星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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IMF対策会議

 

「久しぶり」

 

「……お久しぶりです。と言っても一昨日お会いしたばかりですが」

 

「俺にとっては一日離れていれば久しぶりなんだよ」

 

「そうですか」

 

 あれから俺は日が暮れる前の時間帯に、あの並木街道に行き、度々鏡花に会っていた。

 

 会う頻度が増えたからか、俺も気楽に話すことができるようになり、いつの間にかかしこまった口調もなくなっていた。

 

 鏡花は変わらずの丁寧な口調だが、聞いたところこれは癖みたいなもので、誰に対してもこんな感じとのこと。思い返せば季乃も似たようなものだし、気にしないことにする。

 

「そういやライブに行ったんだっけ?どうだった?」

 

「興味深いものではありました。どうしたらあそこまで大衆を熱狂させられるのかそのメカニズムが気になるところです」

 

「……」

 

 わかってはいたことだが、彼女の感性は世間とは少しずれている。そして自らの感情の機微が少ないようだ。

 

「ただ……いえ、なんでもありません」

 

「そっか」

 

 だけどそれは全く感情がないというわけではない。ただ彼女の場合は表に出ずらいだけだ。もしかすると彼女自身が感情の出し方を理解していないのかもしれない。

 

「……そろそろ時間ですので失礼します」

 

「あぁ。また明日な」

 

「はい。また後日お会いしましょう」

 

 彼女がここを通るのは習い事に行くためだという。他の用がなければ月水木土にこの道を通る。ちなみに空いた曜日である火金日は別の習い事に通っているそうだ。体力お化けだ。

 

 明日会えることを楽しみにしながら、俺は事務所へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「IMFか」

 

 事務所へと戻った俺は直前まで取り組んでいた仕事に手を付ける。

 

 作業内容としてはIMF…アイドルミュージックフェスへの参加に伴う裏方の取り決めやその資料纏め、アイドルたちの当日の動きなど多彩にわたる。昼過ぎにスタッフさんとのやり取りがあったばかりで、仕事が多い。

 

 時間も時間だし資料作りを優先しつつ、俺は今回のフェスを改めて振り返ってみる。

 

 IMFは例年この季節に行われている超大型野外フェスだ。毎年名だたるアイドルたちが参加していることで有名で、世間的にも大きく知れ渡っている。

 

 会場もかなり立派で、小さなステージでも数千人、メインステージともなれば数万人をも収容できる立派なステージでライブを行うことができる。アイドルファンにとってはまたとない最高のフェスだろう。

 

 ただ、現地でライブを行うアイドルにとっては話が変わってくる。

 

 同じフェス内で多数ステージが存在し、同じ時間帯にライブも行うということは、わかりやすいほどアイドルとしての実力差が出る。既存のファンの数ももちろんだが、一度にライブが複数行われているのだ。観客はより面白い方に向かっていく。

 

 どうやって新規のファンを集め、そして魅了するか。このフェスの要点はそこになる。

 

 参加者一覧の欄に記載されているYU☆KI★NOの名前を見ながら俺は少しだけ考え、止めた。こういったのはあいつらと話し合った方がいい。

 

 話し合いの時間を持つためにも、俺はいつも以上に気合を入れて仕事に取り組んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで第一回IMF対策会議ー。ぱちぱち」

 

「まーたこいつ変な資料持ってきてますよ。今度は何の表紙なんですか?」

 

「何これ?二足歩行の猫?変なの」

 

「ぐっにゃいさんを馬鹿にするな」

 

 ぐっにゃいさんを馬鹿にするやつは沙季さんに代わって俺が許さん。……と言っても俺も調べて初めてこいつの名前を知ったんだけど。

 

「まぁそれはいいとして、YUKINOがIMFに参加するになったからその対策がしたい。ということで俺も色々と纏めてきたから意見をくれ」

 

「はい先生!」

 

「季乃君どうぞ」

 

「先生がいつも夕方ごろに出会っている子の名前を教えてください!」

 

「個人情報なので却下します」

 

「はい先生!」

 

「どうぞ」

 

「最初は敬語だったのにいつの間にか親密に話していますが、その件についてはどう思われますでしょうか!」

 

「信頼が深まったと感じています」

 

「はい先生!」

 

「……どうぞ」

 

「浮気ですか!」

 

「違います。というか彼女さえいません」

 

「はい先生!」

 

「もうお前退学や」

 

 季乃からの質問攻めが終わりそうになかったため、無理やり終わらせる。というかこいつどっかでつけてきてやがったな?どこで聞いていたんだが。

 

「実際どんな子なの?スカウトに苦戦していることくらいしか知らないんだけど」

 

「クールでカリスマのある令嬢。だけど、自分のことには無頓着なのが玉に瑕かもな」

 

「へぇー。ちなみになんでその子をスカウトしてるの?」

 

 なんでってそりゃ……。

 

「顔がよかったから?」

 

「うわ」

 

「最低ですこいつ」

 

「冗談だから本気にしないでくれ」

 

 顔がいいのは本当だが、それが理由ではない。冗談を取り消そうとしたが、二人は疑惑の眼差しで俺を見ていた。

 

「……やっぱり男ってこういうもんなんですねぇ」

 

「そういやこいつの初恋も顔がいいのが理由だったよ」

 

「最低ですね」

 

「違うわ」

 

 俺の初恋の相手は、見ているだけで心が躍るようなそんな気分にさせてくれる子で…ってそんなことはどうでもいい。

 

