運命に導かれ
運命なんてものは眉唾だと思う。あらゆる事象は誰かが、何かが行動した結果に過ぎず、あるべくしてその出来事があったと考えているからだ。
今までの人生だって、自らの手で未来を定めてきた。それを、その生き方を、運命とは言いはしないだろう。
だから、その出会いもあるべくしてあって、自らの行動の先にあったものなのだろうと思う。
だけど、後々に人生においてそう思える出来事も、当時はそうとしか思えない出会いで、それほどまでに出来すぎた物語だった。
だからこそ、私はその出会いの名をこの言葉で名付けたい。
――それは運命だったのだと。
事の始まりは俺の職場であるバンプロダクションで、いつもお世話になっている先輩マネージャーに呼ばれたことがきっかけだった。
「お疲れ様です」
「お疲れ」
俺が声をかけると先輩はデスク作業を中断させ、俺と向かい合う。
前は心配するほど酷かったクマも今はかなり収まっている。先輩も多少は休めているようで安心した。
「怪我の調子はどうだ?」
「おかげさまですっかり完治しました」
車に轢かれるという事故にあってしまい、数週間前まで俺の足にはギプスが巻かれていたが、今ではそれも取り外され自分の足で歩けるようになっていた。とはいえ、未だ医師からは激しい運動は控えるようには言われているけど。
変に言って心配させるのも嫌なので、それだけ伝えると先輩は安心した表情で頷いた。
「まぁとりあえず仕事ができるようになってよかったよ。そういえば最近車の免許も取り始めているんだって?」
「えぇまぁ。何かと必要だと感じたので」
俺の仕事はバンプロダクションに所属するアイドルを管理するというもの。所謂、マネージャーだ。当然、営業活動も自分で行っているため、遠出のさいにどうしても足となるものが必要となってきた。……というのもあるんだが、一番はアイドルたちを送り迎えできるものが欲しかったってのが大きい。
今までも免許獲得は考えていたんだが、何かと忙しく、そして俺が車が苦手だというのもあって取るのをあきらめていた。それが、丁度怪我で仕事もできなかったこともあり、苦手克服も兼ねて自動車学校に通ってなんとか免許取得中ってところだ。
「うん、そのほうが色々と楽だしな」
先輩は何度か頷いた後、更に言葉を続けた。
「YU☆KI★NOの調子はどうだ?」
YU☆KI★NOは俺が担当しているアイドルグループだ。妹である有希と、その友達である季乃が所属している。最近まで一時活動は停止していたものの、再開してからは今まで以上に更に人気が爆発した。
それもそうだろう。元より彼女たちは新人トーナメントであるNextVenusグランプリの活躍もあって注視されていたアイドルだ。そこから順当に人気を増やしていき、そして迎えた大規模なグランプリI-UNITY。惜しくも表彰を得られる場所まではいけなかったものの、当時アイドル業界のBIG4の一角だったⅢXと接戦を繰り広げた。これが目立たないわけがない。
そして極め付きは彼女たちがⅢX戦で繰り広げたパフォーマンス。伝説のアイドルと言われている長瀬麻奈、BIG4の一角であるⅢX、元BIG4であるSTROBOLIGHTS。彼女たちのパフォーマンスを模倣したそのステージは良くも悪くもかなりの評判を生んだ。
その結果がこの人気というわけだ。
「絶好調みたいです。季乃は腹黒キャラを隠さなくなって今まで以上に生き生きしてます。反対に有希は熱狂ぶりにうんざりしているみたいですけどね」
「はは、それは何よりだ」
先輩はひとしきり笑った後、途端姿勢を整え、真剣な表情で俺を見つめる。その視線に俺も姿勢を整えた。
「御堂、一つ新しい仕事を頼みたい」
「新しい仕事……それはなんでしょうか?」
「YUKINOではなく、別のアイドルを担当してみないか?」