星見プロの不審者   作:ねむれすねむれす

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未だ届かず

 

「ま゛け゛ま゛し゛た゛ぁ゛」

 

 I-UNITYとのときと引けを取らない熱狂に溢れたスリクスとのライブバトル。お互いに全力を尽くしたその一戦の軍配はスリクスに上がった。

 

 またも僅差。僅か、本当にわずかなんだが、あと一歩届かない。どうやらⅢXとYU☆KI★NOの間にはそんな差があるらしい。

 

 その差がなんなのかはまた後日考えることにして、今は無事ステージから降りてきた二人を労ることにする。

 

「お疲れ。季乃、惜しかったな。でもすごいライブだったぞ」

 

「ま゛た゛k゛a゛n゛a゛ち゛ゃ゛ん゛に゛い゛じ゛め゛ら゛れ゛ま゛す゛」

 

「それは……まぁ自業自得だな。どんまい」

 

「担当アイドルを見捨てる裏切り者にはこうです」

 

「ごめんって。蹴らないで」

 

 季乃の太ももを狙ったローキックを足を上げてガードする。お互い怪我するから止めてくれ。

 

「負けたね」

 

「有希もお疲れ。最高のライブだったぞ」

 

「でも最善ではない」

 

「……そうだな」

 

 ライブバトルである以上そこにはどうしても勝ち負けが付いてくる。負けた側であるこちらには思うところも多いのだろう。

 

「有希」

 

「何?」

 

「あんまり一人で思い詰めるなよ。俺も相談に乗るから」

 

「うん、じゃあなんで負けたか考えててくれる?私は今日は疲れたからパス」

 

「あ、私もパスで!」

 

「了解。また後日見返そうか」

 

 

 

 その後、二人の着替えも終え、諸々作業後に会場を後にしようとしていると、その帰り道で見覚えのある人物に出会った。

 

「うげ、サンクスです」

 

「サンクス?」

 

「ⅢとXでサンクスです」

 

「なんか感謝しているみたいだねそれ」

 

「はっ!もう二度と言いません」

 

「……お疲れ様です」

 

 長い黒髪を靡かせた彼女…mihoさんは礼儀正しく頭を下げて挨拶してきた。

 

「お疲れ様です。騒がしくてすみません」

 

「いえ、お構いなく。慣れていますので」

 

 相変わらず気苦労してそうな人だ。……そういや他のメンバーはどこに行ったのだろうか?

 

「franとkanaならもう帰りました。私は少しだけ話をしていましたので」

 

「相変わらずって感じだね。オンオフがしっかりしているというか、効率的というか」

 

「単に仲が良くないだけだと思います!」

 

「おい季乃」

 

「実際その通りですのでお気遣いなく」

 

 mihoさんは口調を変えずにそう云い張ると、そのままこの場を後にしようとして、ふと思い出したかのように口を開いた。

 

「そういえば、ラジオで仰っていた秘策とは何だったのでしょうか?」

 

「聞きたいですか?」

 

「……つかぬことをお聞きしました。では」

 

「待ってくださいよ!わかりましたー話しますよ!」

 

 季乃もこちらの話に乗ってくれない相手だと調子を作りづらいらしい。去って行こうとするmihoさんを引きとどめると、仕方ないですねーと前置きを置いた後、口を開いた。

 

「まず一に、ライブバトルにおける勝ちって何だと思います?」

 

「相手のスコアを上回ることでは?」

 

「その通りです!じゃあそのスコアを得る方法は、mihoさんならある程度理解してますよね?」

 

「……えぇ。それなりには」

 

「じゃあ、スコアの要因における観客点。これを防ぐにはどうすればいいでしょう?」

 

「……極端な例だと、観客がライブ中に無反応ならば明らかにスコアは減ります。まさかそれを?」

 

「いえいえ、そんなことしませんって。私も良識はあるので!……まぁ盤内での戦術ではあるんで禁止とは言われてないんですけどね」

 

 そう言って季乃は俺をちらりと目にした。……確かに盤外戦術は止めろと言ったがこういったことは止めろとは言ってないな。良識があって助かったよ。

 

「でもですね。意図的にそういった環境を作らなくても、そうなりえるケースってあると思いません?」

 

「……あぁなるほど。今のⅢXの状況下がそれに値する、と」

 

「うん?どういうこと?」

 

「スリクスって今、世間的に嫌われているじゃないですか?」

 

