位一体の見るものすべてが勇気づけられ、心の底から声を出したくなるようなそんなパフォーマンスを。
二組のパフォーマンスが終わるころには会場中の熱気は溢れんばかりに高まっていた。
そしていよいよ発表される決着の時。
どちらが勝ってもおかしくなかったその一戦。
勝利の女神がほほ笑んだのは――。
――――ⅢX
彼女たちには珍しく、本当にわずかな、僅差での勝利だった。
「トリエル負けちゃいましたね」
ライブが終わって少しした後、ようやく体の熱気も収まってきたときに隣にいた季乃から声を掛けられた。
「あぁ。でも、いいライブだった」
「……なんかポエマー社長にみたいなこと言ってますね」
「失礼な」
二重の意味で失礼だ。ポエマー社長にも謝ってこい。
「でも、色々とやってたんでしょ?悔しくないの?」
「俺は、別に勝ち負けはどうでもいいんだ。ただ、彼女たちがそこで輝ければそれでいい」
「……そっか。変な考えだね」
「自覚はあるよ」
しばらく余韻を楽しんだ後、そろそろ会場を後にしようとして、舞台裏に繋がる扉から一人の女性が出てくるのが目に入った。
姫野霧子だ。
彼女は不機嫌そうな様子を隠すことなくそのまま会場を後にしようとしたが、俺の姿を見てか取り繕うにように姿勢を正し、こちらへ歩いてきた。
「お久しぶりね。御堂さん」
「お久しぶりです」
姫野はいつも同じく含むような、しかしどこか焦りを滲ませた口調で言葉をつづけた。
「……あの提案。覚えているでしょう?話聞いてあげてもいいわ」
あの話。俺が以前姫野と会ったときに言った、他事務所にアイドルを移すにはどうすればいいか、の話だろう。
当然、YU☆KI★NOたちを移籍させるつもりはないし、他の事務所のアイドルを引っ張ってくるつもりもない。念のために張っておいたブラフに過ぎないが、それに縋るしかないほど彼女は追いつめられているってことだろう。
面白い、乗ってやろう。
俺はポケットに忍ばせていたボイスレコーダーの位置を確認しつつ、姫野に話を返した。
「ぜひ、お願いします」
「わかったわ。だけど、条件がある。前にも言ったと思うけどまずは彼女たちをⅢXの前に立たせなさい」
「わかりました」
これは問題ない。YU☆KI★NOを勝たせることが俺の仕事の一つだし、姫野の発言自体もおかしくはない。
「そして五回戦。彼女たちがスリクスの前に立つとき、スリクスに負けて頂戴」
ここだ。
俺は事前に確認していたポケットのボイスレコーダーの電源を入れる。
「つ、つまり姫野さんはYUKINOに八百長をさせろって言っているんですか!?」
「そういうこと。あぁ安心して頂戴。たとえここで負けても手厚くバックアップはかけてあげるから」
「でもI-UNITYという大きな大会で八百長なんて……。いくらYUKINOのためとはいえ、彼女たちも快く思わないでしょうし……」
「甘いのね。損して得取れ、よ。目先の利益に囚われていると長期的な利益を逃がすことになる。あなたなら言っていることはわかるでしょう?」
「で、でもですよ。もしバレたら姫野さんだけじゃなくスリクスの面々にも被害が……」
「バレないわよ。ライブでの失敗は日常茶飯事でしょう?」
まぁこんなところか。
このボイスレコーダーの筋書きとしてはこうだ。
俺ことYUKINOのマネージャーはYUKINOのために姫野から八百長を持ち掛けられている。ここでYUKINOのため、とは何?ってなるが、現状のバンプロの状況を考えると、バンプロでアイドル活動を続けるのは問題があると話の内容は誤認させることは可能。ついでにバックアップをかけてあげるって発言のおかげで裏付けもできた。
時系列的にはI-UNITYの開催中。スリクスの名前が出たことから、YUKINOのスリクス戦での八百長のことだと認識できる。
ボイスレコーダーに含む内容としては十分だろう。俺の評判が著しいほど下がりそうだがマネージャーの評判が下がろうが問題ない。むしろ評判が低いほどやっていきやすいだろうし。
「どうかしら?」
「嫌ですね」
俺はこのタイミングで、ポケットの中のボイスレコーダーをオフにする。
明確に不機嫌そうな表情になった姫野を前に俺は思わず口元が緩んだ。
「……全く、どちらがより利益があるかくらい理解できるでしょう?利益じゃなくても、それが彼女をトップにさせる手助けになる。ちょっとは考えて発言してくれないかしら?」
「ちょっとは考えて発言したほうがいいのはあなたですよ。はい、これ」
俺は先ほど録音したボイスレコーダーの一つを取り出し再生する。若干ノイズがかかってはいるが、聞き取れないほどではない。よかったよかった。
「これは……」
「あなたぺらぺらと喋りすぎなんですよね。営業のつもりで話してます?」
「……こんなので私を脅せるとでも?こんなものいくらでも握りつぶせ…」
「でしょうね。俺は今のアイドル業界内部に強い伝手は持ってない。これを持ってても然るべき場所で使えないなら意味がないでしょう」
「……わかっているじゃない。ならなぜ」
「少なくとも俺は、といった話ですよ。誰彼構わず情報を流し続けていけばいずれたどり着くかもですね」
具体的には三枝さんのものに。というか、最初から三枝さん以外の人に渡す気はないが。
「あなたね!?」
「プレタポルテはガードが堅そうだからあの大手事務所がいいですかね?それか関係者が集まる席に仕込んで置いて集まったときに再生するってのも良さげですかね」
「…………わかったわ。あなたの本当の要求は何?」
彼女はしばらく間を置くことで冷静さを取り戻したようで、こちらを鋭い目つきで睨みつけながら聞いてきた。
「要求?ないですね」
「……は?」
「そもそも要求があってあなたと話したわけじゃないんで。……あぁでも一つだけ要求あったかもです――――表舞台から落ちろ姫野霧子」
「っ!」
「年貢の納め時ってやつですよ。それじゃ俺はこれで失礼します」
俺は話の途中で先に出口へと向かわせたYUKINOを追って、歩みを進める。
……あぁそうだ。大事なこと言い忘れていた。
「今日のライブ最高でした。でも、トリエル潰せなくて残念でしたね」
「……なにを」
「別に?ただ、メディアに裏切られて可哀想だなぁって」
「……お前の仕業か!」
会場への扉が閉まる。足跡が聞こえないから追ってきてはいないのだろう。さすがに姫野と言えど、いきなり暴力に走るような真似はしないか。
安心したのと同時、途端口元に笑顔が浮かび始める。
……あぁ気持ちいい!言いたいことがやっと言えた解放感と、やりたいことがきれいに嵌った達成感で心が満たされていく!歓喜!これが解放の快楽!
「……前々から思ってたんですが、慎二さんって一番ヤバいやつですよね。しかも関わっちゃいけないタイプの」
「前からそうだよ。だから嫌いなの」
「聞こえてるぞ」
人前でもある、さすがににやにやしすぎたなと口元を抑えていると、関係者側のドアから誰かが出てくるのが目に入った。
三人のシルエット。そして先頭を歩く銀髪の姿。
TRINITYAiLEだ。