星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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こと'sレッスン

 

 少しして。諸々の手続きや挨拶。スケジュール管理やプランニング等、色々な業務を終え、俺はようやく鏡花のレッスンに移ることができた。

 

 とはいえ、鏡花はアイドルのアの字も知らない素人。俺もレッスンのレの字も知らない素人であるため、バンプロのコーチを招き、レッスンを行っていた。

 

「まずはダンスの練習からです。課題曲がありますので、まずはこれを踊れるようになりましょう」

 

「はい、よろしくお願いいたします」

 

「じゃあまず――」

 

 

 

 

「それでは今度は――」

 

 

 

 

「ここの足の動きは――」

 

 

 

 

「慎二さん、慎二さん」

 

「ん?」

 

 鏡花のレッスン風景を眺めていると、隣から声がかかる。横を向くと、丁度時間が空いていたとの事でやってきていた季乃と目が合う。

 

「あの子、どこかで踊りを学んでいたんですか?」

 

「いや、見たことはあるけど、実際に踊るのは初めてだと聞くな」

 

「なるほどです」

 

 

 

 

「良い感じです。それじゃあ次は――」

 

 

 

 

「今のとっても良かったです!これならもうちょっと教えても大丈夫そうかな」

 

 

 

 

「そこは……そうです。よく修正できましたね」

 

 

 

 

 

「慎二さん、慎二さん」

 

「どうした?」

 

「あの子、本当に今日が初めてなんですか?」

 

「そうだと聞いたが……何か気になることがあったか?」

 

「わからないんですか?あの子、学びの速度が早すぎます」

 

 確かに先ほどからレッスンは滞ることなく、するすると次へと進んでいるように思える。時々複雑な動きに引っかかっている箇所はあるが、それもすぐに修正できている。

 

 物覚えも人一倍早かったし、何をやらせてもうまくできた。鏡花の母親から言われた台詞が頭をよぎる。なるほど、こういうことか。

 

「……私もなんですが、人には頭で想像する動きと実際の動きとは若干の誤差があります。練習を重ねていけばその誤差はなくなっていくものなのですが、ことことちゃんに関してはその誤差が初めからほとんどありません」

 

「つまり、見たり教えてもらったりして理解したものを、そのまま自分の体に持ってこれているってことか?」

 

「その通りです。……天才型ですね」

 

 鏡花の家族から聞いた話や、鏡花の話を色々と聞くうちになんとなくそれは理解できていたものの、ほぼ面識のない季乃の口からその言葉を言わせるのなら、本物ということだろう。

 

「本当にどこで見つけてきたんですか、あの子」

 

「わからん。……風の導きだな」

 

 ポエマー社長が移りましたか?なんて聞いてくる季乃を注意しつつ、俺は鏡花へと視線を移す。

 

 相変わらず無表情のままだ。コーチも今は踊りを優先させているからか、そこに関して指摘することはない。

 

 踊りに関してはおそらくこのままレッスンを続けていれば問題ないのだろう。ただ、鏡花に関しての問題は自己をどう出していくか。

 

 鏡花のダンスレッスンを見つつ、俺はずっとそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「私からは歌を担当させていただきます。よろしくお願いしますね」

 

「はい、よろしくお願いいたします」

 

 ダンスレッスンを終え、暫しの休憩を挟んだ後、今度は歌の練習が始まった。

 

 こちらも専門のコーチを呼び、課題曲を歌えるようになるのが目的だ。

 

「あ、もうレッスンやってたんだ」

 

 コーチによる説明を俺も聞いていると、横にある扉がゆっくりと開きそこから有希の姿が現れる。

 

 季乃はソロの仕事がありすでにいなくなっていたため、今度は季乃の代わりに有希が俺の隣に着く。

 

 ……なんだかんだ二人とも、鏡花の事は気になっているのだろう。

 

「お疲れ。仕事は大丈夫だったか?」

 

「まぁぼちぼち。それより鏡花はどう?」

 

「ダンスは素人にしては抜群の出来だという評価はもらえた。季乃からも天才だという言葉も貰ったな」

 

「季乃も来てたんだ。歌はこれから?」

 

「そういうことだ」

 

 そんなことを話しているうちに、レッスンルームに鏡花の声が響き始める。ボイストレーニングから始めるみたいだ。相変わらず綺麗な声だ。

 

「楽器みたいだね」

 

「……言えてるな」

 

 それぞれの音程を全く外さずに声を出しているその姿は、確かに楽器のように思える。美しい音で、感情の乗っていない声だからこそ、余計その印象を持つのだろう。

 

「……そういや、有希は鏡花と知り合いだったんだろ?歌とか聞いたことなかったのか?」

 

「ないよ。ってかお互いにそんなタイプじゃないことくらいわかるでしょ」

 

「まぁ確かに」

 

 有希は基本的にダウナー気質だし、鏡花も友達の前だとはしゃぐタイプであれば、周りの人がこんなに苦労していないだろう。愚門だったな。

 

「~~♪」

 

「~~」

 

 コーチの真似をして声を出している鏡花を見つつ、俺は気になっていた事を有希に尋ねる。

 

「有希は鏡花とはどこで知り合ったんだ?」

 

「……やっぱり覚えてないんだ」

 

 はぁと鏡花のレッスン中だから控えめな、それでも明確なため息が有希の口から漏れる。覚えてないという言葉が有希から出るってことは、もしかして俺も鏡花を見たことがあるのか?

 

「小さいころ、お母さんに連れられてパーティー行ったでしょ?そのとき」

 

「……パーティー行ったこと自体は俺も覚えている。有希が変な奴に絡まれていて、何とか引き離した記憶しか覚えてないけど」

 

「その後、私が同じくらいの年齢の子と遊んでなかった?」

 

 あー……言われてみればなんか居たような……。俺は他の大人が有希に話しかけないか見張っていたけど、有希は同じくらいの背の子と話していた気がする。

 

「その子が鏡花。それ以降の付き合いだね」

 

「なるほどな」

 

 不思議な縁もあったものだ。

 

「~~♪~~~~♪」

 

「~~ ~~~~」

 

「それより、鏡花はどう?アイドルとしてやっていけそう?」

 

「まだレッスン初日だ。判断をつけるには早すぎる……が、前途多難そうだな」

 

「まぁこれ聞いているとね」

 

 決して下手ではない。声は綺麗だし、音程もしっかりとしている。だけど、この歌を聞きたいかと言われると今の段階だと首を縦には触れない。

 

 例えるなら、カラオケで高得点は取れるものの特殊加点が一切ないみたいな、平坦な歌だ。

 

「ま、そこを何とかするのがお兄ちゃんの仕事でしょ。何かあれば私も手伝うから、頑張ってね」

 

「今日は珍しく優しいんだな」

 

「鏡花のためだからね」

 

 なるほど。意外と仲がいいのなこの二人。

 

「まぁやるからにはしっかり仕上げてみせるよ」

 

「それなりには期待している」

 

「任せとけ」

 

 鏡花が歌う歌を聞きながら、俺は新たに決意を燃え上がらせる。

 

 古都ことをアイドルとして輝かせて見せる。

 

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