元一級呪詛師 スカー・レッド   作:傷んだ赤色

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幕間 零

 夏油の離反からしばらくたった後。

 

 なんとか卒業前に一級に昇格。その際の任務が十中八九腐ったミカンの嫌がらせで特級仮想怨霊の討伐だったが、丁度作ったばかりの呪具が相性が良く殆ど封殺できた。

 

 卒業後は東京の郊外にある廃墟ビルに事務所を置き、フリーの呪術師または呪具作成師として活動していた。もちろん一般人には分からないようになっているが。

 

 独立した後から腐ったミカンからの嫌がらせがかなり激しくなっていた。呪詛師の襲撃は日常茶飯事、高難度の護衛任務や無理矢理任務に同行させた呪術師にわざとミスさせたり不愉快極まる二つ名をつけられたりなどなど。

 

 呪詛師の術式は有効活用させてもらっているし任務も時々死んだが殆ど成功させた。足を引っ張られて失敗した時は原因にしっかり復讐した。他にも、腐ったミカンが嫌いな最近の術式と組み合わせた場合のみ強力になる呪具を大量に流したり、腐ったミカンからの同行者がいる任務をボイコットしたり、あの二つ名で呼んだ奴はぶち殺したりと色々仕返しはしていた。

 

 そんなことをしていたからか、卒業からちょうど2年後に遂に腐ったミカンから『最近の行動は目に余るから封印するぞ』という文が届いた為、私は返事せずに海外へ飛んだ。

 

 そして世界中の都市や海底などの地下に工房を設置して回り、時々襲ってくる呪術師だか呪詛師だかを撃退か殺害、面白い術式持ってるやつは捕獲して保管するという日々を送っていた。時々殺されることもあったが『私』はまだまだあるので問題はない。捕獲した奴らは、まぁ、多分幸せになってるはず。

 

 半年ほど経ったあたりで本当に鬱陶しくなり、思いつきで自分の体の中に『怪物』を入れてみたらこれがかなりハマった。どれだけ強力な術師が複数人で来ても私1人と引き換えで殲滅できる。いい術式持ってるやつが居ても捕獲できないのが難点だが。

 

 世界各地の呪物を研究したり、模倣してみたり、時には少しの間拝借したりしながら最終的に世話になった人がいるロンドンに腰を落ち着ける事にした。日本ほどの魔境では無いがロンドンにも強力な呪術師が何人か居た。その1人に弟子入りしたり、他の1人と殺し合いをする羽目になったりと話題はいろいろあるが、それはまた別の話。

 

 師匠であるバリュエレータという老呪術師に頼んで家を紹介してもらい、荷物を纏めて送り、入居日は今日。ロンドン郊外をゆっくり散歩していたら突然帳が降り、それに五条悟と家入硝子が入ってきた。

 

 

 

 

 

「こんなところで会うとは思わなかったな。しかも硝子まで。事前に連絡してくれればもてなすくらいはできたんだが」

 

 五条は、包帯越しにジッとこちらを見つめたまま何もしゃべらない。ただ苦々し気に口元を歪めている。硝子は珍しく煙草を吸っておらず、懐に手を伸ばしている。

 

「どうした?二人そろって無視するなよ。悲しくなるだろ」

 

「燈子、お願い。私たちと一緒に日本に戻ってきて」

 

 硝子が絞り出すような声で言う。だが私には答えられない理由があった。

 

「無理だな。私は封印指定も呪詛師認定もされてるだろ。それに師匠とも呼べる呪術師に無理言って部屋を貸してもらったんだ入居日当日にやっぱりやめます、なんて言えないな」

 

 何か言おうとした硝子を手で遮り、ようやく五条が話し始めた。

 

「橙子、上には封印指定と呪詛師認定の解除を取り付けてある。戻ってきてくれ」

 

「だから無理だといっただろ?最近少し金を使いすぎたし、家賃も結構な額なんだ。ま、さらに言えば腐ったミカンどもが上にいる日本よりもこっちの方がいいってのもある」

 

