新たなアイドルを担当する、とはいっても、どのアイドルを担当するかは決まっていないらしく、俺の目でどの子を担当したいか決めてこいと一任されてしまった。
幸いにもバンプロにはアイドル養成所というものが存在する。バンプロの元二大巨塔だったLizNoir、TRINITYAiLEのメンバーもここ出身で、その育成力は折り紙付きだ。
なので俺も養成所に来てアイドルの卵たる彼女たちを見て回っていたいたんだが……。
「んー……」
どうもしっくりこない。いや、才能というか、アイドルとして輝くために必要なものを持っている人たちは確かにいた。歌がうまい人も、ダンスが上手な人もいた。ただ、なんとなく、こうしっくりこない。
ペーペーマネージャーである俺如きが何を上から目線で評価しているんだ、って話だが、今後一緒に駆け上がっていくと考えると、どうしても色々と考えてみてしまう。……もしかすると、初めに有希と季乃を見てしまっているから理想が高くなりすぎているのかもしれない。
ここは一度フラットに。もう一度見て回って…はさすがに不審がられるか。日を置くか……。
「はぁ……」
思わず息が零れる。夢を持った彼女らの中から誰かを選ぶのって想像以上に精神が疲れる。
……少し休もう。
そう思い、俺は街へ駆り出した。
行く当てもないことから、俺は街をぶらぶらしていた。綺麗な青空がまぶしい。
ぼけーと空を眺めていると、甲高い声が辺りに響き始める。視線を下ろすとそこには若い女子高生が仲睦まじくきゃきゃしている様子があった。
青春してんなー、いいよなぁ。俺もあのころに戻りたいわ。
牧野と麻奈ちゃんといたあの帰り道を思い出し、思わず笑みが浮かぶ。
……牧野、か。そういや今のサニピと月ストを作り上げたのも確かあいつだったよな?
サニーピースは今やアイドルのトップの一角であるBIG4、月のテンペストは今は調子は落としているものの、当時BIG4だったⅢXに僅差まで迫った実力の持ち主だ。そんな二組のアイドルグループを作ったあいつなら、俺の今の悩みも解決してくれるかもしれない。
「でも、あいつも今は忙しいか」
同じく牧野の担当…というより星見プロ所属であるアイドルは現状四組。先に挙げたサニピと月ストのほか、LizNoirとTRINITYAiLEだ。リズノワとトリエルは現状国内ツアーで不在だがそれでもやるべき仕事はたくさんある。サニピと月ストは言わずもがなだ。
「……あいつそのうちぶっ倒れるんじゃないかな」
新しくマネージャーを雇ったとはいえ未だ人手不足は健在だ。俺も過労だったため人のことは言えないんだが、自分が体験し人に迷惑をかけてしまった分、余計心配になる。
「とはいえ今は人の心配をしている場合じゃないか」
俺は下校している様子の生徒たちを眺めながら、息をつく。聞けば麻奈ちゃんもスカウトで星見プロに入ったと聞くし、こうやって眺めていれば麻奈ちゃんみたいな人がいるかもしれない。
「……そんな都合のいい話はないか」
しばらく眺めてみて、俺は再び息をつく。そうだよなぁ、麻奈ちゃんみたいな子がその辺にゴロゴロいたらこっちが困る。アイドル業界崩壊しちゃうよ。
やっぱり見ただけじゃ人がわからない。直接話を聞くしかないか、と気持ちを新たにしていると、ふと視線の先に目立つ三人が目についた。
もしかして俺が夢見たアイドルの卵!と期待したのも一瞬、視界に入れたその姿は見覚えのある姿だった。
遠目でもわかる抜群のスタイルにウェーブの入った金髪。銀髪のボブヘアに身長の割には小柄な体躯。そして漆黒の長髪に抜群のプロポーション。
ⅢXじゃねぇか。アイドルの卵どころかもう鶏だよ。トップオブにわとりだよ。
がっくりしつつも、彼女たちが行く先を眺めていると、どうやらビジネス街に向かっている様子。仕事か?
ⅢXといえばBIG4の一角であったトップアイドルだ。なぜ過去形だったというと、I-UNITYのときにあったごたごたに巻き込まれ所属事務所を失った彼女らは、それと同時に世間の信用を失い、そのBIG4の座さえ失ったからだ。
不憫だと率直に思う。I-UNITYでの問題はほぼ姫野という奴が原因だったし、彼女らは真っ当にI-UNITYに参加して勝ち進んでいただけだ。なのになぜこんなことになったのか。
とはいえ、彼女たちを救うために何もしていない俺が口出しできる立場でもない。何より彼女たちは大人だし、頭の切れる人たちだ。俺が何もしなくても自分たちで解決できるだろう。
だけど、やっぱり彼女たちの我が道を往くライブを見てきた身からすると心配にはなる。事務所という抑止力にもなっていた機関が無くなっている以上、変なことに巻き込まれていないかが心配だ。
「……ついていくか」
幸いに、とある事情で俺自身の隠密行動能力は高い。不審者と呼ばれた実力を侮られては困る。……悲しくなってきたので今後二度と言わないでおこう。
ビジネス街を歩くこと数十分。スリクスの面々も地図も見ながらであったため歩行速度はそこまで早くなかったこともあり、俺も悠々と追跡できていた。
脳内でストーカーはダメですよ!と言っている季乃の姿が浮かぶが気にしないでおく。これはストーカーじゃない。情報収集だ。
それから少しして彼女たちはとあるビルの前で立ち止まった。
……見覚えのあるビルだ。
そのビルに三人で入っていったことから用があるのは間違いなくここだったのだろう。
……星見プロこと星見プロダクションが事務所を構えているビルディング。無論、別の階には違う会社のオフィスが並んでいるからそっちに用があるのかもしれない。
「何も起きないといいけど……」
スリクスはI-UNITYの一件で、星見プロのアイドルたちと何かと因縁がある。喧嘩に発展しないことを祈るばかりだ。