星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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求めていること

 

「そういえば新しい担当の子って決まったの?」

 

 あれから数日経ち、スリクスが星見プロに入ったことは世間的にも十分に浸透した。

 

 ある程度の批評はあったものの、同時に姫野の件で同情的な目を向けられていたこともあり、それほど騒ぎにはならずに星見プロに向かい入れられた。……ただ、現地のアイドル達には思うところはあるみたいだが。

 

 それは本人たちと牧野に任せるとして、俺の方には別問題が発生している。

 

 ……いや、発生しているというより、俺が原因で問題が発生したと言っても間違いではない。

 

「……決まってない。見つけられない。助けてくれ」

 

 そう、新しく担当するアイドルが見つからないのだ。先輩からも催促のお言葉もいただいたし、そろそろリミットがまずいことになってきた。どうしよう。

 

「……逆に聞きたいけど、どういう子を担当したいの?」

 

 有希は食器を並べながら口を開く。今日は珍しく二人とも早く帰れたので、自炊して夕飯の準備をしていた。

 

「性格的な指定はない。明るい子でもクールな子でもなんでもオッケーだ。ただ、やるからには本気でアイドル業に取り組んでいける人がいい」

 

「それなら養成所の子でいいんじゃない?あそこの子らわりと本気だよ?」

 

「なんかしっくりこないんだよな……」

 

 養成所での練習風景。そして実際に声もかけてみて確かに彼女たちなら全力でアイドルに向き合ってくれると感じられた。

 

 ただ、何かが違う。あと一歩何かが足りないのだ。それが何なのかが自分でもわからない。

 

「何それ」

 

「俺だって思ってるよ」

 

「めんどくさいね」

 

 そんな言い方はないだろう。……まぁ自分でも我儘を通しすぎている感はある。養成所の子たちも本気でアイドルを目指しているのだし、何かが違くても、彼女たちを輝かせる方向性で考えていく方がいいかもしれない。

 

 料理も運び終わり、俺たちは二人で食卓に着くと夕飯を口にし始める。

 

 今日の夕飯のメインは生姜焼きだ。久々に作ったがわりとうまくできていると思う。有希はいつもと変わらず味が濃いなんて文句を言ってくるけど。

 

「ちなみにさ。私たちを担当する分にはしっくりきているの?」

 

「YUKINOを担当しているときか?……考えたことなかったが、違和感を感じたことは一度もないな」

 

「じゃあそこに何かあるんじゃない?」

 

「……確かに」

 

 有希の発言は一理ある。YUKINOを担当しているときに俺が何を考えているか。そしてなぜ他の子を担当しようとすると違和感を感じるのか。その関係性を明らかにできれば、足りない何かを見つけ出すことができるかもしれない。

 

「ありがとう。もう一度考え直してみる」

 

「そ。お詫びはケーキね」

 

「……今度な」

 

 相変わらず態度が大きい有希に苦笑いしつつも、俺は言葉を返す。

 

 これがきっかけでうまく見つかればいいが……。

 

 

 

 

 

 

 

「わっかんねー」

 

 翌日。あれから有希から言われたYUKINOを担当しているときとそうでないときの違いについて考えてみたが、これといって思い浮かぶものはなかった。

 

 ……いやあるにはあるのだ。YUKINOは二人とも俺と仲がよく気兼ねなく話せる仲だとか、年齢的にわりと成熟していて価値観や考えが共有しやすかったり、信頼関係があるかなど、考えれば考えるだけ色々と出てくる。

 

 だがそれが足りないものに該当しているのか言われると首をかしげなくてはならない。ぶっちゃけ仲についてもある程度の信頼関係があれば問題ないとも思っているし、考えや価値観が違うのなんて当たり前だし、信頼関係の構築は時間と共にゆっくり作っていくものだ。

 

 だとすると、人ではなく、アイドルとして踏み込んだ話なのかもしれない。例えばアイドルとして世に羽ばたきたい理由とか?……YUKINOの二人は楽しむためにアイドルになって、アイドルを続けている。人によってアイドルになる理由も続ける理由も違うし、そこに関しては別になんでもいいとは思う。プライベートな話だし。

 

 じゃあアイドルになってどうしたいか?YUKINOはライブがしたい。ライブバトルで楽しみたいって考えが根底にある。……これもさっきと同じだな。どうしたいかの要望は聞きたいが、その内容によって俺が担当したいかの想いが変わることはないとは思う。よっぽど極端な意見だと違うかもしれないが。

 

 それともどんなアイドルになりたいか?……これは有希と話したことが全てだな。別に性格上どんなアイドルだろうと、問題ない。どこぞのやつ見たく周りに迷惑をかけることなら止めるかもしれないが。

 

 ……ダメだ。やっぱりわからない。無意識的にある程度の良識を求めてはいるみたいだったが、それくらいしか分析できなかった。そういや面接のときも自己分析苦手だったなぁ……。

 

 有希と季乃に手伝ってもらいながら面接対策したときのことを思い出す。二人が居てくれたおかげで俺はバンプロで働くことができていると言っても過言じゃない。そう思うとあいつらに感謝しないとだよな。

 

「……営業の帰りにもう一度考えるか」

 

 思考が逸れてきた。今考えても考え付かないと判断した俺は、手早く荷物をまとめ、事務所を出る。

 

 わずかに吹いた風は、少しだけ肌寒かった。

 

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