「……悪いけど、力づくでも来てもらうよ」

 

「こっちも悪いがお前相手に余裕は無いからな。全力で行かせてもらう。仮想極ノ番『守護の獣(トーテムポール)』」

 

 いかに五条相手とはいえ術式反転や領域展開は強力すぎて使えない。かと言って並の術式じゃ無限が突破できない。私からすればいきなりの遭遇だったので呪具もほとんど携帯してない。一つだけ五条悟に、無下限呪術に対抗できる術式があるが使えば私はほぼ100%死ぬだろう。

 

 でも、それがどうした?降って湧いた貴重な実験の機会。逃せるはずもない。私は笑いながら躊躇無く切り札を切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「構築術式順転、『六眼』。『無下限呪術』」

 

 

 

 

 

 右眼の虹彩が空色へと変わり、呪力が視える。左眼を閉じ、嗅覚と味覚も遮断して少しでも情報量を少なくするが、六眼を構築した際の呪力消費と六眼のフィードバックでもう既に瀕死の状態だ。両眼を閉じていても脳が沸騰しそうだ。

 

「お前、その術式と眼…」

 

「以前襲撃してきた奴の1人が持ってたんだよ。おおかた、何らかの理由で離反した奴だろうが。眼は学生時代に解析しただろ」

 

「覚えてるよ、一撃でも当たったらいうこと聞いてやるってやつだろ」

 

「そうそう、確かそんなのだ。昔を思い出すのもいいが、『六眼(コレ)』を構築したからあと2〜30分程で私は死ぬ。時間が無いんだ」

 

 五条と硝子が顔を歪める。そういえばこの2人は私が死んでも死なない事を知らないのだろうか。てっきり知り渡ってるものと思っていたが自惚れていたらしい。だからと言ってわざわざバラす必要もないが。

 

「……なんでそんなもん構築したんだよ!」

 

「お前に通用するのがこれくらいしか無いし、前々から実験したいとは思ってた。今がちょうどいい機会ってだけの話だよ。ま、死んでも関係ない。そろそろ、やろうか」

 

 あぁ、柄にも無く高揚しているのが分かる。六眼の負荷はとんでもないし、気を抜いたらすぐにでも倒れ込んでしまいそうだが、それ以上に逸る好奇心と全能感が体を満たしている。

 

 今ならかの両面宿儺にすら勝利できるという謎の自信すら湧いてくる。六眼で見る世界はとても不思議だが、これまでの呪力のロスがかなり多いことがわかった。無下限呪術も初めて使うがまるで手に取るように使い方が分かる。

 

「関係ないわけねぇだろ!今すぐ止めろ橙子!」

 

 もう私の耳に雑音は入らない。五条が何かを叫んでいるのが見えても、硝子が辛そうな顔をしているのが見えても、私の心は凪いだままだ。世界があの時とはまた違って、そしてとても綺麗だ。

 

「術式順転『蒼』」

 

 五条が珍しく焦った顔で瞬間移動する。

 

「おいやめろ橙子!無下限同士がぶつかり合ったらどうなるかなんて誰にもわからないんだぞ!」

 

 順転は問題なく使えた。反転はどうだろう。

 

「術式反転『赫』」

 

 よく見ると五条が無下限を解いている。諦めてくれたのだろうか。でも赫はもう発動してしまったから止められない。これも当たらないが技自体に問題ない。

 

 あぁ、こんなに面白いものが手にあるのなら目的が変わってしまう。五条と硝子を諦めさせるつもりだったがそんな事よりもこっちの方が気になる。どうか私の好奇心を満足させてくれ。

 

 最後に虚式を試してみよう。これは流石に五条達に向けられないから、高いところまで行って上に向けて撃とう。帳は破れるだろうが、まぁ何かしらの事故かなんかとして処理されるだろう。

 

「橙子、どこに……ッ!それは流石に洒落にならないだろ!」

 

「術式順転『蒼』。術式反転『赫』」

 

