YU☆KI★NOの動画配信から少しして。
俺は慌ただしくなってきた業務を一つ一つ丁寧にこなしながら、合間を見てとある会見を目にしていた。
それは長瀬琴乃脱退と、今後の月のテンペストに関する会見だ。
琴乃ちゃん脱退の件は以前より少しだけ進展があり、事務所を移籍し、どりきゅんの所属している事務所に移動するなんて話も出ている。これはどりきゅんの事務所内に入る琴乃ちゃんの姿をリークされたからであり、まだ正式なものではない。……可能性としてはゼロではない、というのがちょっと精神に来るものがある。
月のテンペストについては丁度星見プロの皆が今話しており、四人で続けていくことに決めたそうだ。
まだ若い彼女たちにこんな苦渋の決断を強いてしまっていることが辛い。何が琴乃ちゃんをここまで追い詰め、月ストをこんな風にしたのだろうか。俺が悔やんでも仕方がないが、俺にできることはあったんじゃないかって考えてしまう。
でも。
『私達のこれからを……どうか見守ってくださいませんか』
すずちゃんの覚悟の決まった立派な言葉を聞いていると、やっぱり俺がいなくても彼女たちは自分たちで立ち上がれるんだって再認識させられる。
「よっしゃ、仕事頑張るか」
いつもより手早くタスクを終わらせると、午後の予定に向けてデスクを後にする。
今日はあの日できなかった、鏡花のプロモーション活動の内容決めだ。
「アイドルとは、強いですね」
鏡花は俺が会議室に入ったときにはすでに座席についており、挨拶の後、そんな事を口にした。
どうした、でも私の方が強いとでも言うつもりか、なんて冗談を思い浮かびながらも、俺はその言葉の真意を聞くことにした。
「どうしてそう思った?」
「先日のYUKINOのお二人の配信、そして先ほどの月のテンペストの記者会見。他にも様々なプラットフォームで、アイドルというものを見てきました。そのどれもが肯定的なものだけではない、というのを理解させられました」
「……そうだな。どんな活動にも批判は付き物だ。特にインターネットだとそういった声が明確に伝わるからな」
「はい。しかし、彼女らはそんな言葉を受けても、前向きな姿勢で常に言葉を紡ぎ続けています。それは偏に心の強さ故です。だからこそ、強いと感じました」
「なるほどな」
……もしかして鏡花は自信を無くしかけているのだろうか?確かにデビューもしてない中、慣れない事をし続けている最中であれば、自信も無くなってくるか。
「……鏡花。心配しなくていい。一歩ずつでも歩んでいけば、いずれ強くなっていける。俺も最大限サポートする」
「ありがとうございます。しかし、その心配はしておりません。風見家として、上に立つものとして、批評の受け取り方はすでに収めております」
……考えすぎだったか。バッドコミュニケーションだな。
「しかし、一つだけ気になることは、私があの記者会見の場に居たとして、月のテンペスト皆様方のように真っすぐな言葉を述べることができるのか、といった件です」
……なるほどな。あの真っすぐな言葉は確かに鏡花には厳しいかもしれない。でも、それは違うな。
「鏡花、あれは真っすぐな言葉だから響いたわけではない。月ストの子たちが自分たちの考えを、想いを、自分の言葉で伝えたからこそ見ていた人に響いたんだ」
「……なるほど」
「例えばの話、あの会見に有希や季乃がいればもっと別の言葉を返しただろう。でも、それはそれでいいんだ。それがあいつらなりの考えであり、想いだから。……まぁYUKINOに関してはもうちょっと世間体とか意識してほしいところはあるが」
「自分の言葉で自分の想いを話す、ということが大事だと?」
「あぁ。その通りだ。そしてそれがアイドルとしても大事な事でもある」
「心しておきます」
鏡花がアイドルとしてどうなりたいかはまだわからない。アイドルを自分の自己を見せる探すための過程にしている以上、それは最後まで見つからないのかもしれない。
でもアイドルになって人前に出る以上、嫌が応にも、古都こと、という存在は作られる。ならば、その古都ことという存在は少しでも輝かしいものであってほしい。きっとそれがアイドルとしてやっていける鍵になるし、自己を見つけることにもつながるから。
「さて、そろそろ仕事を始めようか」
「はい、よろしくお願いします」