 注意しようかと思ったが、季乃の説明を見るにわざとその言葉を使っているように思える。mihoさんもそれを理解して聞いている節もあったので、今回はスルーしよう。

 

「そうだね」

 

「じゃあ、そんななかでライブバトルしたら、どっちが応援されると思いますか?」

 

「あー、なるほど。純粋にこっちのほうが応援されている数は多かったんだ。……なんかそれを聞くと余計傷つくんだけど」

 

「違いますよ有希ちゃん!私もそう考えていたんですけど、観客たち、ライブが始まると手のひら返して応援してました!おかげで作戦が破綻です!どうして!」

 

 ……つまりこういうことか。今のⅢXの嫌われているという状況を加味すると、ライブバトルをした時点で相手側の応援に入る人数が多くなることから、相手方の観客点が上がり、スリクスの観客点が低下することになる。だから、今の状況ならスリクスに挑めば勝つことができる。

 

 でもそれは、観客が予想外にスリクスのライブで盛り上がってくれたから破綻した。……なるほどな、有効な手段だ。全く考えてなかった。

 

「でも、季乃。それってYUKINOにも当てはまらないか?I-UNITY以降なんというか、変な奴に付きまとわれているし」

 

 二人に向かって直接言うのは憚られて思わず表現がおかしくなってしまう。だけど季乃はそれを聞いて、俺の言いたかった言葉は把握できたようだった。

 

「ち、ち、ち、甘いですね。私たちのアンチは模倣元の一部ファンからです。私たちのことなんて知らず、ただ模倣したことだけ知っているからアンチになっているんですよ。厄介ですね」

 

 模倣をしていることだけを知っているか。……麻奈ちゃんの歌声を使ってライブをしている人がいる、確かにこれだけ聞くといいイメージはわかないな。調べろよって話だが。

 

「だけど、スリクスは違います。不正をしている、というのはアイドルファンのみならず、大勢の人を敵に回します。だからあそこまで広まったし、嫌われたんです」

 

「……敵対している総数の違い、ということでしょうか。事実無根ですが」

 

「信じない人はどこまでいっても信じてくれないですからねぇ。しゃばいやつらは皆潰しましょう!どこぞのどりーむきゅんきゅんみたいに!」

 

「季乃ー」

 

「まぁ、そんな感じです!ここまで話したので見返りを要求します!具体的な点数の取り方教えてください!」

 

「……考えておきます」

 

「やったね★」

 

 相変わらずちゃっかりしてんなこいつ。

 

 とりあえず調子に乗ってきた季乃を注意しておき、俺は季乃の言葉を受けたmihoさんの姿を見つめる。

 

 考え込んでいる様子で相変わらず表情は変わらないが、もっと無表情の鏡花を見てきたからか、今のmihoさんの隠している姿というものがなんとなく見えた。

 

「mihoさん、季乃が言ったことは確かにあるかもしれませんが、今日のライブを思い返してみてください」

 

「……どういうことでしょうか?」

 

「あなたたちは逆境の中でライブをし、観客を沸かし、そしてライブバトルに勝ったんです。それはつまり、それだけ多くの人がスリクスを応援していた、ということです」

 

「……」

 

「スリクスはこの程度で終わるグループじゃない。俺だけじゃなく、ファンもそう思ってくれていると思いますよ。だから、負けないでください。一ファンとして応援してます」

 

「……ありがとうございます。心にとどめておきます」

 

 mihoさんは俺を一目見ると、そう言って頭を下げた。

 

「……じゃあ、俺たちはこの辺で失礼します。mihoさんも帰りは気を付けて」

 

「えぇ、では」

 

 俺はそう言って彼女と別れようとして、そういえば言い忘れた言葉があることを思いだした。

 

「あぁ最後にこれだけ。――次はYUKINOが勝ちますんで覚悟しててください」

 

「ふふ、えぇ楽しみにさせていただきます。何度でも叩き潰してあげましょう」

 

 そう言って今度こそmihoさんと別れた。

 

 ⅢXとの因縁は必ずどこかで果たさなければいけない。そのためはどうするべきか。

 

 ……あーやることが多いなぁ。

 

 思いつく事柄の多さに、俺は思わず口元に笑みが浮かぶ。

 

「何笑ってんの」

 

「いや、なんでもない」

 

「あんなことやこんなことを妄想しているんですよ。えっちです」

 

「そうかもな」

 

「えっ?」

 

「うわ……」

 

 有希と季乃。二人がアイドルとして更に成長していくことを考えるのは、楽しみで仕方なかった。

 

 

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