星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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IMF楽屋での遭遇

 

 アイドルミュージックフェス。IMFは何事もなく無事に開幕した。

 

 開幕からすでに数時間経過したが未だ熱狂は止まず、各地で歓声が飛び続けている。

 

 その中でも取り分け歓声が大きいのはメイン会場でのライブだろう。それもそのはず、今のアイドル業界におけるトップメンバーがあそこでライブしている。

 

「私たちの会場はあっち?」

 

「んー地図見た感じだとそうみたいですね!」

 

 だが、惜しいことにYUKINOのライブ会場はそのメインステージではない。それよりも一つ格が落ちるセカンドステージだ。

 

 ……俺もできる限り営業はかけ、YUKINOを売り込んでみたが、まだ足りなかったらしい。俺の力不足だ。

 

「なーにしてんですか!おいていきますよ!」

 

 すっかり先に行っていた季乃に呼ばれ、俺も二人の元に駆け寄る。

 

 今はそんなこと考えている場合じゃないな。ライブまで全力でサポートしよう。

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

 

「うん?おー月スト発見です!」

 

 俺たちがステージ裏の楽屋に向かっていると、その途中、月のテンペストの五人と出会った。

 

 月ストの面々はYUKINOの一つ前の時間帯でライブを行うことになっている。時間を確認するとそろそろライブが始まる時間だったし、ステージへ向かう途中なのだろう。

 

「お久しぶりです!季乃です!」

 

「季乃ちゃん久しぶり!あれ?でも最近会ったばかりのような……」

 

「ようなではなく会ったばかりですのよ。ほらこの前も事務所で鬼ごっこしてたではありませんか」

 

「あー!思い出した!すずにゃんがマネージャーの机にお茶こぼしたときだね!」

 

「な、なんで言うんですの!」

 

 茶髪のポニーテールで見るからに天真爛漫といった様子の芽衣ちゃんに、ホワイトブロンドの髪を長く伸ばし、揶揄われて狼狽しているのがすずちゃん。

 

「芽衣ちゃん、すずちゃん、そして季乃さんも。事務所で走り回ってはいけませんよ。大事な資料もあるのですから」

 

「ごめんなさーい」

 

「あれは芽衣が……申し訳ないとは思ってますわ」

 

「反省してます!」

 

 その二人とプラスアルファを叱っているのが沙季さんだ。ベージュ髪の縦ロールにし、彼女はこなれた様子で三人を叱っていた。一人全く反省していないやつがいるので後でしっかり怒ろうと思う。

 

「YUKINOの二人は確か私たちの後の出番でしたっけ?」

 

 赤みがかったボブヘアの少女。渚ちゃんが俺たちの様子を見て口を開く。

 

「うん。そうだね」

 

「じゃあ益々気合入れてやらないとだね!ね、琴乃ちゃん!」

 

「うん……私たちは負けられないから」

 

 そして最後の一人。青みがかった黒髪の少女は、決意を感じさせるその目で真っすぐに俺たちを見つめた。

 

 背負いすぎている。

 

 そんな琴乃ちゃんの様子を見て一目でそう感じた。意思もあり、想いもあるが、精神的ゆとりがない。どこか張り詰めた糸のような雰囲気が彼女から漂っている。

 

「全く関係ない話なんですけど、琴乃ちゃんって犬耳つけたら似合いそうですよね!」

 

「え……?」

 

「犬耳の、琴乃ちゃん……!」

 

「たれ耳のやつとか可愛いですよね!琴乃、お手」

 

「……いや、やりませんけど」

 

「私じゃ親密度が足りてないみたいです。慎二さん頼みました!」

 

「季乃、ハウス」

 

「帰ります!」

 

「悪かったから帰らないでくれ」

 

 途端踵を返し、その場を後にしようとした季乃を引きとどめる。……大方、季乃も琴乃ちゃんの様子を見て場を茶化したのだろう。本当に目ざといし、頼りになる。調子に乗りすぎるのが玉に瑕だけど。

 

「引き留めて悪かった。五人ともライブ頑張ってな。応援してる」

 

「任せてー!」

「当たり前ですわ!」

「全力を尽くします」

「ありがとうございます!」

「期待に沿えるよう頑張ってきます」

 

 俺の言葉に彼女たちはそれぞれの言葉で答えると、ステージへと向かっていった。琴乃ちゃんは心配だけど、あの五人ならば大丈夫だろう。マネージャーである牧野もついているしな。

 

「俺たちもライブの最終確認を…ってあれ、有希は?」

 

「もう先に行きましたよ」

 

「ほんとマイペースなやつだなあいつ」

 

「そこが可愛いんですよ」

 

「そうか?」

 

 

 

 

 

 

 楽屋までやってくると、そこには案の定というべきか先についていた有希の姿があった。そしてもう一人。

 

「franさん?」

 

 ⅢXのfran。ウェーブのかかった美しい金髪を靡かせた彼女は、俺たちを一目見て口を開いた。

 

