アキラの戦い   作:非公開

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 443ページ下段6行目〜446ページ上段10行目に相当


アキラとカツヤ

 アイリが使用した情報収集妨害煙幕(ジャミングスモーク)は比較的安価なものだった。アキラに近くの壁から脱出するという選択肢を取らせることを目的にしていた為、その性能でも問題はないとアイリは判断していた。アキラのその行動が迅速だった為、使用された個数も少なかった。またアキラが壁に穴を開けたこともあり、情報収集妨害煙幕(ジャミングスモーク)は速やかに薄まっていった。

 アキラはアイリの死亡を確かめると、戦闘の途中で手放したブレードを拾って装備した。次にLEO複合銃を構えて引き金を引く。弾は発射されなかった。LEO複合銃はアイリの銃撃によって機能を停止していた。強力なC弾は、もう使えない。

 アキラの武器は、ブレードとユミナの銃のみになった。

 確認すると、ユミナの銃には残弾が殆どなかった。ユミナが勝負に出た理由の一つは、銃の残弾が乏しく、かつ再装填する余裕が見込めないことだった。残弾はアキラに最後の攻撃を加える分量しか残されておらず、本来であればアイリを銃撃した際に使い切っていた。アキラはアイリを銃撃する際、使用する弾丸を抑えていた。仮にそれをせずアイリを銃撃していた場合、アイリの体は原型を留めず破壊されていただろう。

 遠距離攻撃の手段が乏しいのは不味い。そう思ったアキラが、アイリの側にしゃがみ、アイリの銃を使えない考える。しかしアイリの銃は、アキラに銃撃された際に破壊されていた。仮に破壊されていなかったとしても、使用者を制限する機能が存在すればアキラが使用することはできなかっただろう。

 その思案をしていたアキラが、気配を感じた方向を見た。そこにはカツヤがいた。アキラが直ぐに部屋を離れていれば、カツヤと遭遇することはなかった。アイリの銃を利用できないか思案したこと。その際、負荷を抑える為体感時間の操作をしていなかったこと。それらが、カツヤとアキラの遭遇を招いた。

 アキラはアイリの側で立ち上がった。カツヤがアイリを見る。カツヤは総合支援システムの戦闘記録と目視での情報から、アイリが既に息絶えていることを把握した。

 カツヤはアキラに投降を提案しようとしたが、思い直した。ユミナやアイリの仇を取りたいという気持ちはある。だがそれよりも、アキラは投降しないとカツヤが考えていることが理由だった。ここで投降するのならば、ユミナやアイリを殺していない。カツヤはそう確信していた。

 一方、アキラもカツヤに退却を提案することをしなかった。アキラはユミナとアイリという、カツヤが大切にしていた者達を殺した。またアキラは、連戦により装備や体力を大きく消耗している。カツヤがアキラを見逃すとは思えない。仮にカツヤが退却すると言ったとしても、アキラはその言葉を信じられない。カツヤが仲間と合流して再び襲ってくるのでないか。そう考えてしまう。カツヤによる印象送信が停止した今、アキラは冷静にカツヤを捉えることができた。

 アキラとカツヤ。二人はこの瞬間に初めて、互いの心情を深く理解した。最早、対話の余地は無いことも。

 言葉は既に尽きている。残るは相手の命。共にそう認識し、ほぼ同時に動き出す。

 アキラはブレードを抜くと、カツヤに向かって走り出した。ユミナの銃の残弾はごく僅かであり、カツヤと銃撃戦をすることはできない。カツヤをブレードの間合いに収める必要がある。アイリによってある程度被弾したため、アキラの強化服はかなり動きが鈍くなっていた。ユミナに接近した時のような縦横無尽の動きは可能だが、エネルギー残量を考慮すると得策とはいえない。アキラは弾丸とすれ違う覚悟で駆けた。

 しかしアキラの予想に反して、カツヤは最初から銃撃をしなかった。銃ではなくブレードを抜いてアキラを迎えうつ。二人のブレード戦が始まった。

 アキラは、ブレード戦に持ち込めた時点で戦況に自身にかなり有利だと思っていた。その理由は、アキラが持っているブレードの質の高さだ。

 ブレードの強度は性能に大きく依存する。ブレードは、相対的に高性能なブレードの前では打ち合うこともできずに切断される。カツヤは活躍を望まれて比較的高価な装備を与えられているが、アキラがツバキハラビルから持ってきた旧世界製のブレードには及ばない。アキラはカツヤの装備を正確に把握しているわけではないが、そう予想していた。実際にそれは正しかった。カツヤのブレードはアキラやユミナのブレードより性能の低いものだった。本来であれば、アキラの方が有利なはずだった。

