星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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冷たい光

 その日は酷い雨だった。

 

 バンプロ社長である朝倉恭一の逮捕という騒動があったとはいえ、会社は健在。幹部含め俺たちがなんとか立て直しを図った結果、会社としてなんとかやっていける程度には騒動が収まってきた。

 

 とはいえ、今は信用を得られていない状態。それでもなんとか仕事を貰えるように各方面との調整を進めていると、携帯に連絡が入った。

 

 連絡相手は三枝信司。彼によると、どうやら姫野は本格的に俺を潰そうとしているらしく、何をしてくるかわからないから気をつけろといったもの。

 

 姫野が俺を目の敵にしていることは知っている、しかし、実際のところ今の姫野が打てる手は限られている。対策は先んじて打っておいたし、後は相手の動きを見てじゃないと動けない。

 

 三枝さんに感謝の言葉を返すと、俺は仕事に戻った。

 

 有希と季乃のため。少しでも彼女たちがやりたいことをやれるように、仕事を考える。

 

 考えた仕事を、先輩と相談し、それがコスト的に可能なのか事務所に問題がないか確認し、実行に移す。

 

 それが終わったら、今度はYU☆KI★NOの新曲についての整理だ。お披露目の舞台であるI-UNITYの五回戦まで時間がない。少しでも完成度を上げるため、レッスンにかける時間を増やすだけでなく、各方面からアドバイスをもらい所感をまとめる。

 

 アドバイスといってもすべてを取り入れればいいわけではない。残り時間がないことを考え、話すべきことと今は話すべきじゃないことを判断し、更に推敲していく。

 

 最後に俺が知っている彼女のこと、そしてスリクスのことをまとめる。……うん、これなら問題ないだろう。

 

 資料が長くなってしまったのは問題だが、この中からいくつか話せて彼女たちのレベルアップにつながれば問題はない。

 

 時計を見ると時刻はすでに十時を回っていた。そろそろ帰らねば。

 

 くたくたになった体を無理やり動かし、俺は事務所の電気を落とし、ロックを掛け、外に出る。

 

 外は土砂降りの雨だった。

 

 傘は持ってきていない。近くのコンビニに駆け込むのもありだが、ここからなら駅に向かう方が早い。

 

 星見駅近くのコンビニで傘を買おうとプランを立てると、俺は雨道の中急いで外を駆けだした。

 

 雨は想像以上に冷たく、重い。

 

 風邪ひかないように今日は暖かくしないとな、なんて考えていると、ふと、俺の脳裏にあの日のことが頭をよぎった。

 

 あの日、長瀬麻奈が、麻奈ちゃんが亡くなった日もこんな天気だった。

 

 空には一面に雲が覆い、雨が冷たく降りしきる。

 

 会場でライブが中止になったと聞き、会場の外で彼女の事故を知ったときに、こんな雨が降っていた。

 

 ざーと辺りに雨音が響き渡る。暗い夜道にも関わらず都会だからか人通りは多く、車通りも盛んだ。

 

 あの日と同じ状況だな、なんて疲れた脳で考えながら横断歩道を渡っていると、突然近くで叫び声が聞こえた。

 

 周囲から人が避けていく。思考が定まらない。

 

 ようやくそれに気が付けたのは、目の前に眩しい光が映ったからだった。

 

 何百回をも見てきたライブ会場のライトとは違う、冷たい光。あの日、麻奈ちゃんが亡くなって以来、嫌いになったその光は、速度を変えず真っ直ぐ俺へと向かってきていた。

 

 不思議と避けようとする考えが脳裏に浮かばなかった。目の前に迫ったそれを避けられないと悟ったのか、動くことが億劫だと感じたのかもしれない。

 

 でも――

 

 体が宙を舞った。

 

 スローモーションで流れる風景はどこか現実感がなく、まるでフィクションの中の世界のようで、俺はただその光景を眺めていた。

 

 慌ただしく立ち止まった車。それを見て叫びだす人。逃げ出す人。どこかに電話する人。

 

 空を見上げると、冷たい水が顔を襲った。空は真っ暗で星の一つさえ見えない。いつか見た輝きでさえ、この雲の前では輝けないようだった。

 

 全身に激しい痛みが走ると同時、俺の意識は途絶え始める。

 

 わずかに見えた視界に、過去のページが映し出された。

 

 俺と牧野と麻奈ちゃんが生きたあの日々。そして、有希と季乃と生きた日々。

 

「……ごめ…ん」

 

 絞りだしたその声は誰にも届くことなく、周囲へ溶けていく。

 

 酷い雨の中、冷たい光だけが俺を映し出していた。

 

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