「へぇ。ま、当然じゃない?」
先輩に言われた、YUKINOとは違うアイドルを担当してみないか?という言葉を受け、俺は二つ返事でその言葉を了承した。
俺もYUKINO以外のアイドル担当することになることは常々考えていた。先輩も複数のグループを持っているし、俺もそろそろだろうなぁって。まぁ時期がいつごろになるかまでは考えきれてなかったけど。
ともかく、他に担当するアイドルが増えるということはYUKINOを見られる時間が減るということだ。いくら仕事だとはいえそれを伝えないのは失礼なので、そのことを伝えに俺は早速彼女たちのレッスン室に来ていた。
「少しは名残惜しそうにしてくれていいんだぞ」
「なんで?鬱陶しいやつが消えて精々するだけじゃん」
「お前な……」
有希の反応は淡白なものだった。有希も俺の仕事上、こうなることは想定していたのだろう。だからこそ特に反応なし、か。
有希は気だるげな赤い瞳でちらりと俺と目を合わせると、長い黒髪を遊ばせたままレッスン室に横になると、スマホを触り出す。重力に逆らうように天に伸びた癖毛に思わず笑みが零れる。
「私たちを捨てちゃうんですか?」
「YUKINOの担当は変わらず俺だぞ。ちょっと関われる時間が減るだけだから心配するな」
「一緒のベッドで寝た仲なのにそんなの……酷い!」
「おい」
季乃は肩まで下ろしたベージュの髪を揺らし、黄色の瞳を鋭く尖らせる。いかにも怒ってますといった風貌で、よく響く声を上げる。
「結局私とは遊びだったんですね……あんなにも一緒でデートだって行ったのに」
「頼むから誤解を招くような発言止めてくれないか?どこかで聞かれているとまずいから」
「慎二さんが悪いんですよ!」
「あー、悪い。相談するべきだったな」
「そうですよ。全く、私たちが活動停止したのは何のためだと思っているんですか!」
YUKINOがI-UNITY以降活動停止したのは俺が怪我が治るのを待ったからだ。彼女達なりにそれだけ俺のことを大切に想ってくれていると思うと、なんだか申し訳なくなる。大した事できなくてごめんな。
とはいえ、それはそれ、これはこれだ。他のアイドルを担当する事もマネージャーの仕事なのだから、なんとか納得してもらいたい。
「ごめん、季乃。でもこれは――」
「わかってますよ。仕事ですもんね。私も理解してますのでご安心を!」
困っている慎二さんの表情可愛かったですよ!と季乃は言葉を続ける。……揶揄われただけか。
「でも、ちゃんと私たちのことも見ててくださいね!約束ですよ?」
「あぁ約束する。それは絶対裏切らない」
「そいつ何度も約束破っているから信用しない方がいいよ」
「有希、これは信じてくれ。頼む」
「無理、もう信用ないから」
……困ったことになった。今まで培ってきた不信がここに来てやってきた。どう納得してもらおう。
「だから、次破りそうになったら、私たちで無理やり止めに行く」
「それはいいアイデアですね!いっそのこと、慎二さんが新しく担当した子を辞めさせるのもありかもです!」
「それは止めろ」
季乃は人のコントロールがうまいというか、人の感情とその機微の扱いを心得ているからいざとなれば本当にやりそうなのが怖い。有希もそれを止める性格でもないし……。
「じゃあ約束破っちゃだめだよ」
「あぁわかった。今度は約束を破らない」
「……信じますよ?もし破ったら私本当に怒りますからね?」
「あぁ心に刻み込んでおく」
「それならよろしい!」
「……ま、所詮は口約束だからいざとなったらそいつ平気で破って対処してきそうだけどね」
「有希も頼むから信用してくれよ」
「嫌だ。だって私、お兄ちゃん嫌いだし」
「……俺もお前のそういったところ嫌いだよ」
……有希とはいつもいつも気が合わない。でも自分とは考えが違う有希だからこそ、ここまでやってこれたんだろうなって時々思う。
「……それじゃ、話も終わったところでレッスン再開だな」
「今の会話で疲れたので休憩延長を希望します!」
「却下」
「鬼いちゃんめ!」