星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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風の導き

 

 職場からの帰り道。すっかり暮れた夕暮れの空を見つめていると、その空に一羽の鳥が映り込んだ。

 

 遠目から見てもわかる美しい翼をもったその鳥は、空を自由に飛び回る。夕焼けに照らされたその姿はとても綺麗で、思わず持っていたスマホで写真を撮ってしまうほどだった。

 

「空を羽ばたく鳥……か」

 

 空をアイドル業界と置き、そこを飛び交い彩る鳥の姿をアイドルと置くと、ちょっとだけ感動的なものに思えてくる。それを見ている俺は、輝くアイドルを見ている一ファンか。

 

 ……感傷的になりすぎだな。

 

 ポエマーは社長だけで十分だと思いながら、俺は駅までの帰り道を見つめる。

 

 ここから駅までの道のりは並木街道になっており、少し前まで桜が満開になっていた場所だ。今ではすっかり緑が生い茂っており、これはこれで風情を感じられるが、意外にも人は少ない。

 

 急いで帰る必要もないので、その道のベンチでのんびりしていると、不意に風が吹き荒れた。

 

「あっ……」

 

 その風に、写真を撮るために置いていた鞄が倒れる。そしてその反動で中に入れていた資料が一つ外へと飛び出した。

 

 慌ててそれを掴もうとしたが、風によって流されたその紙はするりと俺の手を躱し、風下へと飛んでいく。

 

 どこまでも飛ぶかに思われたそれは、やがて風が吹き止むと同時、ぽとりと地面へと落ちる。

 

 そのことに安堵し、それを取りに向かおうとして、気づいた。

 

 紙の前に一人の少女がいた。

 

 その少女は後姿のまま、目の前に飛んできた紙を拾い上げ、そしてこちらを振り向いた。

 

「っ……!」

 

 体に電流が走ったような衝撃だった。言葉で表現できない想いと共に、いくつもの重なった感情が俺の中に吹き溢れた。

 

「――あなたの落とし物でしょうか?」

 

 柔らかな唇がわずかに開き、そこから凛とした美しい声が響く。俺は自分に声をかけられたと気づくまで、その姿を呆然と眺めていた。

 

「……あ、あぁ。すみません、ありがとうございます」

 

 挙動不審になりながらもなんとか返事を返すと、彼女の元まで近づき渡されたそれを受け取る。

 

 近くまで寄っていくと、彼女のスタイルの良さが目に見えてわかった。

 

 有希ほどではないが、引き締まった身体に出るとこは出ている肉体。グレーのニットに、黄色の模様があしらわれた黒いコートも彼女によく似合っていると思える。

 

「いえ……」

 

 端正な顔立ちからきりりと吊り上がったつり目が、不審げに俺を見つめる。

 

「……あまりそう人をじろじろと見るものではないかと」

 

「あ、すみません。職業柄どうしても気になってしまって」

 

 さすがに初対面の相手に失礼だったと慌てて頭を下げる。

 

「頭を上げてください。……職業柄と言いますと、アイドルの関係者…マネージャーなどでしょうか?」

 

「え、えぇ。アイドルのマネージャーです。でもどうしてそれを?」

 

「その紙に事細かに書かれていましたので」

 

 ……飛んでいった一枚の紙は確かに新人アイドルを輝かせるためにはどうすればいいかを自分なりにプランニングした資料だ。だけど、人に見せるために作っていないこれはほぼ文のみで仕上がっている。まさかこの量をあの一瞬で読んだというのだろうか。

 

「勝手をしてしまい申し訳ございません」

 

 そう言ってその子はわずかに頭を下げる。ライトグレーの髪が垂れないようにそれでいて謝罪が伝わる頭の下げ方。この子、言葉遣いもそうだが、かなり教養が高い。その姿勢に品が感じられる。

 

「いえ、見られても問題ないものなので大丈夫です」

 

「そのお言葉に感謝いたします」

 

 やや人を見下し、プライドを感じさせる言い方はおそらく育ちによるもの。その容姿と所作も合わさって、間違いなくどこかの令嬢だ。

 

 でも、なぜだろうか。不思議と俺にはこの子が苦手だとは感じなかった。むしろ、好意的に感じていたし、それとは別に何か別の感情が生まれてきていた。

 

 だからこそだろう。気が付くと、俺は思わずそんな言葉を呟いていた。

 

「――アイドルに興味はありませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで玉砕したというわけですね!見事に振られましたね!」

 

「うるさい」

 

 彼女は俺の言葉を受けて驚いたような表情を浮かべた後、一瞬の逡巡ののち、丁重にお断りされた。

 

 ……いやまぁ俺もスカウトの方法間違えたとは思う。出会い方もそんな良くなかったし、その後も俺の言動もよくない。スカウト文句もよくない。いいところなしだ。これだと失敗してもおかしくはなかった。

 

 だけど可能性は感じた。

 

 彼女は俺の言葉を理解した後、わずかにだが考えているような仕草を浮かべたのだ。あれが社交辞令だとすごく傷つくが、俺の目ではおそらくそうでないと思っている。

 

「まだ諦めてはない。なんとか捕まえてみせる」

 

 名前も知らないし、それどころかあの場所にもう一度行けば会えるとも限らない。それでも、あの子に俺は何かを感じた。この感覚を俺は信用したい。

 

 季乃はそんな俺に向けて、つまらなさそうな視線を向けていた。

 

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