 だが戦闘の経緯がそれを覆す。アキラは今までの戦いでブレードを酷使しており、ブレードのエネルギーはあまり残っていなかった。それにより、アキラのブレードの強度は普段よりある程度劣っていた。

 一方カツヤは、ティオルやアキラとの戦いで殆どブレードを使っていなかった。部隊の長として、銃撃戦の指揮を執っていたからだ。その為カツヤのブレードのエネルギーはほぼ全て残っていた。カツヤはそのエネルギーを惜しむことなく注ぎ込んだ。

 結果、二人のブレードの強度はほぼ互角だった。だが長期的には互角ではない。同様の戦闘を続けた場合、先にブレードのエネルギーが尽きるのはアキラの方だ。その事実にアキラが焦りを抱く。その焦りを感じ取ったカツヤが、無理に勝負をする必要は無いと理解して、思考を防戦に偏らせる。

 それがカツヤの隙となった。アキラがブレードの出力を上げ、右から左に薙ぎ払う。カツヤはブレードで受けることをせず、反射的に上に跳んで回避した。単純に考えれば、カツヤには対応可能な一撃であり、ブレードのエネルギーを大きく消費して唯でさえ短いアキラの戦闘の制限時間をさらに縮める自殺行為だ。ブレードの刀身が崩壊する可能性もある。だがアキラはそこに勝機を見出した。ブレードをなぎ払った勢いのまま納刀し、素早くユミナの銃に持ち替える。そしてカツヤに狙いを定めた。カツヤはアキラの意図に気がつくと、即座に銃に持ち替えた。近距離で互いに銃口を向け合う。

 しかし状況は五分ではない。アキラはカツヤより僅かに早く銃を構えている。カツヤは空中を落下しており、アキラの銃撃を回避できない。接地機能を応用して空中に足場を生成し強引に姿勢を変えることは、カツヤの強化服の機能では出来ない。一方アキラは地に足をつけており、空中である上アキラの銃撃を受けて体勢を崩しながら為されるはずのカツヤの銃撃を十分に回避できる。

 アキラは勝利を、カツヤは敗北を思い描いて引き金を引いた。無数の銃声が場に轟く。アキラはユミナの銃を、フルオートで全弾撃ち尽くした。

 カツヤが全身に銃弾を浴びて致命傷を負う、ことはなかった。アキラが放った銃弾が、カツヤに一発もあたらなかったからだ。それは偶然ではなかった。アキラがカツヤに銃口を向けた瞬間、銃の対象認識機能が、至近距離でのカツヤに対しての射撃を停止した。ユミナの銃がその残弾全てを吐き出したのは、銃口がカツヤから外れた後だった。

 総合支援システムは、必要に応じて仲間を犠牲にした射撃を行う。犠牲にする必要がないと計算すれば、その射撃の指示を出すことはない。その為カツヤ達の銃そのものの、仲間への射撃を停止する機能は利用されていない。そしてユミナの銃は、ユミナの死によって総合支援システムから切り離されていた。だからアキラは、ユミナの銃でアイリを撃つことが出来た。

 しかしカツヤは例外だった。ユミナとカツヤが共に戦えば、カツヤは前に出てユミナを庇おうとする。その確信があるユミナは、万が一にも、仮に総合支援システムに指示されたとしてもカツヤを撃つ事がないように、自身の銃の対象認識機能を手動で有効化し、カツヤを射撃対象から外していた。そのユミナの備えが、カツヤの窮地を救った。

 引き金を引いた瞬間の反動を前提に行動していたアキラが僅かに体勢を崩す。一方カツヤは一切被弾しなかった為、体勢を崩すことなくアキラを銃撃した。カツヤはまだ空中にいた為反動を制御できず、アキラの被弾は僅かだった。だが勝敗を決定付けるには十分だ。

 カツヤが着地して、改めてアキラを銃撃しようとする。アキラは被弾して体勢を崩している為、カツヤの銃撃を十分に回避する事ができない。ユミナの銃はカツヤを撃つことができない上、弾切れになっている。そしてカツヤが後方に跳んでいたことにより、アキラとカツヤの間には僅かな距離があった。カツヤにブレードで攻撃する為にはカツヤとの距離を詰める必要がある。その場合、確実に至近距離から銃撃される。

 (不味い!)

