姫野が消えた先から現れたその三人……ⅢXことスリクスは私たちのことを目にするや否や口を開いた。
「あなたたち何をしたの?姫野さんが露骨に慌てていたけど」
「なんか珍しくライブに勝てーなんて言ってたよね。そんなの当たり前じゃん」
「でもあの人は正攻法で勝とうとする人ではありません。それだけにあの慌てようは気になりました」
どうやら姫野はスリクスに激励の言葉を言ったらしい。ま、私たちのライブの邪魔をするなと言っただけで、ライブバトルで負けろとは言ってないからそうするよね。
「さぁ?何をしたんでしょう?」
私が口を開く前に季乃が口を開く。……そういえば季乃はトリエルからあの話を聞いて、スリクスに対して怒っていたんだっけ。
「そう。教えてくれないなら別にいいわ。それじゃあまたね」
「ちょっと待ってもらっていいですか?私、スリクスの皆さんにお聞きしたいことがあるんですよ」
「……何かしら?」
リーダーであるfranさんはどこか不機嫌そうな仕草で問いかけてくる。
「私も小耳にはさんだだけなんですけど、長瀬麻奈を抹殺する、って言ってたのは本当なんですか?」
「……はぁ」
「あのさぁ。またそれ?どうせそんなことさせない、なんて言ってくるんでしょ?はいはい、それはもう聞き飽きました」
「つまり事実なんですか?」
「事実も何もkanaはそんなこと…」
「長瀬麻奈に因縁があるのは私です。だからこそ彼女の記憶を上書きしたい、それだけの話です」
口を割って入ってきたのはmihoさんだ。……一番常識人と思っていたばかりにそれには少し驚いた。
「つまり言ったってことですよね?」
「……話は終わりです。fran、kana行くわよ」
「あぁ逃げるんですね。まぁ、所詮は姫野の権力で勝ち上がってきたグループなので仕方ないですね」
目に見えた挑発だ。季乃が彼女らに言わせたいことはわかるが、彼女らとて芸能界で長く暮らしてきた人物だ。そう易々とは……。
「はぁ!?あんなやつの力なんてなくてもkanaは勝ち上がってこれたし!馬鹿じゃない!?」
……引っかかる人がいるんだね。
「kana……」
「じゃあなんでそうしてこなかったんですか?姫野さんが色々と動き回っていることは知っていたんですよね?それができないから姫野さんを見逃していたんじゃないんですか?」
「あいつがどうしようが勝つだけだからkanaには関係ないでしょ!?それにさっきから何?負けた時の言い訳づくりでもしているわけ!?だっさ!」
「kana、ここで話してても意味ないわ。行くわよ」
「山田が指図するな!」
「はぁ?」
……話がこじれてきた。別にスリクスとギスギスするのは問題ないが、他の人が通る場所で怒鳴り合っているのが問題だ。とりあえず場所を移そう。
「季乃、スリクスに聞きたいことがあるんでしょ?なら場所を移そう。ここじゃ目立つ」
「私たちにはあなた方の聞きたいこととやらに乗る筋合いがないのですが」
「別にいいけど、このままだと一生季乃が挑発し続けるよ?それでいいんだったら私も止めないけど」
周りに怒鳴り声が聞かれて困るのはスリクス側も同じ…というより、表面上は仲のいいアイドルでやっているスリクスのほうがダメージが大きい。kanaさんに関してはSNSでの影響もあるだろうし。
「……わかったわ。kana、場所を移すわよ。とりあえず私たちの楽屋でいいわよね?」
「私はどこでも構わないですよ!」
「覚えていろよ……」
「それで何が聞きたいのかしら?それとも言いたいことがあるだけ?」
場所を移し、スリクスの楽屋。ライブの時間まではまだ余裕があるし、十分話す暇はある。
「長瀬麻奈を抹殺するって言ったのは本当ですか……って聞こうとしたんですけど、私の狙いもバレていそうなのでやめてあげます。もう少しkanaちゃん挑発したら洩らしそうだったんですけどねぇ」
「っ!お前……!」
「お前とは失礼ですね。私には……っとそういえば自己紹介してなかったかもですね。私は季乃って言います!YUKINOの季乃です!」
「YUKINOの有希」
「……YUKINOって確か今日の対戦相手だったわよね?」
「そうですよ!」
「そう。それで、もう一度聞くけど何の用かしら?」
「実は私たちトリエルから直接話を聞いてまして、それでその件でmihoさんにお聞きしたいことがあります」
「何でしょうか?」
「どうして皆の記憶から麻奈ちゃんの記憶を消そうとするんですか?」
「……あなたに話すようなことではありません」
「何か恨みがあるって感じですかね?でもただでさえ亡くなった相手に対してそんなことするなんてよっぽどですよね?」
「……」
「もしそんなことをされたら私も嫌なんですけど、でも正直な話、そんなことができるとは思えないんですよね。あなたは可能だと思っているんですか?」
「不可能ではないと思っています。実際に同じ曲でスコアで上回れれば多少なりとも影響はあるでしょう」
「そうですかね?例えば私たちがスリクスの曲でスリクスより高得点取ったとすれば観客はスリクスのことを忘れるんですか?」
「それは……」
「私はまだSundanceのこと忘れてないですよ」
「っ!」
「……まぁなんとなくmihoさんの考えはわかりました。ありがとうございました」
季乃は何やら動揺している様子のmihoさんに向かって頭を下げた後、少しだけ真剣な表情を見せた。
「でも一つだけ言わせてください。麻奈ちゃんのことであんまり迂闊なこと言わない方がいいです。じゃないと、あなた消されますよ」
「それは……どういうことでしょうか?」
「それだけ強い想いを持っている人がいて、強い力を持っている人がいるってことです。……一応言っておきますけど、私じゃないですよ」
「……ご忠告ありがとうございます」
話は終わりだろうか。ちらりと季乃の目に視線を向けると、どうやら彼女もこれ以上話す気はないようだ。
「じゃ、私たちはこれで」
「ちょっと待った」
そのまま楽屋を後にしようとしていると、kanaさんに止められる。
「季乃だっけ?ライブで二度とその口聞けなくなるくらいぐちゃぐちゃにしてあげるから楽しみにしておきなよ」
「私もあなたのその面が歪む姿を楽しみにしてますよ!……あぁそれと」
そう言って季乃は自らのポケットを探り、何かを取り出す。
「念のためボイスレコーダー入れていたのですけど、私は使わないので壊すなりデータ消して使いまわすなり、好きに使っていいですよ」
そう言って季乃は電源を消したボイスレコーダーを机の上に置く。
……全くこの子はほんと好き勝手やる。
「それじゃ失礼します!」
「じゃ、またライブで」
扉を閉める寸前、苦笑いを浮かべている表情、虚を取られたような表情、注意深くこちらを見つめている表情が目に入った。
……ⅢX。想像より面白い人たちなのかもしれない。
「季乃」
「何ですか?」
「ライブ楽しみだね」
「……ふふ、悪い顔してますね。えぇ、楽しみです!」
ライブの時間はすぐ近くまで迫っていた。