 右手に蒼。左手に赫。言うのは簡単だがこの制御はとんでもないな。一瞬でも油断すれば即座に暴発する。六眼が無ければこんな事はできないだろう。

 

 この六眼で視る世界をしっかり覚えて次の私で呪力消費や制御をもう一度練習し直してみよう。もしかしたら他の術式でも虚式のような事ができるようになるかもしれない。もう一度六眼を構築して他の術式を使ってみると言うのもアリだな。

 

 

 

 

 

「九綱、偏光、烏と声明、表裏の間。虚式『茈』」

 

 

 

 

 

 少々制御が難しかったので、詠唱をして茈を撃ち出そうとした瞬間、一瞬意識が途切れた。とうとう六眼のフィードバックに脳が耐えられなくなってきたのだろう。だがその一瞬は致命的だった。

 

 茈はその場で荒れ狂い、私の体をズタズタにしていく。更に蒼と赫の制御もできなくなり、右手は引きちぎられ、左手は押し潰された。更に更にこのままでは落下によるダメージまで加わるだろう。

 

 正直今のダメージで死ななかった事に驚いたが、すぐ地面に叩きつけられて死ぬ。あれほど体を満たしていた全能感は消え、思考がクールダウンしたのか今になってあいつらに私のことを教えていない事を思い出した。

 

 五条があんなに焦ってたのは無下限を使った事にじゃなくて、私がいきなり自殺そのものな行為を始めたからだったのだろうか。それなら少し悪いことをしたかもしれない。

 

 どうにか師匠に話をつけて日本で合流すれば大丈夫だろうか、と考えながら重力に身を任せていたが一向に衝撃が来ない。先程の茈の暴走で右目が潰れてしまった為、左眼だけ開けて周りを見る。

 

「五条…?」

 

「あぁ、俺だよ、馬鹿野郎」

 

「野郎じゃ、無い」

 

 どうやら私は五条にお姫様抱っこされながらゆっくり降りているようだ。五条は見たこともない悲しげな表情をしている。包帯で眼は見えないが。首を起こす力すら無くなってきて、逆らわずに顔を下に向けると硝子が走ってくるのが見えた。

 

「……そんなに嫌だったのかよ。日本に戻るの」

 

「違う」

 

「ならなんでこんな事した!」

 

 五条が声を荒げる。そういえば五条がこんなに感情的になるのを見たのは夏油が離反した時以来だな。私も一応五条に大切に思われていたのだろうか。でもやはり私の心に波風は立たない。六眼を構築したときに心が凪いでいたのは六眼のせいではなく単純に元からそうだったというだけだろう。

 

 やはり私の心は止まっている。それでも、感情が無くなったわけではない。イラつく事もあれば喜びもするし同情する事もある。だから、多少マトモな感性を持っている人相手に友人が死ぬドッキリとかタチが悪すぎるというのは分かる。

 

「五条ッ!早く診せて!」

 

 硝子が声を荒げるのも初めて聞いたな。まだ伝えなくてはならない事があったがもうそろそろ体が限界だ。

 

「明日、空港で待ってろ」

 

 そこで説明する、という言葉は出なかった。

 

 

 

 

 

 眼を開けるとそこには大量の『私』。初めて見る(・・・・・)かつての私が作った工房。扉が開いたままのクローゼットから服を出し、着ながら新しい私を一つ作る。

 

 ストック自体はまだまだあるが消費し続けるだけではいずれ工房内のストックが無くなってしまう。そうなれば私にも工房の場所は分からず、補充もできずいつの間にか次の私が無くなってた、なんて事になりかねない。

 

 ぱぱっと私を作り保管しておく。次は工房から出て普段使っている工房に向かわなくてはならない。工房は引越し前に作ってある為すぐに使える。工房で六眼を使った事による影響や呪力運用について纏めながら師匠に電話を掛け、何とか日本に行く許可をもらう。追加でいくらか払う事になったがそれは五条にたかれば大丈夫だろう。

 