 体感時間を操作していたアキラは、状況を正確に把握した。そして未来を予測する。一瞬後にカツヤに銃撃されて致命傷を負う。仮に負わなくても、そのまま追撃を受ければ同じことだ。常識的に考えれば、既に勝ち目など存在しない。

 近づいてくる死の認識が、アキラの意識をさらに加速させる。物体が殆ど停止している世界の中で、アキラは懸命に思考する。今の状況を精査して、事態を打開する手を探す。

 アキラは疑問を抱いた。それは、戦闘を開始した時にカツヤは最初からブレードを利用したことだ。カツヤが現にアキラを銃撃した以上、残弾が尽きていたことはありえない。そもそもカツヤは基本的に部隊で行動しており、賞金首討伐の為の補給線も存在する。一人で行動しているアキラとは異なり、十分な弾薬を持っていることは当然だ。

 では、カツヤは最初からブレードを用いる方が勝ち目があったのか。アキラにはそうは思えなかった。カツヤは特段ブレードの扱いに優れているわけではない。実際、アキラとカツヤのブレード戦はほぼ互角だった。また仮にカツヤがブレード戦で優位に立てると誤認していたとしても、最初から銃撃をせずブレードを利用する理由にはならない。アキラが接近してきた段階で武器をブレードに変えれば良いだけだ。アキラはカツヤが銃を持っていることを知っている為、銃を隠して温存する意味はない。

 カツヤが最初から銃を使用せず、今になって使用した理由。アキラはそれを必死に考えて、一つの結論を出した。

 アキラは、ユミナの銃をアイリに向けた。

 カツヤが最初にアキラを銃撃しなかったのは、アキラの足元で倒れていたアイリを傷つけない為だ。アキラはその可能性に全てを賭けた。

 アキラはアイリの銃を利用できないか検討した為、戦闘開始時にアイリのすぐ側に立っていた。その状態からカツヤに駆けるアキラをカツヤが銃撃すると、アキラの後ろのアイリが被弾する可能性がある。アイリは既に死亡しており、強化服は制御装置を破壊されたことで機能を停止している。力場装甲(フォースフィールドアーマー)は当然存在せず、アキラやカツヤが持つ銃の前では非常に脆弱だ。少し被弾するだけで体が大きく破壊されかねない。

 ユミナの銃は既に弾切れだが、カツヤにそれは分からない。アイリに向けられたユミナの銃が、カツヤの銃撃を浴びて吹き飛び、破壊される。その時には、アキラはユミナの銃から手を離してブレードを抜きながら、強化服の接地機能を活用して全力でカツヤとの距離を詰めていた。現実の解像度を操作し、意識の全てを動きの精度の向上に割り当てる。距離を詰める時間を少しでも短縮する為、切断ではなく刺突の構えでカツヤに向かって駆ける。だがカツヤにとっても大きな勝機であることは変わらない。カツヤはたじろぐことなく、銃をアキラに向け直した。

 アキラとカツヤの目が合う。アキラの目には濃密な殺意が浮かんでいた。ユミナを殺した以上、アキラは生きなければならない。今死ねば、ユミナを殺したことが無駄になる。

 一方カツヤの目が湛えているのは強い悔恨だった。カツヤは仲間を、ユミナとアイリを守ることができなかった。守ると、固く誓ったにも拘らず。

 生きなければならない者。死んでも構わない者。その違いが、最後の一瞬を決定付けた。

 アキラのブレードがカツヤの心臓を貫く。それによって体勢を崩したカツヤの銃撃は、アキラには殆ど当たらなかった。ユミナの銃を破壊せずにアキラを銃撃していたら、カツヤが勝っていた。そしてそれは、今のカツヤにはどうしても出来ないことだった。

 アキラがカツヤの心臓からブレードを引き抜く。心臓を破壊されても、事前に頭部等に生命維持装置を組み込んでいれば生存は十分に可能だ。だがカツヤにとってそれは致命傷だった。カツヤは比較的高性能な装備を与えられている。しかしそれらは、カツヤが活躍を期待された故のものだった。カツヤの望まれた英雄像に、生命維持装置は存在しない。生命維持装置がカツヤの命を繋ぎ止めることはなかった。尤もアキラが目の前にいる以上、生命維持装置の有無が結果に影響することはなかった。

 カツヤの目に倒れているユミナとアイリが映る。カツヤは守れなかった二人に心の中で謝ると、膝をついて倒れ込み、絶命した。

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