アキラの戦い   作:非公開

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アキラとティオル(終)

『早速で悪いんだけど、まずはあれを何とかしてくれるか?』

 アルファとの接続が回復したアキラが、念話による情報の送信によって屋上に這い上がってくるティオルを指し示す。

『任せなさい』

 アルファが自身に満ちた声で答える。アキラはそれを心強く感じるとともに、ブレードを抜いてティオルに向かって走り出した。

 ティオルがその全身から生えている腕でアキラを迎撃する。無数の腕がアキラを殴り殺そうと、縊り殺そうと、捻り殺そうと乱雑に動く。ハンター達の装備を反映して銃や砲と化した腕が、アキラを撃ち殺そうと銃弾や砲弾を乱射する。

 アルファにはそれらの攻撃を見切ることが容易だった。強化服がアルファのサポートを受けた的確な動作で腕の間を潜り抜け、多数の腕を、エネルギーの消費を抑えた最低限の切れ味のブレードで根元から切断する。

 ティオルの腕の大半が切断され屋上の床に落ちる。腕の数が減るにつれ、ティオルの攻撃の密度と頻度は減っていく。アキラは体感時間の操作を温存する程の余裕を持って、ティオルに確実に止めを刺そうとした。

 次の瞬間、切断されたティオルの腕が一斉に動き出した。形状を変えることで強引にバランスをとりアキラを攻撃する。普通の見た目の腕がアキラを掴んで動きを阻害しようとする。ブレードへと変化している腕がアキラを切り裂こうとする。砲と一体化した腕が起き上がってアキラに砲口を向ける。切り飛ばされたばかりで空中を飛んでいる銃の形状の腕が、頭上からアキラに向けて銃撃する。

 全方向から殺到するその攻撃を、アキラは間一髪で回避した。体感時間操作と現実の解像度の操作をアルファのサポートを受けながら併用する。ブレードを用いて一部の腕を切り裂き、突破口をこじ開ける。生まれた弾幕の僅かな隙間に躊躇いなく飛び込む。その非常に精密な動作はアルファが利用できる計算量の変化を反映していたが、アキラがそれに気がつくことはなかった。

 大量の腕による一斉攻撃はその腕自身の殆どを消し飛ばすと同時に、ティオルの本体にも多大な被弾を齎した。アキラは素早く体勢を整えると、ブレードで大きく傾いているティオルの本体を狙う。アキラの雑な横薙ぎはアルファのサポートによって達人の一閃へと変貌し、ティオルの身体の他と比べ僅かに脆弱な部分を、ブレードのエネルギー消費を限界まで抑えながら横に切り裂いた。

 その裂け目が巨大な口に変化し、牙を生やしながらアキラを食い殺そうと襲い掛かる。アキラは攻撃を中断して後ろに飛び退き、距離をとった。ティオルの全身から再び腕が生え始める。何らかの武器か、別のモンスターの部位を基にしている腕の割合が以前より増えている。アキラがそれを見て溜息を吐く。

 『なあ、あいつにはなんか弱点とかないのか?』

 アルファがすぐに答える。

 『ないわ。常に全身の構造が変化していて、核に相当する部位が存在しないのよ』

 アルファがさらに説明を続ける。ティオルは恐らくクズスハラ街遺跡からエネルギーを供給している。その為時間が経つごとに強力になっていく。逃げ切ることも難しい。現在は比較的鈍重な巨体だが、追いかける際には形状を変化させるだろう。距離を取れば素早く動けるよう体を最適化し、狭い場所に逃げ込めば体を小さくするだろう。一度に全身を破壊すれば倒せるが、LEO複合銃を全て失っているアキラにそれは難しい。

 対処を思案するアキラに、突然上空から声が降り注ぐ。それはエレナの声だった。

 「アキラ、離れなさい!」

 アキラが声に従ってティオルからさらに距離を取る。見上げると、そこにはクガマヤマ都市の輸送機が飛んでいた。エレナとサラはイナベからアキラを救助するという依頼を受けると、カツヤ達が構築した短距離通信を含む補給線を辿り、ティオルの腕の一斉攻撃が齎した激しい音と光によってアキラを発見した。

 輸送機の側面からエレナとサラが銃撃する。弾薬を惜しまない苛烈な攻撃がティオルを襲う。ティオルはアキラへの対処を中断し、輸送機を攻撃し始めた。

 『あれでも倒せないのか』

 呟くアキラの横で、アルファが表情を険しくする。

 『アキラ、もう時間の猶予が無いわ。倒すわよ』

 『時間って、あいつは押されているだろう? このまま倒せるんじゃないか?』

 疑問を抱くアキラにアルファが説明する。時間の猶予は二つの点で残されていない。

 一つはティオルだ。ティオルは自身の形態を改善し続けている。先程ティオルは、多数の腕を切り落とされるという事態に際し、腕を使い捨てにする方針を変更し、本体から切り離された腕に遠隔でエネルギーを供給した。ティオルの腕が一斉に動いたのはその為だった。現在エレナとサラは火力でティオルを上回っているが、その状態が継続される保証はない。ティオルは攻撃され続けることにより、輸送機を墜とす為の非常に強力な攻撃手段や、エレナとサラの攻撃に耐えられる強固な装甲を獲得しかねない。

