第二条をどうぞ。
①七月二十五日
不思議な体験をした夜、あたしは家に帰ってからすぐに眠りについた。ホントはおふろにも入りたかったんだけど、慣れない戦闘の疲れでそれどころじゃなかった。
昼前にようやく目が覚めると、机には食事が並んでいた。
「ん? これは?」
「涙子様、おはようございます」
鉢かづきちゃんが挨拶をしてきた。時間的にはもうこんにちはの時間だと思うけどね。
「おはよう、鉢かづきちゃん。このごはんって、もしかして鉢かづきちゃんが作ってくれたの?」
「はい。『鉢かづき姫』の中では風呂焚き女でしたから、その程度はお茶の子さいさいでございます」
自慢げに胸を張る鉢かづきちゃん。風呂焚き女って別に食事を作る掛じゃなかったような……。
とはいえ、鉢かづきちゃんの用意してくれた食事はあたしが自分で作るよりもよっぽどおいしかった。むう……料理には自信があったんだけどな……。
さて。
「鉢かづきちゃん、あたしは今日友達と集まる予定があるんだけど、鉢かづきちゃんはどうする? カギは一つしかないし」
これが普段の集まりだったり遊びに行く用事だったりするなら鉢かづきちゃんもつれて行ったりするんだけど、今日だけは別だ。
「私は、どこに行くでもありませんから家で過ごさせていただきます」
「そう? じゃ、適当に雑誌でも読んでてよ。それじゃ」
軽く挨拶を済ませて家を出る。
あたしが向かうのは、ある
あたしが
普通の事件であれば例え被害者であっても身内や知り合いが事情聴取に当たるという事はないけれど、今回は事情が事情であるためにそうでない場合が少なくないのだと白井さんは言っていた。
事情聴取では、
あたしが一つ一つ説明する最中、御坂さんはじっとあたしの顔を見つめていた。
「それでは、これが最後の質問になりますの。佐天さんは、この一件を経て今どう感じていますの?」
それなりに時間のかかった事情聴取もようやく終わりになるらしい。
この質問に、あたしは今思っていることを、本音で告げた。
「……
一瞬、部屋のなかの空気がピリッと変わったような気がした。
あたしは、気にせず言葉を続ける。
「この学園都市という街で、超能力は自分を構成する大事なアイデンティティです。
明らかに話を聞いている上司たちの表情が悪くなる。反省していないと思われているのかもしれないけれど、反省自体はちゃんとしている。
「……ただ、これからは超能力にこだわることなく頑張っていきたいと思います。そもそも、
あたしの場合は
学園都市で高レベルの能力を持つことは、自分に自信を持ったり、事件を解決したり、犯人を捕まえたりと、自分を確立させたり役に立つことにつながる。それは確かに良い事だ。
でも、人の価値はそれだけじゃない。
例えば、レベルなんて関係なしに友達の心の支えになることが出来るかもしれない。
例えば、
きっと、そういうものなんだ。
「……そうですの」
あたしが話し終えると、白井さんが口を開いた。
「以上で事情聴取は終わりですの」
「あ、はい」
こんな感じで、あたしの事情聴取は終わった。
正直に言うと、昨日の夜の時点では全くあたしの考えはまとまっていなかった。
けれども、鉢かづきちゃんと出会って、思うようになった。
超能力だけがすべてじゃないんだなという事を。
白井さんと初春はこの後も事情聴取があるのだそうで、支部から出てきたのはあたしと御坂さんの二人だった。
「佐天さん、ちょっと公園でお話しない?」
「……いいですね」
ちょうど近くに公園があったので、あたし達はそこへ向かった。
公園に着いて辺りを見渡すと、ちょうど木陰の中にあるベンチが目に入った。
「佐天さんはそこで先に休んでてよ。私、ちょっとジュース買ってくるから」
「そんな、いいですよ!」
「いいからいいから」
「それじゃあ……今お金出しますね」
「いらないわ、私の驕りよ」
「そ、そうですか」
ほとんど押し切られる形で、あたしは先にベンチに座った。
ジュースをおごってくれるなんて太っ腹だなあ、なんて思っていたら、御坂さんが自販機の側部に蹴りを入れた。
「チェイサー!」
すると、自販機から二本のジュースがガコンと出てきた。
……良いのかなアレ……。
どこか満足げな御坂さんがジュースを持ってあたしの横に座り、あたしにジュースを手渡してくれた。
いちごおでん……相変わらずこの街の自販機のメニューはどこかおかしい。試供品だという話だからそれは仕方ないけれど。
お互いに缶を開けて、一口飲んだ。
うーんなんて微妙な味。
「……御坂さん」
「何かしら、佐天さん」
「えっと、今回はご迷惑をおかけしました」
「……いいのよ、別に。気にすることじゃないわ」
「本当に、ありがとうございました」
本当は、謝罪や感謝を述べる相手はもっとたくさんいるんだけど、とりあえず今は、ひとりだけ。
「御坂さん。あたしね、能力が使えない事がずっとコンプレックスだったんですよ。超能力が欲しくて学園都市に来たのに、能力が得られないなら何の意味も無いじゃないですか」
「……」
「でも、今回の顛末を聞いて思ったんですよ。別に超能力にこだわらなくてもいいんじゃないかって。御坂さんも白井さんも初春も、皆超能力以外のところにも魅力があるんですから」
超能力にこだわらなくなった経緯には『月光条例』のこともあるけど、別に言わなくてもいいよね。言ったところで信じてもらえるとは思えないし。
「ま、無能力をコンプレックスに思うのは多分変わらないんでしょうけど」
あたしは、ハハ、と冗談めかして話を〆る。
「ごめんなさい、佐天さん」
すると、今度は御坂さんが語り始めた。
「私、佐天さんの痛みに気づいてあげられなかった。自分が
「御坂さんが気に病むことはありませんよ」
「佐天さんはそう言うけど……でも、私達、友達だから」
友達、か……。
「だったら、なおさらですよ。今回の一件は、あたしが巻き込まれちゃっただけ、そういう事なんです」
「……なら、そういう事にしておくわね」
あまり納得していない様子の御坂さんだったけど、あたしの目を見てこのまま言い合っていても埒が明かないと判断したのだろう。
「佐天さん、この後は何か用事ある?」
「いや、特にないですけど」
「それじゃ、ゲーセンに行きましょう! 私たち二人だけってのも珍しいし」
「いいですね! 今日は遊びましょう!」
そして、その言葉の通り、あたし達は完全下校時刻いっぱいまで遊んだ。
今回は殆ど『月光条例』関係ないですね。