星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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YU☆KI★NOと評判

 

 俺が担当しているアイドルグループであるYU☆KI★NOは世間的にも人気のあるグループだ。ただその評判は真向に賛否が分かれている。

 

 Venusプログラムを利用してNextVenusグランプリから正式に活動を始めた彼女らは、NextVenusグランプリでの活躍もあって順調に知名度を上げてきていたし、人気も高めていた。だけどI-UNITYで行った他のアイドルの模倣というパフォーマンス。そして季乃がその腹黒さを隠さないようになってから評判は一気に二分した。

 

 季乃の腹黒さはそれほど問題じゃない。元々小悪魔的要素は見せていたし、それが強化されただけだ。それを不気味に思う人もいるようだが、ここまでくると後は個人の好みの話になってくる。新たなファン層も得られたし、季乃自身、悪戯気に誰かを破滅させるような子じゃない。あからさまに敵対されない限り問題はないと思っている。

 

 ただ一番まずかったのが、模倣を取り入れたライブだ。模倣といってもあくまでそれはライブパフォーマンスの一環での模倣なのだが、見る人によっては模倣先の相手への侮辱と捉えられたらしい。

 

 無論、彼女たちにそんな意図はない。模倣先である長瀬麻奈も、ⅢXも、STROBOLIGHTSも、それぞれに敬意を持っているとは思う。

 

 つまり一部の人間が暴走しているだけなのだが、これをメディアが取り上げ、ネットニュースにまで載ってしまったことで事態はすぐに拡散した。

 

 とはいえ今回の件はYUKINOには全く非があるとは思えない。反応をしない、ということで意思を表明した形だが、これが原因で暴走していた人間に更に火がついてしまったらしい。

 

 曰く麻奈ちゃんを馬鹿にするなとのことだ。てめぇが一番侮辱してんだよ、蹴り飛ばすぞ。

 

 ……ともかく、今のYUKINOの評判はこんな感じだ。だからこそ、ライブという人が集まる場所では警戒する必要がある。何かあってからじゃ遅いのだ。

 

「有希、季乃。再三にはなるが、もしライブ中にトラブルが起きたら…」

 

「ライブを中断して舞台裏に逃げろ。もう何度も聞いたよそれ」

 

「過保護ですねぇ。大丈夫ですよ。私たち強いので!」

 

 ……本人たちにあまり危機感がないのが気になる。この世にはとんでもないことをやるやつはわりといるんだよ。そのことを理解してほしい。

 

「……俺も舞台袖からファンの様子は見ておくけど、駆けつけるまでにはラグがあるし、何より物を投げ込まれたりとかそういったところの対処は…」

 

「季乃蹴っていいよそいつ」

 

「承知いたしました!てりゃ!」

 

「いったっ!!!!」

 

 喋っている途中で油断していた俺の脛に、季乃の蹴り上げが直撃する。何してきやがんだこいつ。

 

 思わず屈んで見上げる形になってしまった俺の視界に、有希の瞳が映る。見下ろされる形で見えたそれはわずかに怒りを滲ませていた。

 

「ライブ中に気を付けてくれるのはいいけどさ。私たちのライブを見ようともしないのはどういうつもり?」

 

「あ、いやそれは……」

 

「そのために警備雇っているんでしょ?ならお兄ちゃんはライブ中はライブのことだけ考えて。それ以外に目をくれないで」

 

「……悪い」

 

「ほんとにいっつもいっつも人を怒らせて来るよね」

 

「ごめん」

 

 最近はこうやって有希に怒られる頻度が増えてきている気がする。俺が事故に会って以来、有希は今まで以上に素直に感情をぶつけてくるようになった。

 

「まぁまぁ有希ちゃんもそれくらいに。慎二さんは反省してください。ちゃんと自身の行いをもう一度振り返って何が悪かったか考えるんですよ?」

 

「わかった。季乃も悪かった。ありがとう」

 

「どういたしまして!お詫びは寿司です!」

 

「……考えとく」

 

 日に日にお詫びの数が増えていく気がする。……いや全体的に俺が悪いのが原因なんだけど。

 

 ライブまでもう少し時間がある。二人に余計な緊張が生まれないように、声を掛けようとして気づいた。

 

「有希、誰かに連絡しているのか?」

 

「見ればわかるでしょ」

 

「もしかして男……!スキャンダルです!終わりですね!」

 

「なんで嬉しそうなんだよお前」

 

 久しぶりに有希を揶揄える要素を見つけたのかどこか嬉しそうにスマホをのぞき込む季乃を、有希は鬱陶し気に払いのけながら口を開く。

 

「女友達。今日ライブ来るって言ってたから」

 

「私というものがいながら浮気ですか!わーん」

 

「季乃、友達いないもんね」

 

「有希ちゃん私は怒ってしまいました」

 

「ごめんね。私は季乃のこと親友だと思ってるよ」

 

「有希ちゃん……!」

 

「ちょろ」

 

「有希ちゃん!」

 

「なんだこの三文芝居」

 

 イチャイチャしている二人の様子に緊張の色は見られない。これなら俺が何かしなくても問題はなさそうだな。

 

「っと、そろそろ時間みたいだ。有希、季乃。準備は良いか?」

 

「うん、大丈夫」

 

「私も準備万端です!」

 

「そうか。じゃあ……楽しんで来いよ」

 

「うん」

 

「はい!」

 

 返事と共に勢いよくステージへと二人は向かっていく。

 

 

 

 

 心配していたことは起こらず、無事にライブは完遂した。

 

 YU☆KI★NOは今日も絶好調だった。

 

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