 もう一つはアキラの装備のエネルギー残量だ。度重なる連戦によってアキラの強化服とブレードのエネルギーは尽きかけていた。アルファはエネルギーの消費を可能な限り抑えるように操作していたが、それでも限界はある。ブレードのエネルギーが切れれば、アキラは事実上攻撃手段を喪失する。強化服の力場装甲(フォースフィールドアーマー)が弱まれば、ティオルの些細な攻撃が致命傷に繋がる。強化服のエネルギーが完全に切れれば、アキラは動くことすらできなくなる。

 『少し無理をするわ。覚悟は良い?』

 アキラは迷うことなく答えた。

 『ああ。覚悟は俺の担当だからな!』

 アルファが念話を用いてアキラに作戦を伝達する。アキラはそれを素早く把握すると、ティオルに向けて走り出した。エレナとサラが誤射を懸念して銃撃を中断する。ティオルがアキラに気がついた。ティオルの行動の目的が、敵を殺す、からアキラを殺す、に切り替わる。それによって輸送機が攻撃の対象から外れる。ティオルがアキラを襲おうとする。アキラは走る方向を転換して、ティオルの動きを誘導した。

 ティオルがアキラに迫り、屋上の端に追い詰める。そして殺意の赴くままに、全身でアキラに飛びかかる。アキラはティオルを見ながら、屋上から後ろ向きに飛び降りた。

 全ての銃を失い遠距離攻撃の手段を持っていないアキラを殺す最適な方法は、距離を取りながらアキラを銃撃したり砲撃したりすることだ。だがティオルの遠距離攻撃の手段の多くはエレナとサラによって剥ぎ取られており、そもそもティオルにそのような冷静な思考は残されていない。ティオルは激情に従って、アキラを追って屋上から飛び降りた。

 アキラが持っている旧世界製のブレードは、刀身の崩壊を防止するために単位時間あたりに供給できるエネルギーの量を制限している。ユミナはアキラの左腕を切断する際可能な限りのエネルギーを注いだが、ブレードを急速に硬化することが精一杯だった。

 その制限が、アルファによって解除され。ブレードに残存エネルギーの全てが注ぎ込まれる。その負荷に耐えられず砕け散った刀身が、アルファの緻密な計算によって再構成され、光の奔流と化す。

 ティオルはそれを本能的に回避しようとした。屋上であれば、何とか回避することができたかもしれない。だが今のティオルは空中だ。慣性に従って落下するティオルには、体勢を大きく変えることができない。砲撃の反動を用いれば可能だが、ティオルにそのような知恵は残されていない。それらは全て、アルファの読みの範疇だった。

 アキラが着地する。受け身を取る余裕はない。両足が衝撃に耐えきれず破壊される。強化服がその性能を駆使してアキラの体を強引に支えた。そして、強化服の全てのエネルギーを消費してブレードを振り上げる。巨大な光の奔流がティオルに迫る。回避を諦めたティオルが複数の銃や砲を生成してアキラに向ける。さらに、腕の数本がアキラを真似てブレードへと変化する。それらが同時にアキラを攻撃する。

 決着の直前、ティオルは一瞬だけ我に返った。

(あれ、俺はどうして戦っているんだっけ......)

 アキラのブレードが、ティオルが発射した銃弾と砲弾、振り下ろされたブレードの全てを呑み込みながらティオルに到達し、その胴体の殆どを消し飛ばした。

(そうだ、シェリル......)

 ティオルは最期に想い人の名前を思い出して、その短い生涯を終えた。

 役目を終えたブレードが自身のエネルギーに耐えかねて消失する。強化服のエネルギーが切れたアキラがうつ伏せに倒れた。右手をついて起き上がろうとしたが、重い強化服を動かすことはできなかった。また、強化服の中の右手はブレードのエネルギーに焼かれて手首から先を失っていた。

 『アルファ、倒したよな?』

 アキラが確認する。

 『ええ。安心しなさい』

 アルファが優しく答える。

 輸送機がゆっくりと降下し、中からサラが飛び降りて着地した。ビルから落下したアキラとティオルを追ってきたのだ。アルファが最初からこの方法でティオルを倒そうとしなかったのは、成功したとしてもアキラが戦闘不能に陥るからだった。その懸念はエレナとサラの救援によって解消された。

 サラはティオルが死んでいることと周りにモンスターがいないことを確認すると、アキラの側に駆け寄った。アキラは右手をついて起き上がろうとしたが、重い強化服を動かすことはできなかった。そもそも、強化服の中の右手はブレードのエネルギーに焼かれて手首付近を失っていた。サラがその様子を見て心を痛めながら回復薬を取り出した。

 アキラが回復薬の代金に関することを口にする前に、サラが回復薬をアキラの口に詰め込む。

 『もう大丈夫よ』

 アルファの言葉を聞き、危機を脱したことに安堵して、アキラは意識を失った。

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