 空港にいた二人に驚かれ、怒られ、甘味と煙草を相当な数奢ることでようやく許してもらった。金はロンドンの部屋に残した呪具を師匠に売ることで何とか捻出し、無一文になることだけは避けられた。そうして何年振りになるかわからないが、私は日本に降り立ったのだ。そして予告されたテロに向け、準備を重ねていく。

 

 

 

 

 

 12月24日 京都

 

 大通りに数多の呪術師が揃う中、私は街灯に寄りかかり煙草を吸っていた。さっきから私を睨みつけてくる京都校の学長も、上層部側だろう監視している呪術師もただ煩わしい。

 

 京都校の生徒には何人か面白そうな奴はいるがその他は殆ど雑兵。興味が湧く術式を持っている奴もいない。相手する価値もない。これだったら東京で生徒に渡した呪具を観察していた方がまだ有意義だ。煙草もそろそろ一本吸い終わってしまう。

 

「お久しぶりですね、蒼崎先輩」

 

「……ん?あぁ、後輩だったか?悪いな、人を覚えるのは得意じゃないんだ」

 

 金髪にサングラス、ライトグレーのスーツにブルーのシャツとかなり珍しい色合いのスーツを着た呪術師が話しかけてきた。向こうは私のことを知っていて先輩と呼ぶという事は在学中の後輩なのだろうが、全く見覚えがない。

 

「お気になさらず、それほど面識があるというわけでもありませんから。一応改めて自己紹介を。一級呪術師の七海建人と申します。よろしくお願いします」

 

「あぁ、よろしく。知っているだろうが工房、伽藍の堂で店主をしている青崎橙子だ。いくらかの金と材料があれば呪具の作成も請け負っているから興味があれば来い」

 

 とりあえず挨拶はするがやはり見覚えも聞き覚えも無い。なので寄りかかったまま煙草も消さずに話を聞く。

 

「では本題ですが、私含め準一級以上の呪術師は蒼崎さんの監視も任務内容に含まれています。少しでも怪しい行動を取ればその時点で蒼崎さんの討伐が決まりますのでご注意を」

 

「さっきから感じる視線はそれか。ちらちらとうざったい」

 

 視線の方に顔を向ければ数人は慌てて目を逸らす。見てましたと言っているようなものだが、そんな事をするのは準一級、せいぜい一級の底辺あたりだろう。呪詛師を追跡してる時にあんな仕草をすれば即バレるから、対人慣れしていない、一級の中でも練度が低い奴らだと分かる。

 

「まぁ彼らもそうですが監視に含まれる呪術師には五条さんの教え子もいます。皆殺しなどにすれば彼等も巻き込まれるので気を付けてください」

 

「脅しにしては下手だな。私ならその程度の判別は容易い」

 

「上層部からこれを言えとの命令でしたので言ったまでです。学生時代の蒼崎さんを一方的とは言え知っている身からすれば無駄な話だと思いますがね」

 

 そう言う七海は何処か呆れたような雰囲気でため息を吐く。やはり今だに上層部は腐ったミカンの塊らしい。

 

「さ、そろそろ奴等のお出ましだ。さっさと終わらせるぞ」

 

 橙子が視線を向けた先にはビル、道路、街灯など至る所を埋め尽くす呪霊の波とでも言うべき群れが向かってきている。いくらか特級相当の呪霊も混ざっているあたり夏油も中々手駒を集めていたらしい。

 

 こちらも数で対抗できる手段はあるが使い捨てになってしまう。しかし監視がある中で極ノ番を使いたくない。使い捨ての手札を切るのは勿体無いが、正直残しておいても使える場面は無いだろうからコンセプトに合致しているこの場面で使うのがベストだ。

 

 私の中で少し首をもたげてくる勿体無い精神を何とか封じ、ええい、と起動鍵を口にする。

 

「起きろ、名の集合(シェムハムフォラエ)

 