「俺があの子をスカウトしているのはあの子に何かを感じたから。もういいだろこの話は」

 

「随分と抽象的ですね。まぁ変なことをしようとしていたら私が叩きのめしますからね!相手を!」

 

「止めろよ。お前が消されるから」

 

 随分と話が逸れた。俺は鏡花の話じゃなくて、IMFの話をしたかったんだ。

 

「IMFの話に戻すぞ。IMFは超大型の野外アイドルフェスで……」

 

「概要は知ってるから要点だけ話して」

 

「……同時刻にライブをすることになるからどうやってお客さんを呼び込み、魅了させるか話し合いたい」

 

「ふむふむ。StarImitationのおかげで今のYUKINOは世間的に注目されている状態。どんなライブだろうと少なからず人は集まると思われる。だけど注目されている状況は、ここで更に人気を上げるチャンスでもある、と」

 

「勝手に台本読むな」

 

 俺が作ってきたホッチキスで止めただけの紙束を、季乃はペラペラとめくっていく。

 

「まず前提としてYUKINOの二人の成功とは……慎二さんこれ読みづらいです!どっかの論文ですか!」

 

「だから俺が台本用に作ってきた資料なんだって。後ろのほうに内容まとめてるから」

 

「ライブのセトリはどうするか」

 

 季乃の後ろから有希が資料を取り上げ、ページを捲る。季乃はそれを取り返そうと手を伸ばしたが有希に払われた。

 

「なんか色々と曲順の案が書いてるね……めんど」

 

「曲順ってわりと大切なんやぞ」

 

 簡単な話、盛り上がろうとフェスに来てくれた相手に対していきなりしんみりした曲を流して盛り上がるかって話だ。曲同士の相性もあるし、結構このあたりは気を配る必要がある。

 

「赤で何か書いてますね。StarImitationは歌うべきか。みみっちいですね。歌いましょうよ」

 

「……二人がそれでいいというなら俺も強くは止めないけど」

 

 StarImitationはYUKINOがI-UNITYのときに歌った模倣を使った曲だ。結果として賛否は分かれたもののライブの完成度としてはこれ以上ないくらい高い。そして間違いなく、観客も沸かせられるだろう。しかし……。

 

 有希はいつの間にか腕に絡みついてきた季乃を鬱陶し気に押しのけながら口を開く。

 

「模倣を使った曲だってことはバレている。だから一部のファンが私たちに危害を加えてくるかもしれないってことでしょ?」

 

「そうだ」

 

 ただでさえ世間を沸かせたのがこの曲だ。これ以上火種を作らないようにするならばこの曲は封印したほうがいい。

 

 でも。

 

「歌おう」

 

「……一応、理由は聞いてもいいか?」

 

「この曲でライブしたときが一番楽しかったから。というか私たちに非があるわけでもないし」

 

「私も同意です!麻奈ちゃんの声でもう一度歌いたいです!」

 

「じゃあ決まりだな」

 

 二人と話す前からこうなることは予見できていた。この曲でのライブの問題は俺がどうにかしておこう。

 

 

 

「この曲が盛り上がることは目に見えているから、順番はこの辺で……」

 

 

「この長さなら季乃のソロ曲も入れていいんじゃない?」

 

 

「他のステージからお客さんを奪取するためにもここはこうしましょう!」

 

 

 その後も話合いは順調に進み、気がつけば遅い時間になってきた。さすがにもう帰らないとまずいが、最後に一つだけ確認することがあった。

 

「有希、季乃。今回はライブバトルじゃなくて、お客さんと向き合うことになるライブだ。楽しんでやれそうか?」

 

 二人ともライブが好きなのは知っている。でもライブバトルになるとそれ以上に熱が入っていることは端から見ても明らかだ。

 

 だから普通のライブだとあまり本気になれないんじゃないか。そう思っての質問だった。

 

「はぁ。相変わらず慎二さんはわかってないですねぇ。そんなんだから有希ちゃんに怒られるんですよ」

 

 やれやれといった様子で季乃はため息をつく。……別に怒られるような質問をしたつもりはないが。

 

「そんなの当たり前じゃん」

 

 有希は真っ直ぐに俺を見つめて口を開いた。

 

「確かに私は自分が楽しむためにアイドルをやっている。サボったこともあったよ?」

 

 でも、と有希は言葉を続けた。

 

「今の私は本気だから。プロのアイドルとしてライブで手を抜くわけにはいかないし、何より来てくれたお客さんに楽しんでもらいたい」

 

「……そっか」

 

 サボっていたのは初耳だったが、めんどくさがり屋の有希の口から手を抜くわけにはいかない、楽しんでもらいたいとの発言は心に来るものがあった。……大きくなったな有希。

 

「私は今まで通り楽しくやるだけですよ!今回のフェスは見方を変えればアイドルの人気合戦みたいなものですしね!」

 

「そうか」

 

「私のときの返事だけそうかの重みが違うんですけど!」

 

「そうか」

 

「こいつ腹立ちます!」

 

 もう一度そうかを使うと蹴られそうなので止めておく。俺も今までの季乃とのやり取りから学んだのだ。俺も成長したということだろう。

 

 まぁとりあえずだ。色々と決めるべきことは決まったし、後は実践あるのみだ。ということで。

 

「第一回IMF対策会議終了!解散!」

 

「家まで歩くの怠いからタクシー呼んでくれない?」

 

「あ、私も同席しまーす」

 

「締りが悪いなーお前ら」

 

 まぁそれも含めてYU☆KI★NOらしいんだけど。

 

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