「悪いわね。お邪魔してるわ」

 

「お邪魔なのでお帰り下さーい」

 

「……腹立つわねこの子」

 

「虫に刺されたと思ってください。それよりもどうしてここに?」

 

 無視だけに虫とはやりますね!なんて言っている季乃をスルーしつつ俺はfranさんに問いかける。

 

「貸したものがあったから返しにもらいにきただけ」

 

「先週くらいにモデルの仕事があったでしょ?それでfranさんに資料借りてたの」

 

 ……確かに丁度先週、雑誌の撮影があった。ファッションモデルとは違い、女性が惚れる女性アイドル特集といったカッコよさを前面に出す撮影だったが、見事に有希はその仕事をやり遂げてくれた。なるほど、その活躍の裏にはfranさんからのアドバイスがあったわけか。

 

「ありがとうございます。有希が世話になりました」

 

「あーそういうのいいんで。こっちもちゃんと対価もらっていますので」

 

「ま、まさかお金……!裏営業……!!」

 

「違うわよ!ファッション関係で色々と手伝いをしてもらって……ってこの話はいいでしょ」

 

 ファッション関係の手伝い。それが何なのかすごく気になるが、話してくれないなら気にしても仕方がない。

 

「というか、有希。借りたものがあるなら自分から返しに行った方がいいぞ」

 

「めんどい。というか、若干一名嚙みついてくるのがいるから行きたくない」

 

「どこぞの小島ちゃんは責任をもって私が成敗してきます!」

 

「こっちも似たようなやついるじゃない」

 

「こっちのやつはすでに手名付けているからいいの」

 

「きしゃー!」

 

「季乃、ハウス」

 

「帰ります!」

 

「待った。有希も帰らせないでくれ」

 

 再び帰ろうとした季乃を押し留める。というか、有希がfranさんと交流があるのが意外と驚きだ。前から思ってたけど有希は人間関係うまいよな。

 

「あ、そういえば、franさん。もう一つのお願いの件。どうだった?」

 

「別に事務所としては問題ないそうよ。私たちも、ね」

 

「じゃあ後はこっちで話つけないと、だね。ということでお兄ちゃん、仕事持ってきたから受けてくれない?」

 

「……内容による」

 

「スリクスとのライブバトルの仕事」

 

 ……なるほど、ね。I-UNITYでYUKINOがスリクスに負けたのは俺も知っているし、それを悔しがっていることも理解できていた。だから後々再戦の機会を、と考えてはいたが、それより先に動いていたか。

 

「スケジュールは要相談にはなるが、それ自体は問題ない。むしろ、メディアにも公開して大々的にやろう」

 

「リベンジマッチってやつですね!その話題にあやかって更に人気を上げよう、という魂胆ですか?」

 

「そういうことだ。……スリクスの皆さん的にも悪くはない話だとは思いますがどうでしょう?」

 

「悪くはない話だとは思うわ。……だけどメディアに公開するかどうかは、一度持ち帰って事務所に話を通してもいいかしら?」

 

「もちろんです。後々、正式にアポ取るのでそこで話し合いましょう」

 

 突発的な会話で口約束はしない。こういったところプロだな、なんて思った。是非とも芸能界のノウハウを教えてほしいものではある。

 

「それじゃ私は失礼するわ」

 

「じゃあね」

 

「グッバイです!」

 

「ありがとうございました」

 

 franさんは丁寧に扉を開けて外へ出ていく。本当にカッコいい人だよな。あの人をアイドル業界に連れてきた人に感謝したいわ。

 

「……私が言うのもなんだけどさ。本当にライブバトル受けてよかった?」

 

「どういうことだ?」

 

「今のスリクスって世間的にはよくないでしょ」

 

 確かに今のスリクスは彼女らのマネージャーだった姫野の逮捕により、世間からは不正に携わっていたんじゃないかと疑いを掛けられている状況だ。元々の点取り屋としての振る舞いもあって、今までの不満が爆発したのだろう。

 

「問題がないわけではないんだが、少なくともYUKINOにはライブバトルを仕掛ける理由があるからな。そこも含めてしっかりメディアに伝えられれば問題はないと思っている」

 

「I-UNITY敗戦のリベンジってやつですよ!」

 

「……あぁなるほど」

 

「少なくともお互いに不正がどうこうという話はするつもりはなく、単にライブバトルでついた因縁を果たすための再戦だ。……そうだな。その辺りもしっかりまとめてメディアに流すか」

 

「相変わらずお人よしですねぇ。また車に轢かれないでくださいよ!」

 

「大丈夫だ。最近は自動車学校に通ったからか、更に注意深くなったからな」

 

「そういってやらかすのがこいつだから」

 

「……もうさすがに大丈夫だ。本当に、まじで」

 

「どうだか」

 

 有希は俺を一目すると、スマホに目線を移した。

 

 ライブまではまだ時間がある。最後の打ち合わせをしておこう。

 

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