 ソレは闇夜を切り裂き天より舞い降りた。いくつもの光が降り注ぎ、そしてそれに包まれて降りてくる様は正に天の使いそのものである。右手には剣、槍、メイスなど様々な武器を持っているが、左手は皆同じ盾を持っている。それが武器も鎧も違う天使たちに歪な統一感を生み出している。

 

 しかし天使たちは髪も肌も鎧も構成する全てにおいて石膏を思わせる白であり、その眼に虹彩などは無いがそれでも見えているのか、呪霊の波を睨んでいる。

 

 実は光などの演出は組み替えた結界術で天使の保護だったり、天から降りてきたのははるか上空を浮遊する工房から単純に飛んできただけだったりする。演出がクサすぎる気もしたがこれでヨシとした。

 

「術式対象、呪霊。防衛対象、タグ保持者。行動開始」

 

 術式対象を指定して攻撃のターゲットを無差別から呪霊のみに絞る。次の防衛対象の選択は事前に渡していた私の呪力でマーキングしたタグを所持している人間に一騎の天使が付き、その身を盾にする。

 

 いちいち対象を選択、宣言しなければならない為隙が大きいことと知性のある相手などには行動を看破されてしまうという弱点があるが、細かく行動や対象を指定できることが強みだ。

 

 発音によるトリガーで天使たちが動きだし、72騎の天使のうち防衛しているもの以外が呪霊に真正面から突撃していく。手に持つ武器で呪霊を斬り、打ち、貫いていくがそれで祓えるのはせいぜい三級までが良いところでそれ以上の呪霊には受け止められたり、そもそも通じていなかったりとダメージにならない。

 

 呪霊の反撃は盾で受け止めるか避ける事で流れられているが数騎が囲まれ砕かれる。耐久性が低いのは縛りの影響でもある為仕方がないがやはり少々脆すぎる気がする。

 

 呪術師、天使の連合が呪霊に果敢に攻めていくが二級から一級の呪術師の数が少なく、したがって敵の一級呪霊などの祓除が進んでおらず被害が増えてきている。何か術式があるなら別だが三級や二級の術師など一級呪霊に容易く踏み潰される雑兵でしかなく、余波で容易く死んでいく。

 

 そろそろ天使の損害が20を超えてきた為天使の本領が発揮され始める頃だ。私は何もせずに立って煙草を吸っているだけでも大丈夫だが多少は働かなくてはならない。五条から呪物が貰えなくなってしまうからな。

 

 一度目を閉じ再び開ける。そのワンアクションで眼の切り替えは終了する。視界に入る呪霊を纏めて対象に左眼の力を使う。

 

 『積重魔眼』と呼んでいるこれは眼の中に眼を構築する事で合わせ鏡のように無限に効果が増幅していく。瞬きで効果が解除されてしまう弱点はあるが、この眼からは五条悟すら逃れられない。

 

 呪霊が止まったことを確認した天使は上昇しながら後退し、陣形を組む。そして天使は一斉に武器を掲げて祈りを始める。50あまりの天使から光が呪霊へと飛んでいき、呪霊を消滅させる。それが三回繰り返され、大通りの呪霊はあらかた一掃された。

 

 同時に天使もガラガラと崩れていってしまう。今になってやっぱりちょっと勿体無かった気がしてくるが今更だ。思考を切り捨てる。

 

 後はポカンとしてるその辺の呪術師たちが何とかするだろう。あとは適当に移動しながら祓ってれば終わりだ。

 

 あとは他の奴らがどうにかするはずなので私は待機していれば良い。と、思ったが天使を連れて屋根の上を跳ねる何人かの術師が目に入った。高専の制服を着ているが東京の3年生ではないのであれは京都校の生徒たちだろう。

 

 ふと、面白そうなのがいた事を思い出した。橙子にしては珍しく走って京都校の生徒の元へ向かう。

 

 

 

 

 

 12月22日 東京

 

 パンダ達と鍛えた後、部屋に戻る途中にその女は居た。

 

「面白いな。………気付いてないのか?それなら教えない方がいいか。君、自分の力についてもう一度考えてみな」

 

