ライブを終え、楽屋に戻る途中、見覚えのある三つの影が視界に映る。
ⅢX。さすがにライブ明けでその額には汗が見えたが、その立ち姿に疲れは見えない。……さすがはBIG4だ。これが本物のプロなんだろう。
掛ける言葉もない。楽屋に戻ろうとしていると、彼女たちも私たちのことに気が付いたようで、こちらに向かってきていた。
「あー、負け犬のYUKINOじゃん!あんだけ威勢かいて負けた気分はどう?」
「いやー悔しいですね。ほんとに、本当に悔しいです。だから思わず私も手が出ちゃうかもです!」
「っ!」
「あっはは!冗談ですよ!そんなことしませんって」
kanaさんと季乃が絡み合っていると、それを目にした他のスリクスの面々も寄ってきた。
「お疲れ様です」
「……お疲れ様。それよりあのライブは何?」
「Star Imitation。アイドルという輝かしい星に憧れて模倣した子の歌ですよ。それ以上でもそれ以下でもないです」
「私たちの真似をしたのもその一環ってわけ?」
「そうです。……点取り屋と呼ばれるスリクスの方々なら初見でのインパクトの大事さはわかるのでは?」
……あの模倣は模倣とわかる人物がいてこそ成り立つものだ。だからこそ、スリクスのライブの後にあれをやってより引き立たせたかったんだけど…こればっかりは運だから仕方ない。
「……確かに観客点での観点では有効な手段です。ただそれをやろうとは思わないですが」
「後々の影響を考えればデメリットが大きい。言い方を変えればただのパクリですからね」
だからこそ、このライブはリスクがあった。嫌われる、今後の活動に影響が出るといったのもこのためだ。
「そこまでして勝とうとしたのはなぜかしら?やっぱり長瀬麻奈のため?」
その言葉に思わず笑みが零れる。長瀬麻奈のため、か。お兄ちゃんなら迷わずそんな言葉を言うんだろうな。……でも私は違う。
「そんなわけないでしょ。私にとって長瀬麻奈は他人なので。彼女がどうなろうと私には関係ない」
「……」
「ただ私は、私自身が楽しみたいから、そして楽しむためには勝つことが一番だから、全力で勝ちにいきました」
そう、それが私…御堂有希というアイドル。誰かのためじゃなくて、あくまで自分自身が楽しむためにアイドル活動を行う。そのためにも、今まで見せてきた御堂有希というアイドル像を捨てる必要があった。
「短絡的ね。まるで子供じゃない」
「そうかもですね。でもあなたたちも同じようなものでしょ?アイドルというものを踏み台にしてまで得たいものがある。そのためにアイドルをやっている。違いますか?」
「あなたたちと一緒にしないで…って言いたいところだけど、否定はしないわ」
天動さんはスリクスは長瀬麻奈の存在を消すことが目的だ、なんて言っていたけど、実際に彼女らと話してみてそうじゃないとなんとなく思った。
だから、本当の目的はわからない。でも、パリコレまで出演していたトップモデルのfranさん、小さいときから芸能界に足を踏み入れ芸能界屈指の才能があったkanaさん、そしてトップアイドルの一歩手前まで迫り相方の死に直面したmihoさん、才能の溢れる彼女たちが共にアイドルグループを組み、トップを目指すのは何か深い理由があるのだろう。
「……引き留めて悪かったわね。kana、いつまでも怒ってないで行くわよ」
「ちっ、次会う時は……あっごめーん!次会える時はもうないかもしれなかったね!」
「あ、すみません、聞き取れなかったのでもう一度お願いできますか?」
「kanaの声を聞きとれないなんて耳がいかれてんじゃないの!?」
「失礼な!いかれているのはあなたの口と頭ですよ!」
「こいつっ!!」
「kana、いい加減にして頂戴」
「季乃も挑発しないで、めんどくさいから」
お互いじゃじゃ馬を引き留め合うと、今度こそ別れを告げ去ろうとする。
……あ、そうだった。忘れてた。
「次は勝ちますから」
「……楽しみにしておくわ」
そう言って私たちはお互いの楽屋に戻った。
「有希ちゃん楽しそうですね?」
「そう?……でも、そうかも」
今までやってきたアイドル活動でこんなにも胸が高鳴ることはなかった。アイドル活動はどれも初めてのことで新しいものに触れる楽しさはあったものの、それ以上のものは見つけることができなかった。でも……。
「全力でやっても敵わない相手がいる。それを改めて目にしたからかもね」
NextVenusグランプリでも月ストに負けた。でもそれはあくまで私たちが未完成だからだっただけで、本気で負けたとは思っていない。だからこそ、準備も万端に完璧なライブをやってなお、届かない相手がいる、ということに笑みが浮かび上がってくる。
「そういった相手に勝つ。そう考えると、楽しくなってこない?」
「ふふ、それでこそ有希ちゃんです!大好きですよ!」
そう言って季乃は私に抱き着いてきた。暑苦しい。でも今だけは許してあげてもいいと思えた。
「季乃もこれから頑張ってもらうからね。まずは体力つけないとね」
「あっははー、精進します……」
苦笑いを浮かべる季乃の顔に笑みを浮かべながら、私たちは着替えを終え、楽屋を後にする。
……I-UNITY。結果は負けてしまったけど、得られるものがあったいいステージだった。
願わくばもう一度あの大きなステージで、今度は完膚なき勝利を。
そんな想いを胸に私は歩みだす。
私のアイドルとしての道が進みだした気がした。