 モノクル(・・・・)の女が優しく諭すように言う。右目のモノクルをずらしてこちらを覗き込む目に声色から感じた優しさなどは無く、まるでおもちゃを見つけた子供の目だった。それも、とびきり残酷な。

 

「……いきなりなんだよ。お前高専の関係者か?」

 

「五条から知らされてなかったか?まぁ良い、私の名前は蒼崎橙子。元一級呪術師だ。君は?」

 

 声色、態度、雰囲気、どれを取っても欠片も敵意は無い。しかしその中で異様にギラついた目が私に彼女が危険だと訴えてくる。しかも元とはいえ一級呪術師。御三家側かも分からない以上警戒するに越した事はない。

 

「……禪院真希」

 

「なるほど、禪院の家か。…お前の特殊性も禪院だからこそか?アイツも伏黒とか名乗ってたが旧姓は禪院だったな。なぁ、君の身の上の話を聞かせてくれないか?」

 

「話すわけねぇだろ」

 

 いけないとわかっていても多少イラついてしまう。

 

「仕方ない、ちょっと覗くぞ」

 

「ッ!」

 

 伸ばされた手を咄嗟に払って飛び退く。見た時に、本能的にあの手に危険を感じた。何らかの術式か、呪具か。どちらにしろアレはダメだ。触れられたが最後抵抗すらできなくなるものだ。確証なんて全く無いが確信している。

 

「抵抗するなよ、危害を加えるわけじゃない」

 

 女の眼を見た瞬間、身体が全く動かなくなる。眼球を動かすことも息をすることもできない。声も出ない。死が迫りスローに見える世界の中、私は身動き一つ取れない。

 

 頭に、手が、触れ……た?

 

「これがお前か。よし、大方は把握した。君か妹が死んだらぜひ私の元へ来てくれ。悪いようにはしないさ」

 

 突然消えた死の恐怖に私は戸惑い、震える足を何とか抑え込んで立つことしかできない。身体が動くようになったことなんて理解しておらず、ただただ震えた。

 

「妹にも伝えておいてくれ。じゃあな」

 

 少し後にパンダに見つかり、家入さんの所へ連れてかれ、そこで更に呪詛師だった事を知り、私は大いに混乱した。

 

 

 

 なんで、今こんな事を思い出したのだろうか。走馬灯はもっと一から思い出すものだと思っていたが。

 

 特級に一矢報いることすら出来なかった。多分今度こそ死ぬ。絶望、未練、後悔。いろいろなものが渦巻いていた私の思考はすぐに黒へと塗りつぶされた。

 

 

 

 

 

 京都校の生徒たちは濃いというかアクが強いというか、とにかく癖のある奴らだった。禪院の片割れと東堂以外はパッとしないが。

 

 もう出来ることもないし高専に帰ろう。京都だと御三家など面倒な奴に会う可能性が高いのでもちろん東京校に。トーコ・トラベルのあの感じはあまり好きでは無いのだがアイツらよりはマシだ。

 

 お薬を塗ってそこらの店のロッカーにあった箒を拝借してまたがる。意識がふわふわしてくると同時に浮かび、進んでいく。

 

 ここからの記憶がほとんどないが無事に目的地に着けているので問題無し。というか元々こんな感じなので問題しかないと言われるとその通りなのだが。

 

 

 

 

 

「バイバイ、元気でね。あんまり早くこっちにきちゃダメだよ?」

 

「…うん、またね」

 

 

 

 

 

「五条、夏油の死体はどうした?」

 

「こっちで処理したよ。硝子にさせるべきじゃないだろ」

 

「…案外、お前にも人の心はあったんだな」

 

「…だね。で、どうだった?元呪詛師から見たうちの生徒たちは」

 

「まだかなり幼いが面白そうな奴が多かったな。もし誰か死んだりしたらこっちに回して欲しいくらいには」

 

「…………ホント、マッドだよねー」




次で最終回と書きましたが1〜2話増えそうです

呪術本誌の展開が怒涛すぎて…
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